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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第二話~夏休み中旬~
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案内4

 とりあえずコレクションを見させてもらった感想としては、俺達に関することはなかったなというものだった。まぁ当たり前なんだろうが。あったらあったで面倒事になるけどな。


「いかがでしたか?」

「まぁ、多少面白かったですよ。まさか祖先の日記とかを展示しているとは思いませんでした」

「そうですか? 保存状態を気にしなければなりませんし、過去に何があったのか分かる以上は歴史的価値を持ちますし」


 そういうものかねと思っていると、「あの、御婆様?」と美夏が恐る恐る口を挟んだ。


「何ですか、美夏?」

「ええと、何故彼と親し気に話をしているのですか? 途中から解説役をしておりましたし」


 やっぱり身内の、しかも指導された相手だと聞きづらいのだろうか。俺の場合はそんなもの何一つなくて、ただただ口が悪くなっていく一方だった気がする。うん。


「あら、いけませんか? 可愛い孫が話題の人物を連れてきたのですから。その為人(ひととなり)を実際に会って話して確かめるのは」

「確かにそうですが……」

「分かればいいのです……さて、八神さん」

「はい?」


 話を振られたので返事をすると、「この別館にもう面白いものはありませんし、どうでしょう? 道場の方へ向かいませんか?」と言われた。


「道場ですか?」

「ええ。貴方のその腕を見せてもらいたいの。美夏に招待されたというのに申し訳ありませんけど」

「……はぁ」


 どういう意図だろうか。俺の事はある程度知っているはずだというのに。

 基本的にひけらかすことはしたくない。埒外な存在である自覚がある以上、むやみやたらにやる気はない。それは、向こうも理解しているはずだろうに。


 脅しても良いんだが客として来ている以上、そして美夏がいる以上は大人しくしておく必要がある。そもそもアウェーだし。


「どうでしょう?」

「まぁ、良いですよ。軽くで良いのなら」

「ありがとうございます。ではすぐに行きましょう」

「はい」


 そう言ってきびきびと動き出したので俺はそれに合わせてついていくことにし、動かなかった美夏の背中を叩いておいた。



 道場が別館とは反対側、ということで別館から出てきた俺は時計を見る。

 時刻は十一時を少し回っていた。このまま道場へ向かうとなると昼過ぎるんじゃないだろうか。終わった後は。

 そんでもって一家団欒のところに混ざるのか昼食。きついなぁ。

 この後の予定を予想しながら歩いていると、美夏が右腕の裾を引っ張ってから「どうして受けたのですか?」と小声で聞いてきた。


「そうだな……何かしてほしいんだろうなと思ったからだな」

「何か、ですか?」

「じゃねぇといきなり道場へ行くなんて言い出さないだろうし」

「ええそうです。八神さんには誠に申し訳ないのですが、相手をしてほしい人が居るのです」


 話を聞いていたようで、歩きながら答えを言われた。美夏は驚いていたが、俺は誰の相手をしてほしいのかという疑問を考えていた。

 が、割と結論が出ている。美夏のいとこなのかはとこなのか知らないが、此処に来た時に当主に同行していた咲耶という女。なぜか知らんがそれなりに敵愾心を持たれているようだし。


 あれかね? 突如として親し気な奴が現れたから嫉妬かね?


 軽くやるにも加減が大変なんだよなぁ。なんてぼんやりしていると、「この道場は私達のSP達も訓練する時に使用するんです」と突如説明された。


 ……SP達も関わらないといけないのか、これ。面倒だな。

 いつきの家が圧倒的だと言われている以上、他は全然弱い(俺からしたら)のだろう。だから俺がいる今にレベルを上げたいという魂胆だと理解が出来る。


 これが自惚れだったら良いんだがなぁと思いながら「SP達って宿舎みたいなのがあるんですか?」と訊いてみる。


「ええ。ここに来ている間の各SP達も滞在できるように。今は二十名ほどしかおりませんが」

「レベルは?」ちょっと踏み込んでみる。

「本宮家を除けば優秀だと自負できます」

「へぇ」


 ずいぶん自信があるなぁとサヨ子さんの話を聞いていると、「到着しました皆様」とユエさんが立ち止まって報告した。どうやら到着したようだ。


 建物を見てみると、結構横に広い。学校の体育館がそのまま建っている印象を受ける。

 ここまで広い必要があるんだろうかと思いながら、おとなしく入る。



 中で待っていたのは道着に着替えていた咲耶だった。


「お待ちしておりました」


 いつ頃から待っていたのか分からないが、正座していた状態から立ち上がり、お辞儀をする。


「まずは自己紹介を。高島咲耶と言います」


 それを受けて俺は彼女に近づいてから「八神つとむだ。さぁ、やろうぜ」と促した。


「ありがとうございます。では」


 そう言うと彼女は左足を引き、構える。

 いきなりの事に美夏が困惑しているようだが、周りの圧が声を上げることを許さないのだろう。


 俺は構えない。構えが存在しないというのもあるが、ただ傲慢に、相手の低すぎる実力に対し何もする気が起きないだけだ。向こうがどう思っていようが、俺側からの適正な評価を態度で示してるだけだ。


 さてこれを受けて向こうはどう動くのだろうかと観察していると、向こうは動かない。機を見ているのか俺が構えていないからかなのかは判断できないが、こちらに強い視線を向けるだけで微動だにしない。


 まぁ別に俺が知ったことじゃないからなと思いながらボーっと眺めていると、外野から声がかかった。


「咲耶。貴女が希望したことです。その身で感じなさい」

「御婆様。一体どういうことなんですか? なぜ咲耶が……」

「美夏。それに今は答えません。終わってからです」

「「……」」


 美夏からは心配している気配が。前方の咲耶からは緊張した気配がそれぞれ感じ取れる。

 俺も発破をかけた方が良いのだろうかと思っていると、ついに向こうが動いた。


「はっ!」


 その声と共に咲耶が距離を詰めて来る。とはいってもそこまで素早くない。これだけでも実力の低さが窺える。

 俺の前に来た。右腕が後ろに引いてるところから見て正拳突きでもしてくるのだろう。

 握り拳が右脇から出て来るのがコマ送りのように見える。大概の攻撃はこうだ。例外なんて町の俺より歳上な奴らか、親父やお袋、いつきの家のSPくらいだ。


 別にこのまま受けてもいいが……なんとなくあの人が期待している事じゃない気がするんだよな。

 少しづつ迫りくる拳を尻目にそんなことを考えた俺は、軽く足払いをする。


 そう、軽く。俺からしたら。

 手加減は何時も以上にした足払い。踏み込んできた左足を軽く左足で払った結果。


 彼女は受け身をとれずに、俺の脇を顔面ダイブする形で通り過ぎた。




 その瞬間を、彼女(・・)は理解できなかった。

 無防備な相手に先手を取ろうと近づいた。それは間違いない。

 が、気付いたら自分が床に倒れていた。


「??」


 鼻が痛いのが現実だと教えてくれる。だが何をされたのかが分からないから起き上がれない。


「もういいか?」


 気だるげで、やる気も何も感じられない男性の声が頭上から投げかけられる。

 それはまるで興味のなさを前面に出した感じで。

 その声に悔しくなりなんとか立ち上がる。


「分かったか?」


 感情が分からない男性。ただ、その口調は彼女を諭すようだった。

 再び構える。男性の言葉を振り切るような形で。まだやれるという自信を見せて。


 それが、男性にとって呆れ果てる行動だとは彼女自身微塵も考えなかった。


 その結果。彼女の意識は途切れた。



「百年はえぇよお前には」

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