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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第二話~夏休み中旬~
202/205

案内3

 そのあと一階の施設を軽く説明された。まぁ車庫や風呂場、さっき入った食堂に大広間ぐらいだが。


 で、大広間。

 薄々分かっていたが、美夏の両親がまるで俺達を待っていたかのように座っていた。


 部屋を入ってすぐに眼鏡をかけた中肉中背の堅物そうな男性が口を開いた。


「初めまして、だね八神つとむ君。君の父親には割と被害を被った人間だ」

「……なんか、すみません」

「まぁ私達の話を息子の君に話すのはお門違いだな。こちらこそ失礼した。私の名前は白鷺幸也こうやだ」


 ソファからきちんと立ち上がって頭を下げる彼につられ、俺も「どうも」と頭を下げる。


「礼儀正しいね、君は」

「あなた、私も自己紹介していいかしら?」

「ん? ……ああ、いいとも」

「頭を上げていいですよ、八神君」


 言われたので素直に顔を上げる。声が若干美夏に似ているのに気付いたが、その事について言及せずに幸也さんの隣でほほ笑んでいる女性を観察する。


 美夏がそのまま年を取った感じ。背丈が美夏と変わらず、雰囲気も、おっとりとしつつどこか観察しているような感じ。

 体型は……サイズの大きい服を着ているからか分かりづらい。全体的にダボッとしているので、細い方なんじゃないだろうか。あんまり観察していると面倒な勘違いが発生しそうなのでもう切り上げる。


 彼女は頭を上げた俺を見てから自己紹介を始めた。


「私の名前は白鷺秋子(あきこ)です。娘が普段とは違う熱のこもった話をする殿方とお会いできて光栄です」

「お母様!? な、何を」

「そうなんですか。こそばゆいですね」


 彼女の発言を遮る形で感想を言う。そうすれば余計なことを掘り返すこともないし。

 その対応に幸也さんは「しかし、八神君。すまなかったね娘の提案に付き合わせて」と話題を変えた。


「いきなりここは想定外でしたけど」

「そうだろうね……まぁあの時に予定していたから」

「……?」


 な~んかこの人最近見たことあるな……?

 話の内容とは関係なく、幸也さんを見て不意に既視感を覚える。

 一体どこで見たんだったか……と内心で首を傾げたところで、不意に気付いた。


「バイト先に来たのか最近?」

「ほぅ」


 俺の呟きが聞こえたのか幸也さんが感心したように呟いてから腕時計を見る。

 なんで見ているんだ? と思っていると「三分弱……一度しか、しかも客としてしか対面してなかったのに思い出せるとは……流石だな」と言われた。


 何故試されていたんだろうかと訝しみながら「それはどうも」と思わず言ってしまう。


「あなた」

「む。すまないなつとむ君。つい試すような物言いで」

「それは構いませんが……どうして?」


 意図が気になったので質問してみると、「美夏が態々会う場所を指定した以上、何かがあると思っていたが話を聞いてみたところ驚いたからね」と言われた。


「そうですか」

「更にお義父さんが直接出迎えたという事実もある。そんなことをする理由があるくらい、君に特別なことを感じているのは想像できる。試す物言いになったのは……まぁ偶然だ」


 ……誤魔化してる感じはするが、嘘を言っている感じもねぇ。多分、最低限の目的だけを隠した説明って感じだ。

 聞き流しながらそう分析し、そのうえで俺は「俺を試しても意味ありませんよ」と言っておく。


「そうかね? 私たち年代では君のお父さんが暴れまわった前科があるからね。それに警戒する意味でも試すのは悪くない事では?」

「そう言われるとそっすね……」

「もう、そうやって過去の事を引きずらないでください貴方。今の対面で彼の父親とは違うことは明らかじゃないですか」


 秋子さんがそう反論した後に、こちらに顔を向けてにこりと微笑む。

 その笑みに何か俺やらされるのかなと思っていると、「美夏があなたの事を気に入っているのが少し気に入らないだけですから」と言われた。


 その言葉に俺は思わず「はぁ」と漏らしてから、娘を持つ親ってみんなこうなるのかなと親父を思い出しながらぼんやりと思った。



「で、次はどこへ案内してくれるんだ?」

「そうですね……」


 それから少しだけ話をして大広間を後にした俺達は、次の場所について決める為に廊下で話をしていた。ちなみに現在の時刻は11時になろうとしている。


「この館自体残っているのが車庫ぐらいですので、説明するところが別館なんです」

「別館ね……一回出ないとダメなんだよな?」

「十分ぐらいで着きますよ」

「意外と近いな……」


 ……まぁ、このまま別館回ったら昼過ぎるんだが。朝食遅かったから向こうの都合がいいか逆に?

 なんて相手の心配をしてから「そんじゃ、案内してくれ」と促した。


 別館までの道中にそれほど会話はなかった。というより、必要がなかった。だって美夏を抱えていけば半分もかからんし。

 あっという間に別館に着いた俺は美夏を下ろし、周りを見渡す。

 最初に来たときに思ったが……敷地内の植物凄いな。


 そうやって庭、というよりも別館とは別の方へ視線を向けていると、「はぁ」と美夏がため息をついたのが聞こえた。


 今更じゃねぇかと思いながら、「この庭って誰の趣味なんだ?」と話しかける。


「この庭ですか……御爺様と御婆様ですね。SPの方々と、ここで一切の補佐を行っております岱玄(だいげん)さんとユエさんが手入れをしています」

「なるほどなぁ……滅茶苦茶大変だろうなこれ」

「ええ。大変みたいです……では入りましょうか」

「おう」


 あの最初に会った執事の人、岱玄っていうのか。

 ちらっと出てきた情報でこれまでにあった人を補完しながら、美夏が気を取り直したのか扉を開けたのでついていくことにした。



「こちらが別館です。階層は本館と違い二階建てですけど、こちらは御爺様達の趣味だけがあります」

「建物丸々一つが趣味か……流石に規模がでけぇな」

「本宮さんの家にはないんですか?」

「いつきの家は本館とSPの家があるくらいだな。招待する場所にないからだろうけど」


 他にも何件か家があるっていう話を聞いたこともないから多分、あそこ以外家を持ってないんだろう。


 ……そう考えると俺もいつきの事全部知ってるわけじゃないんだな。別に知らなくても良いけど。

 ひょっとしたら聞いたら教えてくれるんだろうが……まぁ別に大したことじゃないからいいな。


「本宮さんは招待する必要ありませんからでしょうね……後は展示するものとかがないからでしょうけど」

「展示? この館が展示館なのか?」

「ああ、違います。中に入ればわかるんですけど、有り体に言えば倉庫みたいなものです。絵画や鎧などがあるんです」


 どっちかというと美術館とか資料館みたいな建物なのかここはなんて思いながらも、屋内に俺達以外の人の気配を感じた。

 別にさっきの場所でも感じていたが、此処で感じているのは二人だけだ。態々ここにいる理由が分からん以上、気にはなるというもの。

 が、口にするのも面倒なので「二階から行くか?」と催促する。


「そうですね。上から紹介いたしますね」




「二階は御爺様、というより、先祖代々受け継がれている骨董品の数々です。軌道に乗り始めたころから現在までの記録として自分達で保存しているんです」

「保存って……まんま美術館かよ。修復は人呼ぶのか?」

「よほど酷くなったなら、ですね。そこまでひどくなること自体殆どありませんが」

「ふ~ん」


 階段をのぼりながらそんな説明を受ける。

 なんで寄贈しないんだろうかと思っていると、「この階が骨董品が収納されている場所です」と上り終わった時に言われた。


 たいして興味はないが、ひょっとすると関わりのある(・・・・・・)ものがあるんじゃないかと思い「中に入れるのか?」と質問すると、「見たいですか?」と後ろから質問されたので普通に振り返る。


 そこに立っていたのは着物姿の老齢の女性。現在知っている情報を鑑みれば美夏の祖母だろう。その後ろに黙って立っている女性はユエさんか。


「初めまして。美夏の我儘を聞いてくださりありがとうございます、八神君。私の名前は白鷺サヨ子と言います。後ろにいるのはメイドのユエ」

「……」


 突然自己紹介をされたにも関わらず、ユエさんは黙って、タイミングよくお辞儀をした。

 あまりの自然さに、俺は「八神つとむです。どうぞお見知りおきを」と形式ばった挨拶しかできなかった。


「ふふっ。驚きのあまりではないことが逆にすごいところですね」

「えっと、御婆様? いつからいらしていたんですか?」

「初めから、ですよ。貴方たちが入ってくる前から私はここに居ました」


 ここに、っていうのは建物の中だろうなと思いながら「大丈夫なんですか?」と確認する。


「ええ、貴方なら大丈夫でしょう」

「なら入るか」

「え?」


 俺が乗り気なのに美夏が驚いたようだったので、「まぁ気になるんだよ。どんなものがあるのかな」と言っておく。

 正直、うちの一族に関わるものがあるんだろうかという期待があるからな。多分ないと思うけど。


「では開けましょうか」


 その一言でよどみなく歩き出したユエさんがカギを外して扉を開けた。


 さぁて、どんなものがあるのやら。

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