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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第二話~夏休み中旬~
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案内

「ごちそうさまでした。美味かったぜ」

「ふふっ。ありがとうございます♪」


 どうやら美夏も食べていなかったようで俺達は一緒に朝食を食べた。

 出された料理は簡単なといいつつオムレツとパンだった。まぁひき肉とかみじん切りの玉ねぎとか入っていない卵だけのものだが、味付けが絶妙だった。素材の味も良かったんだろう。パンもジャム塗ってないのに甘かったし。


 食べ終わった俺達は使った調理器具や食器を片付けようとしたところ、『私達でやっておきますから!』と休憩室らしきところから出てきて言われたので任せることにして食堂から出てきた。


「お待ちしておりましたお嬢様、八神様」

「……(ひょっとして待ってたのか、ずっと?)」

「(多分、別室で食べているはずです)」


 食堂から出たらレシカさんがそう言ってきたので、思わず美夏に耳打ちしたところ彼女は否定した。というか咲耶が見当たらないし、気配が近くにない。


 まぁいない人に関して考えるほど暇ではないので「これからどうするんだ?」と尋ねる。


「どうするもこうするもありません。この屋敷内を私が案内するんです」


 忘れたんですか? と雰囲気で醸し出しながら言ってきたので、今更ながら家に招待されて家の中を案内されるっていうのもおかしなことだよなぁと思いながら「それ以外にあるのかなと思っただけだよ」と返す。


「他に……ですか?」

「別に無いなら無いで良いんだけどよ。俺にやってもらいたいこととか」

こうしていられる(・・・・・・・・)ことで既に十分です、今の私には」

「……そういうもんか?」

「はいっ♪」


 満面な笑みでそう返されたので俺は思わず言葉に詰まり髪の毛を掻く。


 ――んなこと言われたのは初めてだ。いつきだったら間違いなくゲームとか一緒にやったり、どこかに連行されたりするんだが。一緒に居られることだけでいいとは。


 こんな考え方する人間って珍しいのではないのだろうかと思っていると、彼女は「ふふっ」と声を漏らして笑っていた。


「つとむさん、照れてますね」

「……」


 ここで肯定するのはなんだか負けた気がするので沈黙する。ただまぁ、向こうは分かって言ってるから無駄な抵抗なんだろうが。

 ただ黙ったままでいると時間が無駄になるので「で? どこから案内してくれるんだ?」と訊く。


「そうですねぇ……先に二階に行きましょうか。三階は私達が普段使っている部屋なのでご紹介できませんが」

「いや別にいいよ。率先して知りたいと思わないし」

「そうですか……」


 返答を不味ったのか彼女は意気消沈してしまった。その反応にレシカさんから少しばかり苛立ちを感じた。


 いやどうしろと。個人情報を深く知るメリットなんて一切ないぞこっちに。守秘義務が増えるだけで気苦労が増すんだから。

 はぁ、まったくやってられん……っておもっているからダメなんだろうなぁ。


 なんて考えていたところ、「まぁそうですよね。まだそこまでつとむ君が心を開いてくれませんからね」なんて美夏が呟いた。


「頑張りますね」

「いや、別なところで頑張ってくれよ。言っとくが、守秘義務とかは徹底してるからな?」

「ですよね! きちんと話せないものは釘を刺してくれますもんね!!」

「なんで嬉しそうなんだ……俺にとっては面倒だぞ」


 そんな俺のボヤキは無視されたようで、彼女はそのまま「では行きましょうか」とテンション高めに移動を始めた。

 その後ろをレシカさんも歩き出したので息を吐いてから後を追うように歩き出すことにした。



 玄関に戻り、螺旋階段を上って二階へ。廊下に展示されているのを眺めていると、絵よりは壺とかの方が多い。誰の趣味かは知らないが。


「この建物は初代白鷺家の方が建てたと言われているんです。基本的に当主はここで暮らし、それ以外の親族は好きなところで生活をして夏休み頃や年末にここで集まってから諸国を回るんです」


 美夏は先頭を歩きながら自分の家の習慣を説明してくれるが、半分聞き流しておく。どこに重要な情報が埋まっているかわからんし。

 が、話を繋げないと場が盛り上がらないので俺は適当に質問した。


「ってことはここに親族全員いるのか今日?」

「いいえおりません。私の空いている日がなかったので今回は早めに来ているんです」

「大変だな、やっぱり」

「そうですね。このことが億劫になるなんて初めてです」


 会話がバグった気がするが、割と周囲の人間がそのまま押し通すので大人しくスルーして会話を続けることにする。気にしたら面倒なことになるのは経験上分かってるし。


「昔の人が建てたと言っている割には構造自体は古臭くなさそうなんだが。改修工事とかは頻繁にやってるのか?」

「三年前ぐらいに一度塗装工事と建て直しは行いましたよ。耐震工事もですね」

「そんな一気にやったら一年で終わらないだろ」

「終わったのが去年でしたね確か……さて二階に到着いたしましたし、部屋の紹介をしていきますね」

「……おう」

「と言っても、説明できる部屋は一つしかないのですけど」


 その言葉に『だったら実際に移動しなくても良いんじゃないだろうか』と言いたくなったが、我慢して促す。


「どこだよ?」

「遊戯室です。別館にもございますが、こちらは来賓客の方々にも使っていただける共用スペースなのです」

「他は客室若しくは私達の部屋となっておりますので」

「なるほど」


 そりゃ紹介する場所なんてないなそこ以外……ん?


「この屋敷で暮らしているのは当主だけなんだよな?」

「はいっその通りです!」

「使用人室って普段使われてるのか?」

「二部屋だけ、使われております。基本的にメイドや執事の雇用人数が少ないため、親族一同の総数でもこのフロアの部屋だけで足りるのです」

「……」


 レシカさんの説明を受けて改めて見える範囲で見渡してみると、扉がたくさんあった。この扉一つ一つが一部屋としてカウントされるんだろうか。だとしたら結構狭いぞ見た感じ。

 そうなるとどこにあるんだ遊戯室と内心で考えていると、「遊戯室はこちらになります」と左側の廊下へ歩き出したので、右半分は全部使用人室かよひょっとしてと推測を立てながらついていくことにした。



「こちらが遊戯室です」

「ひろっ」


 レシカさんが扉を開けて美夏が部屋の紹介をしてくれたので、後ろから部屋内を見ての俺の感想。

 先程いた食堂よりは狭いが、それでも俺の部屋の倍以上は広い。

 設置されているものを列挙していくなら、ビリヤード台・ダーツ・雀卓・ステージ・カジノテーブルと大人の遊戯室且つ社交場になる場所のようだ。

 いつきの家にはこんなのなかったなと違いを見つけ出していると、「よろしければ何かやってみますか?」と言われたので「いや、特にないな」と肩を竦める。


 基本的に加減出来ているが、それでも人の家の物を壊しかねないのであんまり触ろうと思えない。弁償だなんだと昔から大変だったからな。

 ましてや美夏の実家。調度品とかを壊したときの弁償額は考えたくもない。


「壊しかねん。加減しても」

「番組の備品は殆ど壊してないじゃないですか。大丈夫ですよ」

「そんなにやらせたいんですか?」

「一度つとむ君と勝負してみたいと思っているんですよ。でも機会もありませんし、身体能力もとんでもないので……」


 ……俺と勝負して何を確かめる気でいるんだろうか彼女は。

 まぁでもそう言われたならさっさと叶えた方が憂いがなくなるか。すぐにそう結論付けた俺は出来そうなものをさっと見て「ダーツで勝負するか、なら」と提案する。


「やってくださるんですね!?」

「まぁ。ルールの方はどうします? 公式ルールに則りますか?」

「公式ルール、ですか?」


 首を傾げてそう訊かれたのでやったことない人はそうだよなぁと思いながら説明する。


「ダーツの公式ルール、というかダーツのゲームって種類があるんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ。カウントアップ、ゼロワン、クリケット。そしてゼロワンとクリケットを複合させたメドレーってやつが。多分、美夏が想像してるのは投げたダーツが刺さった的の点数を合計する奴だろうが、それがカウントアップっていうゲーム。大会とかじゃやらない練習用だな」

「そうなんですか。なんでそんなに詳しいんですか?」

「……まぁ、昔町の連中とやったからだな」


 実際は乱闘騒ぎの後に呑み会始めやがった奴らに巻き込まれて無理矢理といった感じだが。元プロのダーツ選手がいるせいで遊びなんて感覚消し飛ぶぐらいには真剣にやらなきゃいけなかったんだよな。


 最近行ってないけど元気だろうかと思いながら、「ゼロワンとかクリケットなんかは趣味としてやってる奴らが覚えるルールだから今回はカウントアップで良くね?」とルールを決める。


「一人三投してその合計点数を競う。分かりやすくていいんじゃないか?」

「分かりました。それなら本番前に軽くレクチャーしてもらえませんか?」


 ん? なんで敵に塩を送らなくちゃならないんだ? ある程度は分かるはずだろうに。

 そんなことを思いながらも、まともに勝負にならないことなど明白なので仕方なく点数と投げ方を教えることにした。

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