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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第二話~夏休み中旬~
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白鷺家のご挨拶

「おかえり美夏。そして、初めましてだな、八神つとむ」


 メイドさん――レシカさんが扉を開けたところ、姿が見えるくらいでそう、声を掛けられた。

 見える姿は二人。だが、その近くに隠れている奴が一人いる。なんで隠れているのか知らんが。目的は俺か? 恨まれるほど接点はないはずなんだが。


 内心で首を傾げながら目の前の人物を観察する。


 片方は俺より背が低く腰が曲がっている。順調に歳を重ねたわけじゃないだろうからか、その雰囲気は誰もが最初圧倒されるんだろう。俺は慣れているから何とも思ってないが。


 で、もう片方は直立不動。燕尾服を着ている老人であるところからするに執事なのだろう。年相応とは言えない機敏な動きをしそうだ。まぁそれも、一般人からしたら、だが。


 わざわざ当主自らが出迎えなんてどういう風の吹き回しなんだか。いつきの家以外に行ったことないが、普通はメイドや執事に任せるんじゃないだろうか。

 そんなことを思いながら「初めまして」と共に頭を下げると、「まぁそうだな」と彼は呟いた。


「――『夜神』の一族としては知っているがな」

「? 何かおっしゃいましたか、おじい様」

「何でもない。さて、八神君。孫娘が連れて来て申し訳ない。その様子だと朝食もまだだろうから、良かったら食堂へ行って朝食を食べていきなさい。レシカ、案内を」

「畏まりました」


 そのまま立ち去ろうとしていたので、俺はずっと気になっていたことを聞いてみた。


「先程から壁越しに誰を忍ばせているんですか?」

「え?」「……」


 美夏は驚いた様子で、執事と思わしき人とレシカさんは眉を少し動かし、美夏のお爺さんは目を見開いていた。


「気付いていたのか」

「何を試したかったのか知りませんが、扉を開ける前には」


 正直に申告すると、「ふむ」と唸ってから「隠れても意味ないな、咲耶。出てきなさい」と声を掛けた。


「……分かりました、御爺様」


 少し間をおいてその人物は姿を現した。


 身長は150後半位。すらっとした体形だが、出て来る動きに武術を感じた。ただまぁ、少しぎこちなさそうなので始めたばかりなんだろう。感情を押さえつけている感じはないが表情筋を動かしてなさそうなほど無表情。顔立ちに幼さが残るからか、中学生ぐらいか。ポニーテールにしているのは切ることに対する抵抗だろう。


 ……で、なぜか腰に日本刀を差している。長さ的にも、重さ的にも厳しいはずなんだがな。


 そこに美夏も疑問を抱いたようで、「なぜ咲耶が日本刀を?」と呟いた。


「ふむ。まぁ慣れさせておくというのもあるし、修行の一環というもある。それに」


 ちらりと俺を見る。その意味を何となく理解できたので内心で肩を竦めた。


 この爺さん、俺を『確認』するために態々待ち伏せを指示させたな。まぁ普通(・・)なんだろう。

 しかし少女に日本刀持たせて『確認』させるなんて人が悪いし、ふざけているな。情け容赦なくやったらトラウマものだろう。せめてSPにしろよ。いつきのところより弱すぎるけど。


「……まぁ、もう用は済んだ。咲耶、日本刀を返してもらう」

「はい」


 大人しく日本刀を返す姿を見て扱い方をそれなりに知っているんだなと感心したが、俺より年下だろう彼女に日本刀の扱いを教えているなんて正気なんだろうか。うちの町なら何の違和感もないんだが。

 ちなみに俺は小1で覚えた。周りの奴らの影響で。銃器はその次の年だったか。大概俺もおかしいんだよなぁ仕方ないけど。


 自分で受け取った日本刀を隣の老人に渡してから「さぁ、食堂へ向かいなさい」と言ってから階段を上りだした。隣の老人はその後を追い、咲耶と呼ばれた少女(だと思うが)はその場に留まった。


 少ししてから「それではお嬢様、八神様。食堂へご案内します」とレシカさんが言ってから歩き出したので、俺は黙ってついていき、美夏は少し遅れて歩き出した。



 少し廊下を歩く。いつきの家もそうなんだが、なんで廊下はこんなに広いんだろうか。見栄なのだろうか。よく分からない。


「よくお分かりになられましたね」

「ん? 別に難しい事じゃないぞ。気配を探るなんて。慣れれば大して集中せずともできる」

「普通はそんなことを意識しないのですが……まぁつとむ君ですからね」

「いや俺が特別な訳じゃないぞ。町にいる奴らは大抵気配を探れる。少なくとも俺が知ってる奴らなら」


 そう説明したところ、美夏は「つとむ君の住んでいる街自体が普通じゃありませんでしたね」と苦笑していた。……そうだな。


 何も言い返せないので黙りながら、後ろを従者か何かの様についてきている先程の咲耶と呼ばれた人物に視線も向けずに「というか、家に招待するでいきなりこんなところに連れて来られるなんて、数日前から思っていたが段階飛ばし過ぎじゃないか?」と蒸し返す。


 ……これが成立した以上、今後こうなる可能性が上がって俺の精神が休まらないからな。


 すると彼女は「先ほども言ったではありませんか。私が家に留まれる日が今日と明日以外になかったんです、と」なんて膨れて答えた。

 何となく嘘というか、本当のことを言っているわけじゃないのは明らかなんだが、そこを追究するのはどうなんだろうか。一応、来てほしい日は前もって言われていたから正しいのだろうが……。


 後ろからの視線が凄いんだよなぁ。そんなに気に食わないんだろうか。まぁ他人が来てるからなぁ。


「こちらが食堂になります」


 つらつらと適当に考え事をしていたら到着したらしいので立ち止まると、レシカさんが扉を開けてその場で佇んでいた。まるで俺達が入ることを確認するかのように。

 このまま入っていいのかと迷っていると、美夏が「入りますよつとむ君」と俺の手を引っ張りながら歩き出したので身を任せることにした。


 後ろからついてきた咲耶は、そんな俺達を見送るだけだった。



「それでは朝食にしましょうか。謝罪を込めて私が作りますね。つとむ君みたいにおいしく作れませんが」


 食堂の広さをいつきの家と比較しながら見渡していたら彼女はそう言って厨房へ向かった。


 食堂。家族で食べるにしては広すぎる。いつきの家なんて食事する場所が十畳ぐらいか確か。ここなんてその三倍ぐらいあるんじゃねぇかな下手したら。見栄なのか本当に必要だったのか判断できん。

 しかも調理場との壁がないから余計に広く感じる。レストランだと言われても納得できる広さだ。


 どこに座るかと思った俺は、とりあえずで三列ある長テーブルの真ん中の列の調理場に近い席に座り彼女の方へ視線を向ける。


 ……色々と準備を始めているようだ。はてさて何を作るのやら。


 眺めているだけも暇なので思わず欠伸が漏れる。そりゃそうだ。早起きしているからな。おくびにも出さないようにならなければいけないんだが、こういうのは人間の本能的なものなんじゃないだろうか。親父だってたまにやってるの見るし。


「……まぁ、気を張らずに気を付けるか」

「そういえばつとむ君」

「あ?」

「つとむ君って何か苦手なものございますか?」

「ねぇよ」

「分かりました」


 ……毒物じゃなければ俺は大体食べれる。虫だろうが雑草だろうが。それを飲み込んだのは英断だろう。正直引かれてもしょうがない。

 実際食べれる。そう訓練してきたから。緊急時ならともかく、平常時にまで食べたいと思わんが。


「何作るつもりなんだ?」


 待ち時間が暇なのでまだ準備しているらしい美夏に話しかけたところ、「簡単な手料理です。流石に手の込んだ料理を作るほど時間があるわけではありませんし」と答えてくれた。


 料理名教えてくれねぇのかと思っていると、調理場の奥の扉が開き「お嬢様! 私達が料理をしますので大丈夫です!」と叫び声が聞こえた。料理人が休憩していたんだろうか。かなり慌てていたところから察するに、休憩室か部屋が調理場と直通しているんだろう。


 突如として現れた料理人に対し、美夏は「大丈夫です。皆様の手を煩わせることはありませんから」といって乱入してきた料理人を制止しながら調理を始める。

 一方で出てきた人は強く出れないのか「わ、分かりました」といって戻ってしまった。手伝うぐらいはさせても良いんじゃないだろうか、なんてその光景を眺めて考える。


 ……今日中に帰れるか、これ?

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