表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第一話~夏休み上旬~
196/205

ポスター配り(橘巳町編2)

今月15日なぜかたくさん読んでいただけたようでありがとうございます。

 どこ行っても地雷でしかないが、処理しなければ今日が終わらない。大体、閉店時間という明確なタイムリミットが存在している以上、長引かせるのは愚策。


 それなら……しょうがねぇ。水族館行くか。あそこから行った方が面倒事が少ない。気配消せば見つかることはないだろう。


 そうと決めたらいつまでも地図を眺めていられないので、バックに入れてから自転車をまたぎ水族館へ向かった。


 自転車に乗っていると、基本的に周りに関心がない。

 が、トラブルを目撃してしまう、或いは進路中でトラブルが発生すると、自然と目に留まって立ち止まりかけてしまう。


 で、だ。


 普通に走っていると自動車と並走している。その状態でトラブルを目撃するなんてどんな動体視力してるんだと思うだろうが、150オーバーを紙一重で避けまくってたら意外と見える。


 ……まぁ、だらだらと説明する気もないので簡潔にすると。


 走ってたら交差点から信号無視してきやがった野郎に激突しそうになった。


 ……まぁそのぐらいなら何度も遭遇してるから対処は楽なんだが。

 いつも通りウィリー状態から飛び越えようと前輪を浮かしたところ、並走していた車が急ブレーキをしてハンドルを急に切った。


 それはきっと突然飛び出してきた奴を躱そうとしての行動だったのだろう。素直に急ブレーキでいいじゃねぇかと思うが。

 当然車体は横に向き――まぁそれでも車速は落ちないが――スピン状態になりかける。


 まぁ信号無視してきた奴もその音で思わず自分の状況を把握して立ち止まるっていう、いつもの状況に思わず涙が出て来そうになるが、現状打破のためにも行動しなければならない。


 反射的に自転車の状態を戻して漕ぎ出した俺は、止まってる野郎を通り過ぎる際に首根っこ掴む。

 「ぐえっ」とか聞こえたが轢かれるよりマシだろうと交差点を通り過ぎたところで思い速度を緩めてから立ち止まり、振り返る。


 すると、トラックが止まっていた。衝突音が聞こえなかったのは車が上手いこと止まったからだろう。


 そう考えると結構運転上手だなスピンさせた人……そんなことを思いながら掴んだ奴を放し改めて確認する。

 道路で気を失っている(おそらく引っ張られたせいで失神したのだろう)その男は、身長165くらいのやせ型。ズボンは紺色のジーパンで、上はチェック柄のシャツ。


 眼鏡をかけているが、印象としては子供っぽい。


 なんで轢かれそうになっていたんだか。そう思っているとエンジン音が聞こえたのでトラックの方に視線を移す。

 すると若い運転手の男が慌ててトラックを動かしていた。ナンバーは見えたんだが……乗り捨てられたり偽造ナンバーかも知れないな。


 なんだかまた厄介事に直面したなぁと思いながら、警察に電話を掛けた。



 連絡を受けて到着した警官は、菅さんではなかった。どうやら非番らしい。

 まぁいつもいつも菅さんだからな。たまには別な人でもいいか。

 そう思って警官と話をする。




 まぁ警察署に同行を求められて署内で事情聴取を受けたがな。









 偽造ナンバーかどうかわからないトラックのナンバーと事情をオブラートに包みながら話し終えて解放されたのが十一時頃。助けた(気絶)男は向こうが保護するということなので俺は警察署から出て自転車にまたがってから、遅れた分を取り戻すために我武者羅に漕ぎ出した。



 途中信号機に停まったりで速度は抑えられていき、水族館に到着したのは十一時十五分。

 息を切らしながら自転車を止めた俺は、入り口の方を見る。


「……いないようだな」


 もう中の方で番組収録しているんだろうかと思いながら深呼吸をした俺は、そのまま水族館の入り口へ向かった。



「いらっしゃいませ。チケットをお買い求めですか?」

「ああ、いや。ちょっと職員を呼んでほしいんだが、ここでいいのか? 榎本って人なんだが」


 受付の人にそう訊ねたところ、「少々お待ちください」と事務的な対応で電話をかけ始めた。

 少し電話をした後、「ただいま榎本さんは番組の収録のために席を外しているようですが、何か御用でしょうか?」と訊かれた。


 そもそも誰とか聞かれないのはどうしてだろうかと思いながら「ポスターを貼ってもらえるとのことで配りに来たんです」と答えてポスターの入った封筒を見せる。


 それを見た受付の人は「よろしければ受け取っておきますが?」と提案してくれたので、流石に出くわすのも嫌だったので「お願いします」と即答してポスターを渡す。


「確かに受け取りました」


 料金を受け渡しする場所からそう言ってポスターを受け取ったのを見た俺は、踵を返してから次の場所へ向かうために駆け出した。





「で、次はショッピングモールか」


 巻き込まれ体質である以上、平和に終わるなんてことは考えてはいなかったが、正直今回はふざけんなと声を大にして言いたい。

 無駄に体力使っただけのような気もするし。昼食べたいけど、この後図書館からりぐる市に行かないといけないんだよな。はぁ。


 予想外の事件に遭遇したせいで今後の予定が狂いまくっているのが笑えないが……まぁショッピングモールは一階のサービスセンターで渡せば終わるから気が楽だな。知り合いと鉢合わせることもなさそうだし。


 それが甘い考えになるとは露程思っていなかった。



 十一時半。


 ショッピングモールの駐輪場に到着した俺は、自動販売機でスポーツドリンクを買って一気飲みをしてごみ箱に捨ててからサービスセンターへ向かう。

 気配を消して移動する腹積もりだったが、一般人に対してそれをした場合の反応は……まぁお察しだから普通に行く。


 つうか飯どうすっか。時間が無くなっていく現状、少しのタイムロスも許したくないんだが。

 そんなことを考えながら歩いていると、黄色い歓声が入口で聞こえ人の列が出来ていた。


「キャー! 『エルナ』様ー!!」

「こっち向いてくださ~い!!」

「…………」


 こういうのなんて言うんだったか。人のカーテン?

 無理矢理突破したら面倒事になりそうだなぁと思いながら立ち止まっていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。


「久し振りだね、八神君」

「ん? ああ、水上さんか」


 振り返ったところ、仕事中だろうからかスーツをぴっちりと着て缶コーヒーを持っている水上さんがいた。


 となると、この建物内に篠宮家の誰かがいるのか。というか、サボってないかこの人?


「仕事じゃないのか?」

「仕事だよ。私は外の見回りを担当している」

「ふ~ん……ってことは、レミいるのか」

「レミお嬢様は生憎夏休みが来月と再来月の中旬までだし、今日はご学友の方とお出かけしている。私は担当を外れているんだ」

「……男がいると困る場所とかか……ってことは」


 ここにいるのは篠宮姉か……『エルナ』ってタレント名じゃねぇだろうな。

 流石に会いたかねぇなと思っていると、「君はどうしてここに?」と質問されたので後ろをちらっと見て人だかりがないことを確認し「バイト」と答えてから入口へ身を翻して向かった。


 客の数が多いのは日曜だからだけでは済まないが、その分俺が目立つことなく行動できるのは喜ばしい事なのだろう。


 ……撮影クルーを視界に入れなければ。


『はい! こちらはゲストの皆さんと今一階に戻ってきました!』

『さて、ここまで一緒に回っていただいた感想を……』


 入ってすぐのホールでそんな話をしているのを視界から外す。

 見つかって話しかけられるのが面倒すぎる。こちとら完全にプライベートだ。

 いっその事見つかって宣伝するのもありなんだが、その結果予想以上の集客をした場合のしわ寄せが俺に来そうなので却下。


これを渡せばこの場からおさらばできると思いながら、結果的に気配を消してポスターを渡しに向かった。




「……何とかなったな」


 図書館へ向かいながら穏便に渡せたことにより、安堵する。

 流石に一人一人をインタビューしているようだったから目を付けられることもなかったのが良かった。


 ……まぁ視線は感じたけど。


 結局すぐに出たから何も買えてない。まぁ我慢できるからいいが、りぐる市に着いたら飯食おう。今日中にすべて回らないといけないから栄養食品になるか。まったく、なんでこんなことになっているんだか。


 今日はもうこれ以上時間が押すようなことが起こらないように祈ったところで今更だよなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ