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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第一話~夏休み上旬~
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ポスター配り

話が飛んでいないことを願って

 その後の二日間も光の勉強を見てからバイトに行くというサイクルを送った。その時に「マネージャーがこの町の仕事に対して難色を示している」と愚痴っぽく言われたので、昔の姿が未だにイメージにあるんだなと思った。気にするなと言っておいたが。


 で、七月十日(日曜日)。


 俺は自転車に乗って市役所に来ていた。

 普段役所は日曜休みなのだが、イベントの準備やイベント中は運営する必要があるからか何人かが出勤している。


 俺が来たのは定例会により急遽決まったポスター配りの為。木曜にマスターにバイト休む事を言ったら「なんでお前はいつも急に言うんだよ」と怒られた。当たり前だなと思いながらも、俺にだってどうしようもない時があるんだと言いそうになったが我慢した。


 で、ポスター配りだが。


 いつもは町内限定だが、今年は初日一般公開なのでそれを知らせるために必要だ。じゃねぇと人が来ねぇ。

 それで貼る場所なんだが、外回りだとくれな町で三か所、りぐる市で五か所、橘巳町で四か所の十二か所と地元は適当にらしい(一枚だけ本当の(・・・)スケジュールを貼るとか。言っても町の奴ら全員分かるんじゃねぇかな)。


 その外周部分を俺一人で行くという、傍から見れば頭おかしい工程なんだが、生憎と人間からはみ出しているので夕方には帰ってこれるだろう。結構な頻度で巻き込まれそうだが。


 ちなみに俺の服装は動きやすい恰好。持ち物は財布が入ったバックと腕時計にケイタイ。弁当なんて邪魔でしかない。


 ポスターどうやって持っていけばいいかなと思いながら待っていると、「何だ随分早いな」と町長が声を掛けてきた。


「早い? 九時半だぞ?」

「お前にしては、だ……となると、良い意味での誤算だな」

「ん?」


 その言われ方で何となく察した。


「もうあるのか、ポスター?」

「ああ。お前の事だから絶対に遅刻するだろうって読みでああ言ったんだが」

「まぁ安定しねぇけどな。時間前に到着するなんて」

「待ってろ」


 そう言うと町長は建物に戻っていく。それを見送ってから設置場所の書かれた紙を確認のために眺める。


 橘巳町に関しては簡単だ。ショッピングモールに水族館などの人が集まりやすい場所なのだから(遊園地は流石になかった)。

 りぐる市もまだ。主要スタジアムとかわかりやすい場所ばかりなのだから。

 問題はくれな町。学園と俺のバイト先なのはまぁ分かるが(言いたいことはあるが)、最後の一か所がよく分からない。どこだここ。


 う~んと唸りながら添付された地図で場所を把握していると、町長が「ほらポスターだ」とA3サイズが入る封筒(それなりに膨らんでる)と投げてきたので反射的に片手で掴み、「なぁ」と訊いてみる。


「ん?」

「くれな町で配るポスターなんだがよ」

「おう」

「学園と俺のバイト先は良いとして、だ。最後の『桜田商店』ってのは?」


 そう訊ねると、彼は真顔で驚いていた。


「なんだよ?」

「いや、お前でも知らねぇもんがあるんだなと思ってな」

「そりゃそうだろ。俺がこの町の全てを知ってる自信がねぇ」

「そんなものか……そんじゃ説明する。といっても、そこまで大仰なものじゃねぇ。俺達()昔から普通に取引している、ただの商店だ」


 昔から商店として取引してるって……マジで?


「あの戦国時代から?」

「……まぁ、そうだな」


 俺の例えが微妙に分かるからか少し間をおいて同意する。素直に頷けばいいと思うのは俺がまだ子供だからだろうか。


「弱みでも握ってたのか?」

「バカ野郎。店主がこの町出身だっただけだよ」

「なるほど……闇商人?」

「何でもかんでも裏世界の思考入れるんじゃねぇ。善良な商店だよ……まぁ、時々よく分からん商品を仕入れている時はあるがな」

「そこにポスター配ったところで集客できるのか?」

「義理だ、義理。長年の付き合いだからな」

「ふ~ん……で、場所は?」

「地図見ろよ」


 そう言われて地図を眺める。場所はどうやらくれな駅に近いところのようだ。なら猶更知る訳ねぇよ。普段俺通らないし。

 ひょっとすると昔親に連れられて行ったのかもしれないが……まぁそれは帰ってから確認するか。


「よし、行くか。時間も時間だし」


 書類を自転車の籠に入れた俺は腕時計(今年三台目。安物)を見てからそう呟く。


「終わったらここに来いよ。金が渡せん」

「いつまでいるんだよ?」

「七時ぐらいまでは。それ以降は明日になるぞ。お前が暇ならそれでもいいが」


 ……。金の出処追及されるのは面倒だなぁ。


「なるべく早く戻ってくるわ」

「頼んだ」


 町長の声を背に受け、俺は自転車をこぎ出した。


 さぁ頑張ろうかね。



 とりあえず橘巳町から回ることにした俺は自転車を飛ばす。ここ最後でもよかったが、早めに行った時の方が時間を取られることもないかと思って。


「最初どうすっかな~」


 いつも通りのスピードを自転車で出してだるそうに呟く。

 橘巳町の四か所はショッピングモール・水族館・図書館・駅の掲示板。

 撮影スポットとして優秀なこの町を始めにすれば面倒なことにならないと踏んで向かっている。


 ……駅の掲示板なんてしょぼいって? 利用客を考えれば目につく確率がそれなりにあるし電車は同じ路線を走っている。結構いい場所だぞ?


 そうなると……面倒事がなさそうなのはショッピングモールか水族館を最初に回ることか? 流石に駅前の取材につかまるなんてことはないだろうし、図書館って取材する場所ではないだろう。


 さっさと終わらせて金貰おう。考えるのが面倒になった俺はその結論に至ってペダルをこぐ足に力を入れた。



 舐めていた。それが橘巳町についた俺の感想。

 殆どの高校生以下は夏休みに入ってない。ただ、それでも今日は日曜日なのだ。人通りが少ないわけがない。そのことを頭から抜けていたのが原因だろう。

 何が言いたいかというと、ポスターを配る場所が悉く混雑しているだろうととりあえずで来た駅前の人混みで推測出来た結論。


 自転車を降りた俺は気配を消しながら通行人の流れに逆らい駅へ向かう。


「……」


 正直見つかりたくないので足音も消す。自転車を押しているので端の方を歩いているからか、ぶつかる心配もない。ないんだが……気配に敏感になっているからか、通行人の雑談が耳に入る。


「早く早く! 間に合わないわよ!!」

「そっちが寝坊したのが悪いんじゃん! 『光』さんが水族館のイベントに来るって言ったのあんたでしょ!?」

「わ、悪かったわよ!」


「そういやショッピングモールでイベントやるよな?」

「ああ。映画の告知だろ?『エルナ』様が主演の」

「お前好きだな、あの人。まぁ、高飛車な見た目のわりにカメレオンみたいに演技の幅があるけどよ」

「ののしられたい……」

「は?」


「図書館で読み聞かせやるんだって!? 声優の『古滝』さんが!?」

「そうそう! あそこの図書館、月一で色々な人を招待して読み聞かせをしてるんだけど、今月と来月は有名な声優さんを呼ぶんだって! しかもこれ、この町でしか告知されてないの!」

「やっば! うちらラッキーじゃん!! 行ったらサイン貰えるかな?」

「間近で見れるだけで幸せ確定なんですけど~」


 …………。


「厄日か?」


 思わず足が止まり呟く。心なしかモチベーションも低下している気がする。

 自分が巻き込まれ体質なのは重々承知だが、流石に行く先々で面倒な事態に発展しそうな情報が発覚するのは嘆きたくなる。


 神様とか信じてはいないが、厄落としでもしたら変わるかなと現実逃避しながら深呼吸をした俺は、自転車置き場に自転車を置いてから、ポスターを配るために慎重に素早く責任者のところへ向かった。


 到着したら驚かれたがな。軽い不法侵入だし(アポイントメントは市役所の連中がとっているが)。



 さぁ行く気がなくなったが次だ次!

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