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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第一話~夏休み上旬~
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話し合い

ストックが消滅しつつある状況ですが、更新はしていきます

 その日の夜。


 バイトを終えて自転車で向かったのは家ではなく、町役場。


 一応この町にも町長はいる。が、行事とかで駆り出される以外は市民税の徴収位しかせず、町長選挙なんてやることもないのでほぼ同じ人だ。

 昔――親父が来る前なんてそもそも町長なんて存在しなかったらしいからなこの町。


 ……つぅか、なんで必要なんだろうか。イベントをやるのにか?


 まぁいいか。で、基本他の役場は定時――つまり午後五時ぐらいには事務作業が終わり、まぁ夜勤でこまごまとした書類を受け取るのが普通なんだろう。


うちも例に漏れないのだが、イベント時期となると別の顔がある。


「久し振りだなぁ、つとむ。呼び出して悪かったが、まぁ実行員の一人だ。受け入れてくれ」

「受け入れるも何も、選ばれた以上はやるっての」


 職員用の出入り口の前に来たところ、扉が開いて髭を蓄えた厳つい男が出迎えてくれた。


「今年も頼むぞ、つとむ」

「主導はそっちなんだから俺に投げるなよ、町長」


 さて。蛇足だが一応紹介しておくか。

 この町の町長。名前を伊庭(いば)熊五郎。親父が来るまでこの町のトップを張っていた一族の末裔で、彼自身もえげつない程強い。流石に俺や親父みたいな理不尽じゃないが、それに近い感じ。そうじゃなきゃこの町の長を一族で維持できていないだろうし。


 現在還暦近いとかいう話なんだが全く衰えた様子ないんだよな……まぁ、それは頭とか町の奴らにも言えるんだが。

 全盛期だったら俺負け続けてたんじゃねぇのか? と思えてならないが、それは一族の矜持的に許されねぇなと結論が出る。


「おいさっさと入れよ」

「……ああ、悪い」


 促されたので、俺は大人しく町役場に入った。



「さぁ早速だが、夏祭りの進捗状況を確認し合おうじゃないか」


 もはや誰も俺が主催側に来ることに疑問を浮かべない。高校入る前から町のイベントの企画側に回されてるんだ(出場禁止になったせいで)、皆慣れただろう。


 町長の音頭を皮切りに、「まず当日のスケジュールの流れについてですが」と職員の一人が立ち上がって話し始めた。


「今年の夏祭りは内外を分けるために二日間あります。初日は屋台を出して人を招く形で。私達の『本番』は二日目ですね。ゲストとして打診している人たちは初日のみとしていますが、本人達の希望があれば二日目も来ていただこうかと思います」

「うむそうか……しかし『本番』の時に来られるとメディアの対応も面倒だな。この町を正しく紹介する奴らなんていないだろ?」

「『本番』の時はいつも通り(・・・・・)です。外部メディアの人間はシャットアウトします」

「ま、それが間違いないか……。で、そのゲストは?」


 其の質問に対し今まで説明していた女性の隣の男が立ち上がり、「『光』さんに関してはスケジュールを抑えることが出来ましたが、『白井美夏』さんに関しては海外に出国するようなので無理でした」と説明した。


 ……って、光の奴了承したのかよ。嫌まぁなんか妙に乗り気だったみたいだけどよ。

 必然的に案内役が俺になりそうだなぁとぼんやり考えていると、「まぁ仕方がないな。早急に他の人に当たってほしい。『光』さん一人でも最悪何とかなるが、正直複数人が発信する情報の強みを知ってるからせめてつとむの知り合いでもう一人ぐらい頼んでみてほしい」といってきたので思わず愚痴る。


「なんで俺の知り合いばかりなんだよ……」

「お前の知り合いが一番発言力ある面子なんだよ。それに、この町に関してそこまで忌避感がないと判断できるのもな。それに……」

「それに?」

「お前がどんな経緯であれテレビに出演できる以上、それを使わない手はない! うちの町のイメージアップにはな!」

「皮算用が過ぎねぇか、それ?」


 テレビの影響というのは計り知れないが、正直なところ馬鹿正直に信じる人間の方が少数になりつつある気がする。俺の所感だが。


 今は情報があふれる時代。その上情報番組ですら『専門家』と自称する奴らの話に相槌を打つだけの大変つまらない時代。

 取捨選択できないものは餌食にされ、切り捨てられる。そんな世の中になっているというのに誰も咎めようと、変えようと考えない。


 誰もがそんなものに興味がないからだ。いくらプロデューサーや放送作家が頭をひねって作ったところでその努力を分からず、尚且つその情報が『どういうことなのか』を考えもせずに聞いていく。


 だからこの町のイメージアップをテレビを利用して行うというのは無謀でしかないと思う。というか、


「秋ごろにプロチームフルボッコにして心折る行事があるのに意味なさすぎじゃね?」

「それを言うな。というか、断ってもいいという一文を記載してるのに挑戦しに来る向こうが悪いだろ」

「絶対噂になってるのに懲りねぇよな、そういう意味じゃ」


 思わずため息をつく。緘口令でも敷かれているのか知らねぇけど。と心の中でつぶやきながら。


 ちなみにその話はまたの機会にしとくか。蛇足の部分だし。


「今度こそ大丈夫だと思うんだろう。この町の環境を知らないとな」

「悪い意味で結構有名だから、大丈夫だと思う思考が分からないんだよなぁ」

「そりゃこの町に住んでいればな……っと、話を戻すぞ。二週間もないからな」


 そういうと町長は「ゲストに関しては至急案件だな。魚屋に裏とってもらって頼み込んでおくように」と指示を出す。


 ……俺の知り合いっていうと、翠とか篠宮姉……いや、姉はないな。レミは別枠だから翠なんだろうか候補としては。


「それじゃぁ次か。屋台とかだな」

「募集はいつも通りですね。本来は他の地域からも募集をした方が良いのでしょうが」

「いや、それは無理だな。俺達の事を知らない以上、向こうの儲けが何一つない」

「あ、それはそうですね」

「で、向こうは今回の条件をきちんと把握しているんだな?」

「ええ。私達と外の人達を区別するように、と」


 その説明を受けながら事前に受け取っていた資料の該当ページを眺めていた俺は、「綿あめとか飲食系は別に条件ないんだから、なんでそこに話持っていかなかったんだ?」と質問する。ここにきている以上、黙っているわけにもいかないし。


「まぁそうだが。うちに出店だそうなんて勇気ある店を知ってるやついると思うか?」

「……知らねぇよ」

「そういうことだ」


 ハァっとため息をつく。分かってはいた事だが。


「だったらお前がバイトしてる店に声かけてくれよ。特別参加と場所代割引するからよ」

「いつも通りで場所余ってる訳ねぇだろうがよ。さらに言えば、射的とかは二つ分のスペースとるんだろ? どこに場所あるんだよ?」

「ん? 場所は今から確保できるぞ? その為の定例会だからな」

「あっそ……なら一応訊いておくわ。だが期待するんじゃねぇぞ」

「分かった。なら次に行こうか……次は交通関係か?」

「あとは治安維持。それと……反社会勢力の隠蔽ですか?」

「「「あーー」」」


 最後の内容に俺達全員声を漏らす。一応資料には『表立って存在がばれないように行動する』とか書いてあるが、それがその通りに出来るのかという不安がある。外部勢力のせいとかで。

 全員が沈黙してから少し経ち、町長は「まぁ順番に報告を聞いていこうか」と促す。


「交通関係は?」

「自動車による移動は初日のみ全面的に規制をかけるつもりですので、自転車や公共交通機関、つまり電車に誘導する予定です。バスはこの町内殆ど止まりませんからね」

「まぁ集客自体、周りからとしか見込んでないからな……自転車については?」

「自分達で乗って来ていただくか、レンタルサイクルとして駅前や町の境に設置する予定です」

「無料ってわけじゃねぇだろ? 資料に書いてなかったが」

「まだそこまで詰めてませんよ。設置場所の交渉がようやく終わったんですから」

「それじゃ来週までに決めておくこと……で、治安維持だが」


 と、町長がそこで一旦言葉を区切って俺を見てから「警察にはそれとなく警邏してもらうが、人手が足りないと思う。そこで、町の有志にも手伝ってもらった方がイメージアップ的にも効果があると思うのだが、どうかね?」と提案しだした。


「有志って……この資料じゃサツとあんたらの合同だろ?」

「それじゃ足りないだろ、多分。それに、お前を頭数にいれてもゲストのもてなしや運営に人を取られるんだ。どれだけ人が来るのか分からんのに」


 そう言われると、俺も強くは言えない。


「……はー……ったく。で、有志は誰誘えばいいんだ?」

「まぁ取り敢えず自称青年団チームいるだろ。そいつらには声かけてくれ。後は堅気に見える人中心で」

「『たかあき巡視隊』な。分かった……後半厳しくね? 俺の基準で声かけると、大体堅気じゃなくなるんだが」

「この町に住んでる奴ら限定でな。話が分かりやすいし」

「さらに難易度上がったんだが? これは教師の奴ら呼べばいいのか?」

「向こうは向こうの管轄を守らなきゃいけないから無理だ」


 マジか。それなら……


 必死に住民の記憶を思い起こして考える。


 まず論外はうちの両親。あいつらには自由に遊んでもらった方が精神衛生上良い。見張りなんて任せたら最後、町のイメージアップが先送りになる可能性がある。

 次は頭たちも論外。見てくれがそう見えない(・・・・・・)奴らもいるが、言動が一々分かりやすいからな。それに、今回は頼れん。

 となると一般人(町民)なのだが、これがまた難しい。難しいのだが……


 一つアイディアが浮かんだので、他の案を考えながらも口にする。


「……なら、『老人会』使えばよくね? 張り切ってやってくれるだろうよ」

「ならその打診をやってくれつとむ」

「なんでだよ」

「行っとくが、未だに『負けてないから話なんて聞かない』を地で通す奴らだぞ? 俺でも一人ぐらいしかいないだ。全員に勝ったやつが行かないとまともに聞いてもらえるかどうか。ああ、『たかあき巡視隊』にはこちらが話をつけに行くからいいぞ」

「おいこら」

「一員である以上、その責任は負ってもらうぞ。ただのお飾り(・・)じゃないんだからな」

「……くっそ」


 言い負かされた俺は、自分の見解の狭さに舌打ちをしてから土曜日にでも話をつけようと決める。


「ああそうだ。周辺市町にポスター配りもやってくれつとむ」

「ああ!?」

「先方に話を通してある。そのリストはこれで、ポスターは日曜日、つまり十日に出来るから役所に来てくれ」

「郵便局に任せろよ」

「一日でも早く貼った方が効果が出るだろ?」

「日曜バイトなんだが?」

「バイト代に日給四万」

「ぐっ」


 ちょっと揺れた。思わずバイトの日給換算するぐらいには。

 滅茶苦茶悩ましいんだが……と考えたところで、ふと気づく。


「なんでポスターが十日なんだよ。もうちょい早く刷れよ」

「ゲストの明言が、な……」

「ああ……」


 ちょっと俺も悪かった。

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