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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第一話~夏休み上旬~
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勉強会(3)

お久し振りです。これしか書いてませんね。今年もよろしくお願いします。

 光との勉強会の期限の間はお袋が変な気を利かせて次の日以降二人きりだった。だからと言って何かが起こるわけでもなく、挙動不審な彼女を諫めながら勉強させた。


 勉強自体はすんなり進んでいると思う。初日がバタバタしていたけれど。


 昼はまぁ、向こうが自分で持ってくることが多い。たまに俺が作ったりする。


 で、今は三日目。七月六日(水曜日)。梅雨明けしてない影響か空はどんよりと曇っている。雨が降る感じではないが、それとは別にいい気分がしない。

 今回の科目は英語。俺もそこまで得意じゃない科目だ。


「嘘ですよ……発音が私たちと違いますって。外国人みたいですよ」

「そうか?」


 町にいるがそこまで英語で話す訳でもないし、そもそも外国に行かないとあまり使うことのない言語だから俺自身ネイティブな発音などが出来ていると思っていないのだが。


「そうですよ。子供の頃外国にでも行っていたんですか?」

「行ってねぇな。あの頃はこの町とか、親父に連れていかれた場所がすべてだったみたいな感じだし」

「それじゃ、親戚に外国人でもいるんですか? それか、お友達にでも」

「ともだ……この町にも外国人はいるが、基本的に向こうは片言の日本語で話しかけて来るから、それもねぇな……そこ違うぞ」

「え、ありがとうございます……えっと、これですか?」

「そうだな」


 ちらりと見て安心させるように頷く。光は次の問題を見ながら、「じゃぁどうしてそんなに頭良いんですか?」と訊いてきた。

 その質問に天井を見て少し考えてから答える。


「いつきが居たから、ってのもあるんだろうな。あいつの近くにいたら強制的に似たような勉強すること多かったし。あとは――――」

「あとは、なんですか?」


 なぜか不機嫌気味に訊いてきたので、そこまで良いような時間じゃなかったんだよこっちはと思いながらも「町の奴らからも教えられたからだろうな」と無難に答えておく。芯となる理由(・・・・・・)は話すことではないからな。


 俺の答えに納得したらしい彼女は「町の人に優しくしてもらっていたんですね」と間違ったイメージを持ったようなので、「お前が想像してるような感じで教えてもらったわけじゃねぇからな」と言っておく。イメージ改善は大切だが、嘘で塗り替えることを改善とは言わない。嘘は嘘だ。事実を発信して周囲に認識を改めてもらわないと、本当の意味で改善しない。


 案の定、俺が否定したことに彼女は驚く。が、そんなこと想定内だったので「この町の評判を言ってみろよ」と答えを引き出す。


「え? えっと……とても怖い場所ですよね。その、ヤクザと呼ばわれる人達や不良の人達が毎日血で血を洗う抗争をしているって」

「昔の話だな、それ」

「そうなんですか?」


 少し驚いているようなので、脱線していることを自覚しながら説明する。


「まぁ。親父が来る前の町がまさにそうだったんだ。政府も矛先向けられたら絶対に勝てないのが共通認識だったのか、その頃にこの町が独立状態になったらしい。現在もその状態は続いてるが、住人の俺達は普通に選挙をするし、街を出て仕事をしている。ま、それでもこの町の奴らは変わらねぇよ。値切りで殴り合いは当たり前だし、争奪戦なんて最後の一人になるまでやるのも普通。俺の勉強だってそうだ。殴り合ってから教えられたものが多い」


 説明を終えて息を吐き、彼女を見てみる。

 俺の説明が衝撃的だったのか驚いて固まっていた。そりゃ驚かない人間の方が少ないだろうが。

 実際殴り合いにならずとも教えてもらうことはあったが、それすらも親切心からというわけではなかったので言う気にならなかった。麻雀で負けたら値切りなしに社会の勉強追加とかな。穏やかなものでも。


 半分気に食わなかったから意趣返しで俺に来たんだろうと当時を考察していたところ、回復したのか「本当に同じ国なんですか?」と以前にも言われた質問に「国籍は同じだから同じ国だよ」と返す。


「なんというか……その割には静かではありません?」

「そりゃ普通の奴らは学校行ったり仕事いったりするのと同じように各々過ごしてるからな。それにさっきも言っただろ。毎日血で血を洗う抗争なんて昔の話だって。この町の覇権なんて必死に求めてた時代が終わったんだよ。じゃなきゃ、周りの町から人呼んで夏祭りする、なんて発想ないだろうし」

「あ、そう繋がるんですね」


 光はそれで自分が予定を聞かれた理由を理解したようだ。が、現状蛇足なので「これ以上町の説明今はしないからな。さっさと勉強に戻ってくれ」と言ってから席を立つ。


「あれ、トイレですか?」

「水。飲み物何がいい?」

「あ、わ、私水筒あるので大丈夫ですよ」

「そうか」


 律義というか用意がいいというか。配慮が出来る証左なのだろうと思いながら台所へ向かいコップに水を入れる。


 一応、客人用のコップはあるんだがな……なぜかいつき専用のも。

 まぁ幼馴染という点からすれば普通なのか? 内心で幼馴染に関する認識に疑問を抱きながらその場で水を飲んでいると、「そういえば今更ですけど、いつきちゃんはどこですか?」と本当に今更な疑問が出てきたようなので「あいつは夏休み始まってから親と海外飛び回ってる」と答えておく。


「あ、そうなんですか」

「毎年恒例だ。親の仕事を間近で見る一環だとかで長期休暇は殆どここにいない」

「え、そうなんですか?」


 光の動きが止まる。


「あいつの事なんだと思ってる? いずれは家を継ぐことになってるんだから勉強してるんだよ。白鷺先輩とか二年のアイドルとかもそうじゃねぇの?」

「……大変なんですね」

「まぁその家に生まれた宿命だろうし、なんだかんだで自覚はあるから大変だなんて思ってないと思うぞ? むしろ決まってる分腹を括り易いだろうし……つぅか、他人の心配してる余裕ないだろお前」


 コップをあおって一息で飲んだ俺はそう注意してから水で洗う。

 言葉を詰まらせた彼女は再びノートと向き合った。


 昼が過ぎて一時頃。

 お袋は帰ってきたが、暇なのかソファで雑誌を読んでいた。

 干渉する気はどうやらないようだが、いたらいたで邪魔だと思うのは正常なのだろうか。


「あ、つとむさん。この問題なんですけど、これでいいんですか?」

「ああ。それで合ってる」

「ありがとうございます!」


 ……今更だが、英語なんて辞書引っ張りながら勉強した方がはるかに効率が良いような気がする。

 彼女がここにいなくても良さそうな理由を見つけたが、本当に今更なので言わないで見守る。


 そのままぼんやりと彼女を眺めていると、お袋が「つとむ、バイトは?」と質問されたので時計を見たところ、一時半。


「まだ大丈夫。ぶっちゃけ五分もかからんし」

「道交法位遵守しなさいよ? 警察と仲がいいといくら言っても」

「それぐらい守ってるっての……たまに無視するけど」

「……なんか、すごい会話が聞こえるんですけど」

「どうした? 終わったか?」

「あ、まだです!」


 集中が切れたのか言葉が聞こえたので確認してみると、どうやらまだのようだ。まぁ英語とか外国語なんてなまじ覚えるのが面倒だししょうがないのだろう。

 俺? 必要だったから覚えた。以上。

 とはいっても普段使うようなものでもないので忘れている可能性もあるが、そんなこと言うといつき辺りに疑わしい目を向けられるんだよなぁ。


 茜あたりもそんな目を向けてくるよなぁと思っていると、「あ、あのつとむさん。ここに入る単語ってこれでいいんですか?」と訊いてきたので文章を一瞥して頭の中で翻訳してから「ああ、問題ないな」と答える。


「ありがとうございます」


 そういうと彼女は答えを書き込んでいく。

 それをぼんやり見ながらここ三日付き合った感想を浮かべる。


 光の学力って頑張れば上位に行けるって感じだな、と。


 別に悪い事ではないし、そもそも学校のカリキュラムで必要になるものが少ないからそこらはどうでも良いと思っている俺としては。

 まぁ仕事に集中しているおかげで勉強が疎かになりがちなのだろう。実際今まで見ていたが、黙々とやっているし頑張っている。間違いはあるのは普通のことだしな。


 まぁ何が言いたいのかというと、多分、俺が教えなくても勉強自体できるぐらいには頭は良さそうだってことだ。

 そういうと否定しそうだなと思っていると時間が迫ってきたので、「今日はここまでだ。また明日な」とお開きを宣言した。


 光は俺の言葉に顔を上げて「あ、ありがとうございました」と言ってから勉強道具を片付ける。


「じゃ、お袋後は宜しく」

「まったく。つとむが行けばいいじゃない」

「……俺より安全だろ」


 昨日起こったことを思い出してぶっきらぼうに言ったところ、「明日はあんたが見送りなさいよ」と言ってから「準備が終わったかしら、光ちゃん?」と話しかける。

 ちらっと確認してから自室に戻った俺はいつもの準備をして一階に降り、二人の様子も気にせず家から出た。

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[一言] やっと続きがでた…今年も凍結・未完放置にならない事を祈ってます
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