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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第一話~夏休み上旬~
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勉強会

 七月四日月曜日。午前八時五十分。

 たかあき駅に到着したが、やはりというか先月のテレビ出演のせいで町の奴らに茶化されまくった。正直うんざりしているので適当に流すことにした。これ以上反応するのも疲れるし。


 本当に俺は向いてないんだなぁとぼんやり考えながら駅前で腕時計とにらめっこしながら光を待つ。マスターにはこれからの予定を話して許可をもらった。


 俺は他者の評価をあまり気にしたことがない。自分の力のすべてを見せてるわけではないし、そんなことが起こる事態なんてそうそうない。それに、俺は基本的に好意的に見られないのは事実だ。


 なので、正直よくない噂をばらまかれている気しかしない。だからといってそれを調べるというのは「気にしている」ことと同義なのだから……ってことだよな。


 まぁどうせ今年中出演する気はないし、来年になったら話題に上がることなく自然消滅するかテレビ局の奴らも手を引くだろう。来年のことを考えるとどうやって出演稼ぐか悩ましいところになるが。

 どうせ先の見えない人生だ。近づいたら考えるか。

 町の奴らが俺の姿を見てぎょっとしている。そりゃそうだろう。基本的に待たせる側であり、待つ側ではないのだ。そんな俺がかれこれ十分も待つのだから驚きを隠せないはずだ。


 ……今更だが、あいつ電車の時間逆算できたのだろうか。ふいに気付いた疑問だったが、どうでも良くなった。


「あ、つとむさ~ん!!」


 九時少し過ぎ。駅から人の視線を集めながら光が手を振りながら駆けてきた。ちゃんと勉強道具を入れているであろう手提げかばんを肩にかけて。

 服装はどこかへお出かけするのかと錯覚するぐらい可愛らしいものだ。肩だしファッションとかいうのか? 言っておくが服なんざTシャツとかジャージとかで大丈夫だと思ってるからな俺は。

 で、麦わら帽子はおそらく日焼け対策だろう。あとはサンダルとか履いて完全に夏仕様といったところだろうか。まぁ写真集出してるのだから映えているといえば映えているのか。


「よぉ」

「すいませんつとむさん。少し過ぎてしまいました」

「別に。お前の勉強時間が少なくなるだけだから」

「うっ、そ、そうなんですよね……」


 少し俯く光。そんなことしている暇があるならさっさと歩き出せよと思いながら「行くぞ」と歩き出す。


「あ、待ってくださいつとむさん!」


 光はそんな俺に気付いて慌ててついてきた。



「そういえばつとむさん」

「ん?」

「この町って怖いイメージとか噂とかばかりらしいのですが、本当なんですか?」

「あ? ……まぁそうだな」

「え、そうなんですか?」


 驚いた様子の光。まるで信じてなかったようだったので「周りの町の奴らは大体そう思ってるだろうよ」と言っておく。


「そ、そんなにひどいんですか? 毎日死人が出るような?」

「それは二十年ぐらい前までの話だったはず。今は町人の犯罪率より町の外から来た犯罪者の犯罪率の方が高いな」

「……なんかおかしくないですか?」

「別に何ら可笑しいことはないんだが……ところで勉強は少しでもやってあるんだろうな?」

「え、あ、はい! やってあります!!」

「ならいいんだが……全部空白でしたって言ったら俺はもう置いてくところだった」

「見捨てるの速くないですか!?」

「慈善事業にかまけている暇はないんだよ。金がない」


 老人たちが屋根の上でベーゴマやっていたり、鬼ごっこやっていたりとせわしない中普通に道路を歩いている俺達の会話。そこでこの町の話題になったので随分また昔の話が浸透しているものだと思った。そして役場の連中が必死になっている理由も納得した。


 流石に統一前の噂払拭しないと駄目だわな。

 でも悪い噂を払拭するのって無理難題に近いような気がするんだよなぁ……と役所の方針が見えないことに不安を感じていると光が「そ、それにしてもつとむさん。こうして歩いていますが……置いていかなくなりましたね」と呟いた。


「ん? あ~テスト前に練習した。流石にまずいなと思ってよ」

「あ、そうなんですか……って、ひょっとしてテレビを意識しました?」

「私生活。なんでテレビなんて気にしなくちゃいけないんだよ」


 息を吐いてそう答えると、光はため息をついた。


「筋金入りですねつとむさん……」

「そんな今に始まったことじゃねぇんだから落ち込む必要なんてあるのかよ」

「テストを経験して改善したと思ったんです!」

「夏休み削れる以上、本気でやるに決まってるだろ」

「……」


 ありふれた深刻な理由を言ったら、肩を落とされた。こいつどこまで希望を持っていたんだろうか。

 俺に希望を抱いても裏切られる未来しかないと思うんだが……過去の自分を思い返しながら考察していると、気を取り直したのか頭を振り、「と、ところで、つとむさんの家ってどこですか!?」と話題を変えた。


「もうすぐだもうすぐ」


 そんな返事をしたら背後から何かが飛んでくる気配がしたので一瞬のうちに振り返って飛来したもの――ベーゴマを空に向かって蹴り飛ばす。


「え?」

「どこ飛ばしてんじゃつとむぅ!!」

「飛ばしてきたのが悪いんだろうが!!」


 俺に怒鳴りながらも普通に空中キャッチする爺さんに怒鳴り返す。すると、状況を把握できていない光が質問してきた。


「あ、あの。どうしてつとむさん、後ろを向いてるんですか?」

「背後からベーゴマが飛んできたから蹴り返すために」

「さらっと言ってますけど、人間業じゃありませんよね!? 一緒に歩いてたはずなのに視線を外したら後ろを向いてたんですから! というかベーゴマって固いですよね!?」

「まぁ結構固いな。特別製だし。普通の四倍ぐらいだったか?」

「大丈夫なんですか!?」

「まぁ。蹴りで鉄柱折ったことあるから」

「え、えーー……が、頑丈すぎません?」


 ……今更だがこいつ、俺が爆発に巻き込まれたりトラックと事故に遭ったのを知ってるのにどうしてこんな平凡な感想を抱けるんだ?

 不意にそのことを思い出して質問してみたところ、「そ、そうでしたね……つとむさんが人間離れしているのはもう分かり切っていましたね」と疲れた様子を見せた。


「大丈夫か? 勉強するんだろ?」

「……なんか、疲れた気がします」

「……」


 少し考えてから彼女に了承もとらずお姫様抱っこを敢行し、帽子が飛ばされないように深くかぶらせてから自宅へ駆け出した。


「ちょっちょっとつとむさぁぁぁん!!」


 無視だ無視。



「……最初からこうすれば早かったな、やっぱり」

「ひゃ、ひゃい……」


 彼女の私物が飛ばされないように加減しながら走って一分ぐらいで家に到着。気絶してもおかしくないと思うのだが、顔を真っ赤にして呂律が回らない感じになっても意識があったので少し見直した。

 とりあえず彼女を立たせるように地面に下ろしたところ、すぐにへたり込んでしまった。


「おい大丈夫か?」


 流石に心配になったので聞いてみたところ「だ、だいひょぶです、つとむひゃん」と声が震えている。


 ……流石にまずかった、のか? 美夏を抱えてジェットコースターに乗り込んだ時より速度は上……だったか?

 あのままジェットコースターに乗ったというのにあの人、割と余裕の態度だったよな……と二ヶ月ほど前に起こった同様のケースを思い出しながら、光に手を差し伸べる。


「ほら立てよ」

「――あ、ありがとう、ございます」


 そう言って彼女は手を握り返し、自力で何とか立ち上がる。



 で、



 家の前なのでその様子をお袋にばっちり見られていた。



 お袋はにやにやと笑みを浮かべながら「あんたも隅に置けないわねぇ。なぁに、新しい彼女候補?」と良いおもちゃを見つけたかのように質問してきた。

 それを聞いた光は声を上げてから声の主を見て、俺を見てきたので「お袋」と正体を明かす。

 その答えで再び彼女はお袋に視線を向ける。お袋は笑顔で「初めまして~私、つとむの母親の玲子よ」と自己紹介をする。


「きゅう」


 光は思考停止して倒れ込んだので、慌てて抱き留め仕方がないのでもう一度お姫様抱っこして家に運んだ。

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