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アイドルッ!  作者: 末吉
第四幕:第一話~夏休み上旬~
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電話

今月もう一話更新します

 バイト先へ行くまで暇なので家でのんびりしていると、お袋が「つとむ、そろそろ行かなくて大丈夫?」と心配してきた。

一時間もかからない移動時間だが、俺の場合何かしらに巻き込まれるせいで余裕をもっても過ぎてしまう。そんな体質だが、最近気にならなくなった。というか、気にしていたところでなんて考えるようになってきた。


 事件が起きたのならさっさと解決する。そして警察に事情聴取された場合さっさと答える。

 もしくは、事件を解決したとしても申告しない。縛り上げてそのまま移動するという手段もある。それやるとあとで電話の応対が面倒なんだが、うん。


 速過ぎたりすると逆に申し訳ないから時間の調整が難しくていつもみたいに行こうと思えないんだよなぁとシャーペンを指先で回しながら入学式にもらったスケジュール帳という名の手帳を眺めていると、携帯電話が鳴りだしたので、シャーペンをテーブルに置いて電話に出る。ちなみに茜はもう学校へ向かった。


「はいもしもし」

『も、もしもし!? つとむさんですか!』

「どうしたんだ光?」


 なんか向こうから電話がかかってきたのでラッキーと思いながら話を聞くと、いつぞやみたいに『勉強を教えてください!!』と勢いのある、切迫した声で言われた。

 こんなの前にも言われたなと思いながら「お前、そういって仕事被らなかったか? 今回大丈夫か?」と確認する。


『は、はいっ! 大丈夫です!! 夏休みですので!』


 どういうことなのだろうかと詳しく話を聞くと、こういうことらしい。

 アイドル認定生は演技等の授業に関しては積極的に出演することで問題はないのだが、勉強の方はそうもいかないらしい。

 なんでも、夏休みの間に学校から渡された高校生版夏休みの友を終わらせなければ立場的にまずいらしい。どっちもこなせてこそ認定生なのだとか。

 で、やってみようとパラパラとめくってみたのだが、思いの外勉強が追い付いていないのが分かり愕然とし、事務所に頼み込んで何とか勉学に励むために七月はある程度のスケジュールを空けてもらったのだが……


「その、クラスメイトの皆さんが出演やテレビ番組のバイトとかで予定が合わなかったんです……」


 ……とのことらしい。不運なことに。


 で、なぜか俺に目を付けたらしい。それに対して理由を尋ねてみたところ、こんな答えが返ってきた。


「職員室へ相談しに行くと、つとむさんの授業態度やらがそこらで聞こえるんです。授業をまともに聞いてそうに無いのに、小テストは満点な上訊いたところはスラスラと答えて扱いに困ると」


 まぁ、そういった自覚はあるし、勉強も入学時には終わっていたところだったからもういいやと思ったから寝ていこうと思い立ったのが始まりだったか。

 というよりなんで職員室へ通うことになるんだろうかという疑問はそっと横に置いとくとして、「塾とか家庭教師に頼めばいいだろ」と一応聞いてみる。


 それに対しての答えは『まとまった時間がとれないので頼むことはできないんです』だそうだ。


 ……まぁ、頼られたのなら何とかしようと思って時計を見たところ、そろそろバイトに行かないといけない時間が近づいてきたことに気付いた。


 俺は慌てて言った。


「悪い! 俺今からバイト行かなくちゃいけないんだ! 手伝うのはいいが、昼頃にもう一度電話をかけてくれ!! それと、23と24の予定も確認しといてくれ!!」

『え、ええ!? ほ、本当ですか!? 本当なんですね!! って、2』


 すべてを聞く暇が無くなった俺は、電話を切って荷物を手に持ち、「行ってきます!」と家を出た。



 時刻は午前九時半。例に漏れず強盗犯と出くわしたのでラリアットで沈めて警察に突き出してやった。事情聴取に関しては菅さんが来たというのにさらっと終わった。曰く『お前さんが関わった事件をいちいち署で訊く必要もないってよ』だそうだ。それなら早くやってほしかった。

 なので時間に間に合うことに。到着したらマスターに驚かれたが。


 バイトの時間は十時から午後八時まで。休憩が昼前にある。それで時給850円はそれなりに高い方だろうか。以前の掛け持ち工事現場のバイトの時給が1000オーバーだったから何とも言えない。

 先月のバイト代が悲惨に近かったので今月一杯はバイト漬けだと意気込んだのだが、と制服に着替えながらため息をつく。予定は未定とよく言ったものだと。


 来月はほぼ一ヶ月出掛けるので今のうちに稼ぎたいのだ、正直な話。

 まぁ受けるといった以上ある程度の減少は目を瞑らなければならないか。勉強のスケジュール次第ではそこまでダメージを受けないだろうし。聞きたいこともあるし。


 着替え終わってから不意に思い出した用件を終えるために電話をかけてみた。が、出ない。

 留守電につながったから恐らく国内にいるんだろうが……忙しかったんだろうかひょっとして。この時間まで寝ているとなると。

 まぁいいや。一応履歴着いたから向こうから電話が来るだろ。そう思い直して俺は更衣室を出た。


「何やればいいんだ?」

「土日といつも通りだよ。掃除はやっておくから、ケーキ類の下準備をしてくれ」

「分かった」


 マスターからの指示を受けた俺は素直にケーキを作る。とはいっても全種類のケーキを2ホールぐらいにしておく。平日だと俺がいつもバイトを始める時間帯ぐらいからケーキが売れていくのを知っているからだ。

 ちなみに、ケーキは足りなくなったら創るという方式をとっているんだが、普通は売り切れにするんじゃないだろうかなんて思う。そもパウンドケーキを最初から作るなんて時間がかかり過ぎる。


 なんて言いながら準備を終えた俺が時計を見たら11時だったので、もう開店してんじゃねぇかと慌てる。

 言ったかどうか覚えてないが、この店は11時に開店して8時に終わる。閉店作業はマスターだけでやるとのことなので、俺はまぁ注文が無くなったら厨房の掃除するぐらいにとどめている。


 で、開店してるようなのだが、客の気配はない。平日、しかも学生たちが休日ではないのだから当然だろうか。

 そういえば来週ぐらいで梅雨が明けるとか天気予報言ってたなぁと思いながら「ケーキ造り終わったぞー」とマスターに声をかける。


「おおそうか。相変わらず早いな。ちゃんと六等分にはしてあるんだよな?」

「ああ」

「なら昼になるまで待ってろよ。この時間帯だと近くの主婦とか缶詰で追い詰められた奴とかしか来ないから暇と言えば暇だし」

「ならこの間に昼飯食べに行っていいか?」

「材料あるから適当につくれよ。ただし、大量に使ったら給料から天引きだからな」

「ならますますコンビニ行ってくる」

「………だったら来る前に買って来いよ」

「急いでて忘れた」

「そっか」

「で、昼飯は?」

「適当に作れよだから」

「はーい」


 許可が下りたので俺は冷凍庫の中に入っていたご飯を食べる分だけ砕いて皿に載せて解凍し、その間にネギとかハムとか切っていく。


「何作ってんだ?」

「チャーハン」

「なら俺のも作ってくれ」

「あいよ」


 材料が増えただけで作業が変わらないのですぐに終わり、解凍が終わるまで待っている間にもう一人分のご飯を確保しておく。

 家のより電力が高いのでそれほど時間がかからずに解凍できた。それを先程割ったご飯と入れ替えてから中華鍋調理を開始。

 強火で熱してから油を入れ、そのままネギとハムを投下して炒める。とはいってもそこまで熱を加える必要がないので三十秒ほどでご飯を投入。ご飯を解して炒めながら片手で卵を割ってかき混ぜる。


「っと」


 卵白と卵黄が混ざり合ったのを確認してからそのまま投入。もはや化け物じみた身体能力をいかんなく発揮させているこの工程を、傍から見たらどう映るのかと思いつつ中身をいい感じに宙に舞わせる。それを数回行って卵が固まってきたのを確認した俺は、その時点で塩と胡椒をパラパラと振りかける。あと他に何か必要な調味料あったか……?

 味見をする。久し振りに作った料理だからなんか抜けている気がしないでもないが、まぁこんなものだろう。

 自分の分を皿に載せ、マスターの分に取り掛かる。ご飯の解凍が終わっていたが、先に卵を溶いておくことに。

 泡にならない程度に溶いてから、市販のチャーハンの素とかないかなとふと考えて冷蔵庫をあさってみる…………あった。

 これ使った方が確実だわなと思いながら洗わずにご飯投入して卵入れてチャーハンの素入れてせっせと炒めて完成。


 器に移してから使った中華鍋などを洗って片付けてから、マスターのところに持っていく。

 客の気配がないのでマスターに直接運び、俺は厨房に引っ込んでから食べ始める。


「……もうちょっと炒めた方が良かったかもしれんなぁ。あと、味付けも」


 反省点を呟きながら食べ終えた俺は食器を片付けてから暇なので電話来てないかどうか確認取るために携帯を見に更衣室へ向かった。

 確認したところ、着信が二件あった。予想通り光と美夏だ。

 手帳とシャーペンを取り出して体勢を整えた俺は、光にまず電話をかけた。


『は、はいもしもし!』

「で、さっきの話だが」

『え、えっと、勉強を見てくれるって話ですか? それとも、23日と24日の空きの確認ですか?』

「まずは空きの方だな」

『えっと……それでしたら大丈夫です。その日は仕事入ってません』

「そっか」


 ひとまず第一段階クリア、と。


『あの、これがどうしたんですか?』

「ん? いや、ちょっと確認したかっただけだ。本来なら事務所に確認した方が良かったんだろうが、本人に聞いた方が俺にとって手っ取り早かったから」

『そ、そうですか。え、えっと、それで勉強の方なんですけど……』

「結局5教科5科目でいいのか?」

『あ、はい。国数英理社だけですね』

「なら、来週で終わりそうだな」

『えぇ!? 無、無理ですよ!?』

「とりあえず勉強見てやるから文句はその時にしてくれ。で? 集合場所はいつぞやの図書館でいいのか?」

『え、あ、そ、あの……』


 ここまであっさり行ったのに急にブレーキがかかったので反射的に切ろうかなと思ったが我慢して聞いていたところ、『つとむさんの家で教えていただいても構いませんか!?』と叫ばれたので反射的に遠ざけながらため息をつく。


 美夏もそうだったが何だって家に来たがるのだろう、と。

 が、こちらの時間も危ないので考えることをやめて「じゃぁたかあき駅に9時前後に来てくれ。それでいいな? 電話切るぞ」と返事も待たずに即切りして美夏へ電話をかける。


 彼女もワンコールで出た。


『もしもしつとむさんですか? お久し振りです。ご用件は何でしょうか?』

「いや、単純にスケジュールの確認をしたかったんだ」

『なぜですか?』


 まぁそう聞かれるよなと思いながら、どこまで言っていい情報か頭の中で整理しつつ答えた。


「ちょっと頼みたいことがあって」

『そうですか……』


 何やら思案し始めた様子。が、俺の現状時間がないので「あ、掛けたばかりで悪いんだが、今バイト中なんだ。そろそろ客が来るからえっと……夜の9時以降に電話してもいいか?」と確認する。

 それを聞いた彼女は1分ほど沈黙してから『分かりました。夜の9時以降にお待ちしております』と言ってくれたので「悪い」と言って電話を切り、そのまま更衣室を出た。

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