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アイドルッ!  作者: 末吉
三幕:エピローグ~テストを通して~
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エピローグ4

「それにしても、君が悪役だなんて随分懐かしいね」

 メイン料理を待っている間、いつきがそんな話題を持ち出した。

 それまでの料理のコメントはうまい以外にないので割愛する。グルメリポーターじゃないし。

 つい最近思い出していた俺は「本当にな」と頷く。

 俺が悪役を演じたのは一回だけ。それ以外は遅刻とか欠席の影響を鑑みて裏方に回ったから。確かその時の学芸会での劇は……

「桃太郎、だったか」

「そうそう。君が鬼の大ボスやって僕が桃太郎の役だったやつ」

 そう言いながらグラスに口をつける。それを見ながら、俺は当時のことを思い出す。


 あの時は出番らしい出番が最後だったから多少遅刻しても問題なかったという理由で役が割り当てられた。

 そして本番。俺はいつきに無事やられて舞台から退場した……のだが、終わってからいつきに怒られたのだ。

「『僕をバカにしているのか!?』って怒っていたよな、お前」

「当たり前じゃないか。僕が模造刀を振る軌跡に合わせて君がさらっとやられたふりをしたのだから。クラスメイトは僕を称賛してくれたけど、正直あの時以上にプライドを傷つけられたことはなかったよ君に」

「そんなこと言われてもよ、あの時の選択肢の中じゃ、あれが最善だったと思ってるぜ」

「それを言われると言い返せないのが君の能力を知っているからだけど……それでも掌で踊らされていたって思うとね」

 まぁ言わんとしてることは分かるが、あの時すでに人外に片足を突っ込んでいたのだからどうしようもなかったな俺としては。

 そんなことを思いながら「二回目だな……これで」と呟く。

「負けたのが?」

「親父ら以外でって言葉がつくけどな」

 もっと正確に言うと格下にだが。

「劇やドラマをカウントしてたらキリがなさそうなんだけど。君の依頼って大体悪役なんじゃないの?」

「もう今年度はやる気ねぇよ。最低限のノルマは達成したし」

 憮然とした態度でグラスを呷った俺は再び外に視線を向ける。

 そんな俺の態度を見たいつきは「そこまで行くと逆に尊敬しちゃいそうになるね、君の意志の強さに」と呆れながらも呟く。

 それに対し俺が何か言おうとしたところ「メインになります」とウェイターがテーブルに料理が盛り付けされた皿を置いたので、最初から人の視線以外の視線がする方に一瞬視線を向けてから「ならなくたっていいだろ。個人の自由だ」と言い放つ。

「そうだね。僕もそのままタレントになるかって言われたらノーっていうし」

「人のこと言えねぇじゃないか」

「でもある程度はテレビに出演しなきゃいけないだろうから、この学園で経験を積むのはマイナスにならない」

「だったら俺を巻き込まんでくれよ……うまいな。焼き加減と言い味付けと言い、繊細だな、やっぱり」

「悪かったと思ってるよ。でも、まさか受かると思わなかったし。あんな適当に書いて」

「適当に書いてって……受かるように書けば必然的に受かるんじゃないのか?」

「どうだろ? 完全に朱雀さんの趣味だと思うけど」

 ……相変わらずうちの学科は大変だなぁ。

 トップの独断で志望者のふるい落としが発生している事実に頭を抱えたくなったが、続く「でもそういう贔屓って、どこの世界でも罷り通ってるよね」という言葉で納得した。

 そこから食事会は特に何の問題も起きずに終了し、いつきが「奢るよ」と言ったので素直に応じて店を後にした。


 帰りの車内。

「なぁいつき」

「何?」

 相変わらず肩が触れるぐらい近いが、平常心が戻ってきた俺は感慨もなくいつきに質問した。

「あの食事中カメラの視線を感じたんだが、俺はいつの間にか撮影に参加させられていたのか?」

 それに対する答えは「えぇ!?」という驚きの声だった。

「わ、分かってたの!?」

「まぁ最初に席に案内されたときには」

「う、うそだ……いくらつとむが気配を読むのがうまいからって最初からすべてばれてたなんて……」

「で、当たっていたということでいいのか?」

 らちが明かなそうなので直球で質問すると、「うんそうだよ」と観念したように白状した。

「って、言っても普通のテレビ番組じゃ流れないんだけど」

「そうなのか?」

「お金持ち専門のチャンネルがあってね。そこの番組の依頼なんだよ」

「はー」

 全然ピンと来なかったので適当に返事をすると、「つまり、僕達側でのみ見れるテレビ番組の撮影も兼ねていたんだよ今回の夕食会は」と簡潔に説明してくれたので、だから予約の取りづらいあの店で食べれたのかと納得した。

 と、それと同時に気付いた。

「おいちょっと待てよ。子供の頃の話とかそれなりにしてたけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃない? プライベートに関する話は全カットにする方針だって聞いたから」

「……大丈夫か…………?」

 何やら不安に思ったが、俺にできることがないのでもうこの話題をやめようと思い、「テストの結果どうなると思う?」と訊いてみる。

「う~んそうだね……なんとか合格するんじゃない? それが情けなのか分からないけど」

「俗にいう頑張ったで賞みたいなやつか」

「そうそれ」

 そこからいろいろな話題に飛び、車内ではいつも通りの空気が流れた。



 六月二十九日(水曜日)。

 光との勉強会は本人が急遽入った仕事によりキャンセルとなったせいで手持無沙汰になった俺は図書館で本を読んで過ごし、野良猫を捕まえて魚屋に渡してきた。

 で、今日の放課後。テスト結果が職員室前に張り出されるのだ。

 テストの結果は最優秀作品賞が各学年一クラス、最優秀男優、女優が一人ずつで、あとは補習のクラスだけが分かる。つまり、補習に書かれていなければ必然的に合格になる。

 この日ばかりは俺もバイトへ急ぐことをせずにクラスの奴らと一緒に教室に残っていた。代表として委員長が見に行っているからだ。

「あーどうなってるんだろうなー結果」

「今更怯えてもしょうがねぇだろ。結果を受け入れようぜ」

「それは頭ではわかっているんですが、納得はできないんですよね」

「こればっかりは神のみぞ知るだろ」

 そんな話を自然としながら昨日先公からもらった出演料の領収書を思い出す。

 金持ち専門のチャンネルというだけあって、額がおかしかった。手数料取られて十万ぐらいとか。バイトやってるのがばからしくなる。

 馬鹿らしくなるが……それでも普通に働くのが好きだと思ってしまう。

 普通、出演してどれぐらいの人が関わっているのかが分かれば自分がいかに愚かなのか実感するんだろうが、俺の場合実感した上で「それでも嫌だな」と思ってしまうのだ。救いようがないのだろう。誰に何を言われたところで、だ。

 そんなことを考え今後のテレビ出演をどう断ろうかと考えていたところ、「しかし如月の変貌ぶりには驚いたな」と聞こえたので考え事を中断する。

「入学したての頃からつい最近まで滅茶苦茶怯えてただろ? なのにテスト期間中に百八十度変わっちまってよ、グレイに乗っ取られたのかと思ったぜ」

「本人に訊いたらやつれた顔で『僕でも意外と丈夫だって分かったんだ……』と言ってましたけど」

「八神知ってる?」

「あ? ……どっかでトレーニングしてたんじゃねぇの? 撮影する以外の場所で」

「んじゃぁ、あいつ意外と努力家なんだな。最初はただの臆病だと思ってたけど」

 半強制的にという言葉は言わないでおこう。勘違いしたままがいい時もある。

 そう思った俺がそれ以上口を挟まずにいると、委員長が戻ってきた。

 自然と自分たちの席に着く俺達。

教壇に立った委員長は、「結果を見てきたわ」と言ってから数回深呼吸して結果を発表した。

「私達のクラスは補習の欄に記載されなかった……つまり、合格したわよ」

『!? よっしゃぁぁー!!』

 委員長の報告に全員が声を上げてガッツポーズする。かくいう俺も安堵の息を吐きながら小さくガッツポーズする。

 半狂乱状態になったが、「落ち着いて。報告はそれだけじゃないわ」という言葉で一気に静まる。

「なんとうちのクラスで最優秀男優が選ばれたの」

『!?』

 とっさになのか視線が俺に集まる。なぜ全員がその思考になるのか分からないが、俺自身は違うと思っていたので素知らぬ顔。だってあれだけ問題起こして原型壊したら要注意人物として真っ先に除外されるだろうし。

 そんな俺の考えを知ってか知らずか委員長は「残念だけど、八神君じゃないのよ。僅差だったらしいけどね」と心底残念そうに言ってから、告げた。

「最優秀男優は、如月洋司君。あなたよ」

「……え? ぼ、僕ぅ!?」

『はぁ!?』

 本人も驚き、周囲も声を揃える。が、俺だけは納得していた。

 あれだけ頑張って自分を変えれば、評価されるのは当たり前だしな。

 俺も少しは変えていかないといけないなぁと思いながら頬を中指で掻いていると、いつきが「残念だった?」と訊いてきたので肩をすくめてこう言った。


「まさか」



 こうして、俺達のテストは終わり、夏休みへと入った。

 相変わらず引き受けた仕事やら自分のことで忙しいのが目に見えているが、それでも頑張って生きていこうと思う。


 まぁ当面は、自分の枯れた気持ちを何とかするのが優先なのだろう。洋司も変わったしうだうだ言ってられない、な。


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