エピローグ1
金曜日(六月二十四日)。予定通りに撮影を終えた俺達は、けれど学生の義務なので普通に登校した。
いつも通りに集まりチャイムが鳴る。
「お疲れお前ら。一番遅れていたというのに予定通りに撮影を終えるとは。俺達も驚いた。頑張ったな」
入ってきた先公が真っ先に褒めてきたので俺以外の奴らはテンションが上がったようだが、俺だけはよくやったよな、本当という気持ちでいっぱいだった。
「さて、来てもらって悪いんだが、撮影が終わったから今日やることはない。他のクラスもそうだが、今日はもう終わりだ。全員帰って良いぞ」
『は!?』
先公の言葉に俺達は驚く。確かにやることはないだろうが、そういうことは考慮して学校側で何かしら用意してるとばかり思ったから。特に俺は色々と問題を起こしてるので。
俺達の反応を見た先公は「いや、終わってないクラスはまだ撮影してるし、そもそも撮影できなくなった時の予備日に充ててるからな、今日は」と言ってから何事もなく「邪魔せずに帰れよ」と教室を出ていった……と思ったら顔を出してこう言った。
「来週は審査をするが普通に授業あるからな。休むなよ。撮影以外で」
呆気にとられた俺達だったが、すぐさま荷物をまとめ帰ることにした。
俺はバイトへ向かったが。
「早くね?」
「テスト期間中で撮影終わったなら今日帰れって言われたから」
「まぁ俺は早くてもいいけどよ」
現在午前九時。まだ開店する前の時刻だ。休みの日のバイトが大体この時間に始まる。
さっさと制服から店の制服へ着替えた俺は、テーブルを拭いてるマスターに対し「やることあるか?」と訊くと「厨房の床とトイレ掃除」と言われたので掃除道具を持ち出して掃除を始めた。
そこからまぁクラスメイトが打ち上げと称して貸し切りにして騒ぎやがったぐらいしか別段珍しいことはなかったバイトの帰り。
俺は頭のところに来ていた。
「うちにちょっかい掛けてきたやつも終息したな、やっと」
「そうだな……って、そんなこと言うために俺を呼んだわけじゃないだろ?」
「そりゃそうだろ……ほら『いつもの』。約束通りにな」
「だよな……」
そういわれて差し出された書類の入った封筒を受け取った俺は中身を取り出し表紙でげんなりする。
「『夏祭り』……今年もまたこの季節がやってきたなー」
「町の奴ら全員楽しみにしてるんだ。盛り上げろよ実行委員長」
「約束の履行のためとはいえ……柄じゃねぇよ」
過去の自分をぶん殴りたくなって溜息をついた俺は書類を封筒に戻して「家に持って帰ると面倒だから預かっておいてくれ」と頭に頼む。
「分かった。ばれねぇように管理しとく」
「ならもう帰るわ」
「頑張れよ」
頭の声援に似た脅迫を受けながら部屋を出た俺は、苦手なんだけどなぁと思いながら帰ることにした。
で、土曜日(六月二十五日)。いよいよいつきとの夕食会の日である。が、俺は普通にバイトへ行く。
普通に朝起きてお袋の代わりに朝食を全員分作っている。とはいってもそれほど難しくないものだが。
で、さっさと作り終わりテーブルに並べたところでお袋が起きる。我が家ではいつもこんな感じだ。
「おはようつとむ。相変わらず正確に起きるわね」
「まぁ、時間に厳しいからな」
そんな風に答えてテーブルに料理を並べていく。女性陣の量は少なく、俺達の方は少し多めに。
そのまま俺は席について自分で作った料理を食べ始める。
親父とかも起きて三人で食事をしていると、いつきが茜と一緒に降りてきた。明らかにテンションが高い様子で。
そんなに俺との夕食が楽しみなんだろうかと思ったが口に出さず、食べ終わったので食器を片付ける。
片付けをしながら、これからのことについてざっと頭の中で確認する。
……う~む。何とかなりそうな範囲だな。仮に七月中が補習になっても。やることだけを見ると。
ここから増えてほしくないなと思いながら片付け終えた俺は、時間を確認し「そろそろバイト行ってくるから」と声をかけて二階へ荷物を取りに行く。
そして戻ってきたら、いつきが「五時には出発するからね?」とリビングから顔を出し笑顔で言ってきたので「分かったよ」と言ってから家を出た。
「スーツ着用で僕の家集合ね!!」
家を出た時にいつきがそう叫んだのが聞こえたので、やっぱり高級店じゃないか……と思いながらバイト先へ向かった。
途中、いつも通り朝からパトカーに追われているひき逃げ犯のタイヤをパンクさせたり、近所迷惑になりそうな『やんちゃ』の制裁をしたせいで少し遅れてバイト先に到着した。
「なんだつとむ。来たのか」
「なんで驚いているんだよ」
自転車に鍵をかけて店先に置き、店に入ったらマスターにそんなことを言われたので思わず問いかけると、「いや、本宮さんと一日デートなのかと思って」との答えが。
「んなわけねぇだろ。だったら昨日以前に休みぐらい言うわ」
「当日によく連絡してきたからな、最近」
「うっ……悪かったな」
「まぁいいや。バイトするなら頼むわ。お前がいるのといないとじゃ、売り上げが天と地ほどあるからな」
「それはまずくね? ……あ、三時半ぐらいに上がるから」
「あー分かった」
そんなこんなで俺のバイトは始まった。




