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アイドルッ!  作者: 末吉
三幕・第八話~最後の練習と本番~
177/205

8-15 本番水曜日--3

完結まで疾走します。

 で、教室。

 待ち時間の間にその場で書類を全部見てしまおうということで机の中から全部引っ張り出して上から順に読んでいく。。人が集まっているが、正直予想通りなので無視することにした。

「すげぇ……」

「え、こんなところからも来てるの……」

 そんな声も聞こえるが、俺は無視して読み続ける。

 給料、契約してからの流れ……などなどを事細かに、それでいて流し読みしていく。

 ここまで放置していたからというのもあるが、出番がまだあるのでそれまでに読み切りたいというのもある。

 ……しかし。

「なるほど……」

「へぇ……」

「……なぁ」

 いい加減鬱陶しくなってきたので俺は読むのをいったん止め、周囲を見渡してから「見るのは勝手だが、浮かれてていいのか?」と質問して再開する。

『うっ』

 言葉を詰まらせた一同をしり目に俺はさっさと読み進めた。


 すべて読み終わったら二時ぐらい。雨はいまだ降り続いていた。

 向こうの撮影どうなっているんだろうかと心配しながら読み終わった書類を持って席を立った俺は、集まっている人をどけて職員室へと向かうことにした。

「酷い雨だな……」

 こんな中自転車で来てるのだから俺もなかなか狂ってる。廊下の窓から見える景色にそんな感想を抱きながら歩いていると、光が職員室から出てきたのが見えた。

 なんか今日はアイドルとよく遭遇するなと思いながら気づかれずに移動しようと思ったが、彼女はこちらを向いたときに目が合った。

 俺は回避行動をあきらめた。

「よぉ」

「あ、つとむさん! こんな日にも撮影お疲れ様で……す?」

 視線を俺が持っている書類の束を見た途端彼女の声のトーンが落ちて黙り込み、俺は俺で次の行動が分かったためすぐさま回り込んで空いてる手で彼女の口をふさぐ。

「~~!!?」

 顔を真っ赤にさせて声を上げようとしていたのでそのまましばらく塞いでいると、段々大人しくなったので手を放す。

 こいつに大声を上げらえれたら最後、絶対面倒な展開にしかなりえないし職員室の前だから騒音公害に近いことになる。

 気分が落ち着いたのか彼女は振り返ってからいつも叫ぶ声のトーンより落として声を上げた。

「な、何するんですか!?」

「うるさい黙れ。職員室の前だぞ」

「……うっ。すいません」

 と素直に謝ってから、彼女は深呼吸をしてから俺に訊いてきた。

「その書類ってもしかして」

「お察しの通り契約書だよ」

 そう答えると光は目を輝かせながら「流石です!」と自分のことのように嬉しそうに言い、すぐさま不安そうな表情をして「それで、どこにするか決めたんですか?」と訊いてきたので「どこでもいいだろ」と答えてさっさと職員室へ入ることにした。

「酷くないですか!?」

「失礼しまーす」

 廊下で響く声が聞こえたが無視し、俺は中に入ってそのまま担任の先公の席へ向かう。

「全部読みました」

「おおそうか。で? 一応聞くが、契約したいところはあったのか?」

「ありません」

 間髪入れずにそう答えると、「一応理由を聞こうか」と言われたので説明した。

「入学して二ヶ月で事務所の契約なんてする気がないだけです。それに、私事が忙しいのでもう少し慣れたら考えようかと」

「……そうか。馬鹿正直になる気がないとか言わないか不安だったが、確かにそういう事情も納得できる。ただ、お前にとって今が最大のチャンスかもしれないんだぞ?」

「衝撃と言ったら確かに最大のチャンスでしょうけど、それって結局一発屋になりかねないという危険を孕んでますよね? 長く続けるなら地道に名を売りながらの方が良いかと思いますけど」

 そう反論すると先公も理解していたのか「意外と冷静に見てるんだな」と感心してから分かった、という。

「契約書をくれた事務所にすべて断りの電話を入れる。それでいいんだな?」

「ああ」

「普通ならどこかに飛びつくものなんだがなぁ」

「んなこと言われても将来を見据えるのは大切なことだろ」

「……はぁ。お前と話すと頭が疲れる。まだテストの途中なんだからさっさと戻ったらどうだ」

「そんじゃ」

 追い払うような口調に俺は軽く返してからさっさと職員室を出て、ケイタイで時刻を確認してもうそろそろ現場行くかと思いながら歩き出した。



 雨の中自転車を走らせて撮影現場――河川敷へ向かう。

 職員室から戻ってきたときのクラスメイトの反応はどこか残念そうだったが、先のこと考えるより今のこと一歩一歩やるだけじゃねぇのかと言うと急にやる気になった。

 あいつらも浮き沈み激しいの何とかしないと難しいんじゃ……なんて心配しながら合羽を着て自転車をこいでいる。

 今回の河川敷のシーンでは、如月がどのくらい強くなったのかを確かめる意味合いを強めるために最低限手を出さない。殴るとしたら失望した時だけだ。それから立ち去るときに雨を降らす演出を入れるって台本にあったから、今日という日は何分恵まれているだろう。

 ――それが出演者たちの体調を考慮しないのならば。

 この大雨の中、合羽も着れずに撮影。俺はともかくとして、体の弱かった如月が耐えられるかどうかは謎だろう。

 ――まぁ、風邪ひこうが次の日無理やり撮影させるので俺としては関係ないのだが。

 そこら辺の体調管理とかは大丈夫なのだろうかと心配した俺は、やっぱり先に到着したので本人が到着してから尋ねてみた。

「ずぶ濡れになっても大丈夫なのか?」

 その質問がどうやら意外だったようで如月はきょとんとしてから「あ、はい。多分大丈夫です」と答えた。

「あそこでの経験で体が強くなったのが自分でもわかりますから。この大雨の中ワンカットで終わるなら明日に影響は――」

「来たのに申し訳ないが、今日の撮影はこれ以上できないな」

 問題ないと言おうとしたところで映像学科の方から中止の声がかかる。

「この雨で?」

「これもそうだが、お前たちの――特に如月の体調を考慮して、だそうだ」

「僕は大丈夫ですよ!」

 俺の心配をさりげなく除外されたのが不本意ではあるが、どうやら委員長たちがそう決めたのだろう。如月の方というと、自分のことを理由にされたのか怒っていた。

 まぁそれはなんとなくわかる。克服したと自身が思っているのに自分をダシにやめるなんて言われると。

 見た感じ大丈夫そうな気がするんだがなぁと個人的な感想を思い浮かべながら、「本人が大丈夫だと言ってるのに撮影を中止する理由はありませんよね!!」と以前とは違い勇ましく問い詰めているので、大丈夫だなと思いながらも少し考えてから「ちょっと冷静になれ、洋司」と呼びかける。

「僕は……え?」

 いきなり名前で呼ばれたのか驚いてこっちを見たので、「まぁ大丈夫そうなのは十分伝わったから落ち着けよ」と諭す。

「で、でも……」

「向こうが話し合って中止っていうんだから明日は何があろうと撮影するんだろ。向こうの人数が揃わなかろうが時間は待ってくれないんだから撮影せざるを得ないんだし」

 向こうで息をのむのが分かる。だが、それは自分たちの発言のせいだ。俺はただ現状を述べているだけだし。

「だから明日に全部回していいんじゃないか? 今日やるシーンまで撮影して明日風邪ひきましたじゃ俺達も話にならないし」

「それは確かにそうだけど……」

 言われることで段々と納得してるようなので「本物のドラマ撮影とかでも向こうの都合とか色々あって中止になったりするんだろ?」と彼自身に思い出させるように質問する。

「確かにそういうことはあるけど……」

「なら突っかかるのも面倒だろ。向こうがちゃんとスケジュールを決めてるなら、出演者である俺達が文句を言ってもそれほど考慮されないだろうし」

「……そうだね」

 と、ここでようやく洋司が納得してくれたので、俺は撮影班の方に「てなわけだ。明日頑張ろうぜ」と笑顔でエールを送った。

 それを見た彼らは緊張した面持ちで何度も首を縦に振った。

 ……少し脅しすぎただろうか。


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