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アイドルッ!  作者: 末吉
三幕・第八話~最後の練習と本番~
175/205

8-13 本番水曜日--1

 翌日をすっとばして水曜日(六月二十二日)。

 今回の撮影は先週と違い最終決戦前まで。最終決戦からは明日撮ることになった。まぁこれは確かにその方が良いと思ったが。

「おはようつとむ」

「おう」

「雨降ってるのに、カッパ着てまで自転車で来るんだね君は」

「だから言っただろ」

 現在雨が降っている。場所は先週と同じ場所だ。つまり、橋の下からである。

「か、風邪ひかないんですか?」

「ひいたことはないよね。そもそも、病気になったことすらないよね?」

「まぁ」

「そ、それはすごいね」

「というか、なんでいつきはここにいる」

 このシーンで彼女の出番がないはずなのにどうしてここにいるのか聞いてみたところ、傘を地面にさして「この後如月君と一緒のシーンがあるからね。メイクもしてあるから、そのまま最初の現場に居合わせた方が面倒が少なくて済むでしょ?」と笑顔で答える。

「ふーん」

「反応薄いね?」

「結構合理的な理由だったからな」

「あっそう」

「それじゃ、撮影始めますんで!!」

 ちょうどいいタイミングで声がかかったので、「おう」と短く答えてから俺は合羽を脱いだ。


 特訓の撮影後、俺は一人自転車で学校まで戻ってきた。残りの奴らは他の場所に移動している。ちなみに衣装は着替えてある。

 雨の中、合羽を着ているというのにいつもと変わらない速度を出していると、「雨だっていうのにかたくなに自転車に乗るのかよお前は」とパトカーに乗っている菅さんが窓を少し開けて呟いた。

「どうしたんだよ?」

 俺は少し速度を緩めて質問する。すると、向こうが「まぁ詳しい説明はこの状況では無理だし、店にでも入って落ち着こうぜ」と提案してきたので「無理」と即答する。

「俺まだ学校」

「ん? ……あーテストだっけ、学校の」

「そう」

「ならいいや。放課後終わったら警察署来てくれ」

「了解」

 俺がそう答えると、菅さんは窓を閉めて俺に手を振りつつスピードを上げて抜き去った。

 俺もスピードを戻してみたが、ふとそこで気が付く。

「……魚屋のおっちゃんにでも聞いたのか? 俺が通る道」

 そして野良猫を探していないことを思い出した俺は内心頭を抱えることとなった。


 うちのクラスは終盤辺りになると、実は学校での撮影がほとんどない。大体が学校の敷地外になる。つまり、学校に戻る必要性というのはあまりない。

 だがまぁ、戻らなかったら戻らなかったで面倒になりそうだし、そもそも俺は何回か学校をさぼっている。余計な勘繰りをされたくないので戻っているだけである。昼食もそこで食べればいいし。

 というか、撮影に加わらない奴らはどうしているんだろうか。そんなことを思いながら自転車置き場に自転車を鍵をかけて置き、雨が降っている中ビニール袋に入っているカバンを持って校舎へ向かった。

 昇降口へ入り、合羽を脱いだ俺は、これをどこに置こうか悩んだ。

 普通に考えればカバンを保護していたビニール袋の中だが、そうすると帰りのカバンが大惨事になる。

 そう考えると水気を外で切った方が良いのか……? なんて思いながら合羽を持ったまま考えていると、担任の先公が俺に気付いたらしく声をかけてきた。

「どうした八神。カッパ着てきたってことは、自転車か?」

「ああ。そうだが」

「……その合羽どうするつもりだったんだ?」

「考えてなかった」

「……まぁいい。今からビニール袋を持ってくるから少し待ってろ」

「あざーす」

 礼を言ったら先公が行ったので、俺はその前に合羽を乾かさないといけないなと思い外に出て合羽についた水を団扇のように手首のスナップを利かせて仰ぐ。

 今テスト中だろうから大きな音が出ないように抑えめにやること二分ぐらい。

 もともと防水加工で水を弾き易いこれについていた水分はなくなった。と、同時に先公が戻ってきた。

「ほら」

「あざーす」

 渡されたビニール袋の中に水気を切った合羽を入れた俺は、礼を言いながら上履きに履き替えてから教室へ向かった。


「うぃーっす」

 教室に入ったところ、もう出番のない、あるいはしばらく出番のないやつらが熱心に話し合っていた。

「何やってんだ?」

「……だからな……って八神か。まだ出番あるのに戻ってきていいのかよ?」

「まだ四時間ぐらいあるから暇なんだよ。俺の場合、自業自得だけど学校に一応顔出さないとまずい気がするし」

「ふ~ん……そういうものですかね?」

「というか、何を話してんだよ? 全員でこれからやるやつらに対するアドバイスか?」

 首を傾げてそう訊くと、「それはもう、自分たちの動きでやっていくしかないですよ」と言われ、周囲は頷く。

「じゃ、なんだよ」

「夏休みの予定だよ」

「予定?」

「そうそう。夏休みってやっぱり特別なのよ! バイトするにしても、ドラマとかに出演するにしても!」

 その力説を皮切りに「私たちまだ出演依頼出してないの!」「そうだそうだ!!」と同調する全員。

 ……一丸となったようでなにより。

 まぁ校則に載ってるから必死になるよなぁとぼんやり考えていると、「それだけじゃねぇ!」と藤田が叫んだ。

「うまくいけば水着姿とか見れて最高だろ!!」

『…………え―』

「って、なんで全員引いてるんだよ! 安井だって『やっぱり夏って言ったら水着だよ!!』って言っただろ!?」

「ここで俺を引き合いに出すのやめろ! お前みたいにオープンスケベじゃない!!」

「スケベじゃない! なぁ八神! お前はどう思う!?」

 いきなり話を振られたので我に返った俺は「……それだったらプロデューサーとかでそう言う番組作った方が良いんじゃね?」と話を逸らす。

「無理! 予算とかでつぶされる!!」

「そこら辺は分かってるのか……」なんて制作側の事情を汲み取った発言に感心してから「まだ撮影終わってないのに早くね、お前ら」と現実を突きつける。

 それに対し、木島が「それはそうですけど、僕達も速めにスケジュールの予定立てないと夏に乗り遅れる気がするので」と。

 まぁ予定を立てるのは大事だなと思いながら「それでこんなに盛り上がってたのか……」と嘆息する。

 すると十勝が「そう……って言いたいんだが、実はな」と前置きした。

「ん?」

「いや……お前の机を勝手に櫻田が「俺じゃねぇだろ!! しれっと責任おしつけんじゃねぇ!」てな」

「あー……」

 さえぎられた部分が何となく想像できたので、俺はこういうことならさっさと持って帰るか先公に返しておけばよかったと思いながら「まだ見てねぇよ」と答える。

「そうなのか……ん?」

「どうした?」

「今聞こえたのか?」

「いや推測」

「…………」

 全員が押し黙った。これぐらいなら簡単に想像ができるはずなんだが。

 と、ここでショックからいちはやく回復した若森が「ま、正直一番上の方を見て俺達が驚いてあとどんな会社から来てるのか話してたってだけだ」と締めてくれた。

「つってもな……正直会社名見たぐらいだし、スタント系の会社の方が多かったぐらいしか言えねぇよ」

 さらっと見た感想を呟くと「で、どこにするの?」と訊かれたので「詳しく見てねぇけど、決める気はねぇよ」とあっさり答える。

「マジかよ勿体ねぇ!」

「今この時期で簡単に決めるのももったいない気がするけどな」

「あー……それもそうか」

 何やら納得してくれたようなので荷物を机の上に置いた俺は「それじゃ、昼食べてくる」と言って財布を持って食堂へ向かった。


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