8-9 土曜日--2
今回も短いです。どうにも波があるのはご愛嬌ということでなんとか
「え?」
つとむが厨房へ戻った時、翠はつとむの言葉に耳を疑った。
なぜなら
「ありがとう? 助かった?」
まさに彼女が今謝ろうとした件に対し、感謝の言葉を述べられたからだ。
それを横で聞いていたいつきは混乱している翠に対してこういった。
「ね? だから言ったじゃないですか。つとむがあのことに対して翠さんに罪悪感を抱いているって」
「……でも」
「確かに爆弾を見つけたからつとむが怪我をした。けど、つとむはそんな部分的なところを見てないんですよ。翠さんにとっては辛かった出来事でも」
「……そうなの?」
「言い方は悪いと思いますけどね」
その言葉と同じぐらいのタイミングでマスターが「賄い飯です」といつきの前に料理を置く。
それを見てからいつきは「翠さんのトラウマなんて、つとむには関係ないんです」と声のトーンを落としながら断言した。
「……」
「すみません。ですが、つとむは何も言いませんから」
申し訳なさそうにいつきは付け足すが、翠にはその声が届かなかった。
なぜならしっくり来たから。つとむが自分の罪悪感に対し気にも留めていないことが。
それが「気にしなくていい」のか、「興味がない」のかは分からないが、あの件を彼が全く引きずっていないことが理解できてしまった。
自分のせいであんな目に合ったというのに(と彼女が思っている)……と考えていると、「どうしたんだ?」と声をかけられたので反射的に顔を上げて声の主を見る。
「つとむ……」
「どうしたんだよそんな切なそうな声出して」
「え、だ、出してる、私?」
「嫌でもわかるって。大方、いつきに何か言われたか?」
「……うん」
「君が言わないだけだよ」
…………う~ん。
なにやら口調が強くなったようなので、飲み物を作りながら考えたがうまい言葉が思いつかず、飲み物を完成させてから「抱えてるものは結局、自分の中でしか消化できないからな」と結論を言う。
黙る二人。
それを見てから息を吐いた俺は、
「……まぁなんだ。怖くなっても軽減したり克服したりするのは自分以外出来ないんだからよ。自分の行動次第だろ」
と言い残して飲み物を運ぶ。
……しかし、なんでいつきはあんなに突っかかっていたんだろうか。
バイトが終わり閉店作業はマスターがやるということで帰ることになった俺は、そういえば如月今どうなっているんだろうと思い本人に電話してみたら、『最後の特訓中』ということなので、やっている場所へ向かうことにした。
自転車で向かいながら、翠といつきについて考える。
結局三時ぐらいまで居座ったあの二人は、それなりに料理と飲み物を注文し、二人で言い合いながらも結局俺のことをしゃべっていた。
対応を変えようと思い立ったのはいいんだが、実際にやろうとするとどうやればいいのか分からずに結局いつも通りになってしまう。
が、それでも二人はなぜか嬉しそうにしていた。特に翠は先程までまとっていた後ろめたい雰囲気が無くなった。
帰り際には「また来るね!」とか元気いっぱいに言うものだから思わず苦笑してしまった。いつきに関しては翠がいなくなって少ししてから「……どうやら失敗したかな」と呟いてから店を後にした。何を、とは聞きたいと思わなかった。
で、店の忙しさは普段より四割ぐらい増していた。誰の所為かは知らないが、おそらく最初に来た客たちがSNSで呟いたのが原因だろう。でなければこんな場所に来るわけもなく(マスターが聞いたら怒るのは確実)、常連客より初見の客が多くならない筈。
怖いので見る気はないが、今頃どんな話で盛り上がっているのだろうかと自分の外部評価が気になったところで目的地に着いたので、結局あの二人ただ飯を食べに来ただけなのだろうかと疑問が残る結論になったまま棚に上げて自転車を止めて勝手に扉を開けて入った。




