8-7 水曜日午後
それからつつがなく撮影の工程は消化され、予定通り今日の放課後――午後五時ごろに終了した。
終わった俺はさっさと着替えてからバイトへ直行した。事前に委員長から許可はもらっている。
で、バイト先に到着したところ、いつきが上機嫌でコーラを飲んでいたので「珍しいないつもは紅茶とかなのに」と言いながらカウンターの前に立つ。
「おいつとむ。料理作れよ。お前指定の奴ばっかだからな」
「え、五枚ぐらいあったの全部それかよ」
「そのうちの一枚僕だから、早く作ってくれると嬉しいな?」
笑顔でそう言ってくるいつきが少しまぶしく見えた俺は、誤魔化すように「面倒くせ」と言いながら厨房へ戻った。
すべての注文を作り終え。
俺はマスターから今後の予定を聞かれていた。
「来週も似たような感じになるのかよ」
「再来週からは大丈夫になる……はずだ」
「なんで確定じゃないんだよ」
「俺の場合確定しずらいんだよ。やることある日が決まってるときは決まってるが、決まってない時に限って急にドッキングされる可能性があるから」
「ことわりゃいいだろ」
「それができない用件が殆どだから困るんだよ」
「難儀だな―お前も……ところでよ、今後の出演予定はないのか?」
「ねぇ」
「即答かよ!?」
と、話していると「来週土曜日は早めに切り上げてくれると嬉しいけどね」といつきの声が。
「おう。そうだな」
「ん? なんだなんだデートか?」
「えっ、あ、そ「ちげぇよ」……ふん」
「お前不機嫌にさせてるんじゃねぇよ!」
「俺!?」
いつきがなぜか不機嫌になった瞬間俺に非難が集中したので驚くと、逆にマスターたちが驚いていた。
「お前……素かよ」
「……え、ないわー」
「つとむ君って女の気持ちに関して鈍いのかしら」
さっきから何なんだよそれは? なんて思いながらため息をついているいつきに「スーツで行けばいいのか?」と訊いてみると、彼女は飲んでいたコーラを噴き出した。
「どうしたんだよ?」
「げほっ、げほっ……君がとても言わないセリフを聞いたからだよ」
「いや、お前が誘う店ってどんなのか想像できねぇからよ、高級店を考慮して聞いてみたんだ」
テーブルを拭きながら俺がそう答えると、「そ、それにしても、ど、どこでスーツなんて手に入れたんだい?」と質問してきた。
「振替休日の時に服屋行ったらスーツ作ってくれたらしい」
もちろん、いつきと一緒に出掛けるために作られた、なんて言わない。俺自身の願望ではないし。
「あれ、なんで服屋に行く必要があったんだい?」
「新しい服買いに行きたかったんだよ」
「ふ~ん……」
何やら信じてなさそうな視線をこちらに向けてくるので、「ま、店はお前が決めろよ」とだけ言っておく。
「え、い、いいのかい?」
なぜか顔を赤く染めるいつき。それを見てにやにやする客たち。
その雰囲気が何となく居づらかったので、俺はさっさと厨房に逃げた。




