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アイドルッ!  作者: 末吉
三幕・第八話~最後の練習と本番~
167/205

8-5 火曜日午後--2

 放課後。

 バイト先に休むと連絡を入れてから真っ先に河川敷に到着。

 暇なのでほかの連中が来る間に手加減した動きを体に覚えさせるべく、体を動かして脳と動きの誤差を修正していく。

 修正しながら自分の衣装のことを思い出す。

 時間ギリギリまであーでもないこーでもないと他のクラスの連中まで混じって話し合った結果できた、俺の衣装。

 端的に言うと、浮浪者。具体的に言うと、オンボロなTシャツの上にオンボロなコートを着てボロボロで色褪せたジーパンを履いてその上帽子とサングラスと身に着けた。声はもう地声でやらなくてはならないが、いつもと違う口調で喋ればしいだろうし、そもそも声が一緒でも演技という性質上驚くこともないだろう。発案したの向こうだし。

 なんて考えていたら誰かの気配が上からしたので動きを止めて見上げる。

 そこにいたのは、いつきだった。

「なんの練習してたんだい?」

「早いな。ほかの奴らは?」

「もうすぐ来るんじゃない? ……それにしても、昼休み終わってから帰るころまで衣装の話をしてたなんて、よっぽど難航したのかな?」

「まぁ、そんなところだ」

 と、そこで俺は気付いた。

「なんでお前がここにいる? 出番ないだろ」

「君の演技を見るためと、どんな衣装になったのか知るためだね」

「……はぁ」

 真顔でそう返事をされた俺はため息をつく。

 なんだってそんな程度のことを見たいのか。その気持ちが全く理解できなくて。

 こんなんだから周りの奴らに色々言われるんだろうなと思いながら首を回すと、他の連中も来た。

 一着は如月だった。

「は、早過ぎるよっ!」

「ちょっと一人で練習してた」

「……やっぱりおかしいって八神君」

「うん知ってる」

「って、本宮さん!? ど、どど、どうしてここに!?」

「だいぶ体力がついてきたようだね如月君。走ってきただろうに、ずいぶん元気が余ってるようだ」

「……まぁ、色々ありましたから」

 いつきの質問に如月は遠い目をする。それを見て俺は内容を思い出したが、口に出さない。

 代わりに、「他の奴らもそろそろ来るんだろ?」と助け船を出す。

「あ、うん。八神君が衣装着替えないといけないけど」

「なら撮影まで時間がかかりそうだな。いつきは帰ったらどうだ?」

 そういうと、彼女は頬を膨らませた。

「どうしたよ?」

「この撮影が終わるまで僕はここにいるから」

「なんでだよ。いる意味ないだろ」

「ふん」

「?」

 なぜかそっぽを向かれたので思わず首を傾げる。それを見た如月が「八神君……」とあり得ない人を見る目で引いていた。

 おいなぜだ。なぜ俺が悪いみたいになってる。

 確かに好意云々は受け入れようと思っている。だが、どれが「好意」なのかわからない俺にそこら辺の機微は判断できない。今は。

 正直光や美夏の方が分かり易いよな……茜も。

 なんて思いながらどうしたものかと腕を組んで悩んでいると他の連中が来たので、思考を切り替えてから撮影の準備に取り掛かることにした。


 道場の帰りなのか、それとも最近始めた体力づくりのためのランニングなのか分からないが如月がランニングしていた。

「はっはっはっ……」

 息が上がってる中でも前へと進む。限界はこんなものではないと言い聞かせるように足を踏み出した、が。

「あ、れ……?」

 彼は足元がぐらついてからゆっくり倒れこんだ。

「……」

 それを俺は下の方から眺めてからゆっくりと歩き出し、姿を現してから如月の体を担いで橋の下にある、自分が住んでいる場所の方へ向かった。

「う、うう……」

 数分後。

 地面に横になった如月が目を覚まし、体を起こして俺と目を合わせた。

「うわぁぁぁ!!」

 彼が驚いたので、俺は「ようやく目が覚めたか」とぼやく。

「え、え?」

「熱中症かなんかで倒れてたぞお前」

「あ、ありがとうございます」

 それから黙る俺達。

 話のつなぎ方を間違えた俺は少しうなってから、「お節介で訊くが、どうして倒れたのか心当たりはあるのか?」と質問することにした。

 すると彼は少し考えてから「……はい」と答えた。

「そうか。何か急いで体を鍛えようとしてるところ悪いが、お前のペースだと強くなる前に自分の体を壊すぞ」

「なっ! なんでそんなことが分かるんですかあなたに!!」

「分かる。体の使い方のなってない若造が倒れるまで追い込んだって、無駄だ」

「ですから!」

 と叫びだしたので俺はこの時のために練習した手加減の状態でパンチを繰り出す。

 反射的に彼は目を閉じて頭を抱える。「ひゃっ!」という、情けない声を上げて。

 それを見た俺は「鍛えてもこれを避けなくちゃ強くなれないだろ」と目の前で止めていた拳を引きながら言う。

「え、あ、あ」

 怯えている。恐怖心が根深いせいなのかもしれない。

 しかしながら俺には関係ないので立ち上がり、「お前が何を理由に強くなろうとしているのか知らないが」と彼を見ずに呟いてから橋の下から出てきてボクシングの構えを取りながら誰かに向けていった。

「暴力はしょせん暴力だ。それを振り回す理由次第で人格自体にも影響を及ぼす。ただ強くなりたいなんて理由だったら、やめとけよ小僧」

 そういってから俺はジャブを交互に繰り出していく。

 と、そんな時だった。

「お、なんだ爺さんボクシングやるのか。丁度よかった。俺達の相手してくれよ」

「え?」

 脚本では出てこない、つまり本物の不良たちが俺に向けてそう声をかけて降りてきた。

 思わず間の抜けた返事をする如月を無視し、「ちょうどいい小僧。見ておけ」とアドリブを開始する。

「は? おいおいマジで相手してくれるのかよ?」

「ケガしても知らねぇぞ爺さん」

「弱い者いじめみたいで悪いけどな」

 そういって降りてきた高校生――三人――が口々に言って囲んで構えたので、如月の奥の方にいるカメラマンが何とかうまく撮れる位置へ移動している中、俺はため息をついて「手加減してるんだよクソ餓鬼ども」と挑発する。

「「「ああん!?」」」

 そういって三方向から殴り掛かられたので、正面以外の拳を受け流し、正面から殴り掛かってきたやつは受け流された奴の拳に当たった。

「……え?」

 驚いている彼を無視し、それほど痛みがなかったらしい彼らに対し人差し指を立てて挑発する。

「くそがっ!」

 反応した一人がボクシングにあるまじきセオリー無視の大振りで迫ってきたので逆に踏み込んで顎にアッパーを入れる。

「がっ……あ」

 顎にダメージがもろに入ったせいか彼はそのまま倒れこみ、それを見た二人は動きを止めていた。

 俺は構えを解いて「まだやるか?」と二人に言う。若干の威圧感を含ませて。

 それに反応して怯えたのか知らないが、二人は「は、はいぃぃ!!」と気絶したやつを二人で支えダッシュで消えていった。

 しかし何だったんだろうかあいつらはなんて見送りながら考えていると、いつの間に登ってきたのか如月が隣に来ており、「あ、あの」と声をかけてきた。

 振り返るのも面倒なので「なんだ」とだけ返すと、「僕を鍛えてください! お願いします!!」と頼んできた。

「……すでに教えてくれる人がいるのだろ?」

「はい。けど、それじゃ足りないんです。それじゃ……」

「はぁ。そこまで急いで強くなろうとしたところで、日々の積み重ねで実感はしづらい。それに、二人に師事をするならやり方が違ってかえって強くなれないぞ」

 脅すようにそういうと、彼は「それでも頑張ります!」と決意を込めて答えたので、頭を掻いてから「そこまで決意が固いなら仕方ない。どうせ老い先短いのだからせめて混乱させずに導くか」とため息交じりに応える。

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 俺の答えを聞いた如月は嬉しそうにそういって、頭を下げた。


 と、どうやら今日はここまで良いらしい。

「喉乾いたな」

「飲み物ないの八神君」

「ねぇ」

「えぇー」

 そんな声を聴きながら川の水煮沸すれば何とか飲めねぇかなと考えていると、「って、さっきの人たち僕達のクラスにいなかったよね?」と如月が質問してきたので、俺は「ありゃどっかの高校で不良やってる奴等だな」と軽く返す。

「あー……やっぱり」

「しかし本番どうすっか。都合良く来るわけねぇし」

「ならその場面で不良役の人たち引っ張ってくればいいんじゃない? 出番が増えるだろうけど、そこら辺はアドリブでやってくれるだろうしね」

「いつき」

「と、いうより。僕がそう提案しなくたって君なら考えてたでしょ?」

 そう言いながらいつきは俺達にペットボトルを投げてくる。

 片手で普通に受け止めた俺と両手で何とかキャッチした如月は彼女に礼を言う。

 それを聞いたいつきは「まぁ君の演技が見れたからいいさ……それにしても、思い切って浮浪者になるとは。衣装も変わるものだね」と俺の格好を見ながら感想を漏らした。

 それに如月も「最初は驚きましたよ。確かにあの指定された格好八神君に似合わないと思ってましたけど」と同意する。

 対しいつきは「案外似合っていたかもよ」と言ってから俺を見て笑う。

 金返さねぇとなと思いながら「どうだろうな」と適当に返事した俺はペットボトルのキャップを開けて中身を飲んでから「さ、帰る準備するか」と言った。


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