8-1 いよいよ
さぁここから自分を追い詰めていこうかと思います。……更新ペースより三幕終わらせられるかな?
六月十三日(月曜日)。
昨日は普通にバイトを開店からやっただけ。帰りに日本刀振り回してきたやつの顔面殴って路上に放置したぐらい。なんであんな所にいたのか知らないが。
で、今日。
いよいよ本番同様の流れと場所で練習する日が始まった。
とはいっても出欠確認で学校に一度来なければいけないんだが。
「うーっす」
「よぉ。いよいよ今週だぜ。マジで緊張してきた」
「でもテレビに出演するならこれぐらいで緊張してはダメなのでは?」
「確かにな―」
教室に入った時の挨拶でやる気が感じられる会話が交わされる。そりゃそうだろう。何せ仕事さながらの態勢で臨むのだから。
そんなことを思いながら席に着いた俺は、流石に今日一日で撮れないだろうと思いながら天井を見上げた。
「さて、いよいよ今日から始まるのだけれど」
HRが終わってすぐに委員長が話し始める。それを聞く俺達の緊張感はさながら試合前の選手と同じだろう。
「本番とは違い、今週は巻きに巻いて三日――今日含めて水曜日までに撮って木曜に反省点を挙げるわ。そうでもしなきゃ、私達のクラスが補習になりかねないもの」
さらりと突き付けられた現実に俺達は思い思いに絶望する。かくいう俺も俯いて息を吐いていた。何せ原因の一端なのだから。
そんな様子を見ながら彼女は淡々と進めていく。
「とはいえ、それでも何とかしなければ私達がこの業界で生き抜くことは厳しいと考えておけばどうするべきかはおのずと見えてくるはず。来週までに突貫で修正を入れて失敗したら元も子もないけど、頑張りましょう? 補習回避と、私達の仕事を確保するために」
『っしゃぁっ!!』
こうして全員が一丸となって始まった。
最初のシーンから順撮りしていく。それでも準備というのは必要だ。
カメラなどは撮影する方が持ってきているし準備などをしてくれるのだが、小道具や衣装、メイクなどの準備というものは俺達にかかわってくるため、意思疎通やスピードがともかく大事。
なのだが。
「一応私達のミーティング通りにやってるけど……やっぱりもどかしいわね」
「本当だね。一人ひとり顔の特徴が違うからメイクをするのも難しいね」
やはり実際にやるのと話し合いの差が出てきてるせいで難航していた。
現在メイクをしているのは今日撮影があるやつら。俺はないため出番のないやつらと一緒に小道具のチェックや大道具の準備を手伝ってる。
「おいこれはこっちでいいのか?」
「あ、はい! お願いします!!」
「すげぇな八神やっぱり……あのパネルとか普通二人以上で運ぶんじゃねぇの?」
「というか、本当器用だよな」
「おい、手を休めるなよ」
「「わ、悪い」」
そうこうしている内に十時になってしまった。セットなどはすべて終わり、これでもう最初からの撮影はできるようになった。
ま、少し休憩してからだろうが。
今更だが、最初のシーンは登校から始まるので、俺達は今学校から出ている。交通整備などに関しては事前に説明されているのか住んでる人たちはすんなり受け入れてくれた。俺を見かけるたびに「頑張ってください」と言う人がいるんだが、生憎今日は出演しないので手を振るだけで何も言わなかった。
休憩時間が終わり、撮影が開始された。
『はぁ……』
如月が溜息を洩らしながら学校への坂道へ向かっていく。
彼がまとうその雰囲気は、今から学校へ行くのが心底嫌なのが伝わる。
まぁそれもそうだろう。不良に絡まれているのに行きたいなんて前向きな気持ちになるわけがない。
ほかの生徒が通り過ぎていく中、トボトボと歩いていると彼女が背中を叩きながらあいさつした。
『おはよう翔也君! いつにもまして暗い顔してるね』
『……あ、黒井さん』
彼女――いつきの挨拶にさえ如月の返事は暗い。
うまいもんだ。学校に対する不安などが分かり易い。まぁ台本読んでいたからかもしれないが。
如月のペースにいつきが合わせて歩いているのだが、如月は気付いてないらしい。いや、気付いていながらも演技でごまかしているのかもしれない。
スミレ学園までの坂道をしゃべりながら歩く二人。その背中を少し見つめていた俺は、特に何を思うことなく背を向けてセットの片づけなどを手伝うことにした。
誰かの視線を感じたが、俺は興味がなかった。
昼食の時間。
いつもなら一緒に食堂で食べるのだが、撮影をそのまま続けるので、関係のない人間は各々撮影に関係のない場所で食べていた。
無論、俺も。
「あれ、本宮さんはどうしたんすか兄貴?」
「全体練習で撮影中だろう慎……しかし大変そうだな」
「ああ全くだ」
現在屋上と自分たちの教室は使えない。昼食の撮影でキャスト達がいるからだ。
別に出演しないなら混ざってもいいと思うだろうが、一人何役もやるとなると現状厳しいので関係ないやつらはその近辺へ近寄るのを自主的に避けている。
俺は食べながら「お前たちの昼食の時もそうだったのか?」と質問する。
「そっすね……うちらの時はもうそのまま普通に。食堂で食べる人たちは食堂で、教室で食べる人は教室でって感じっす」
「付け加えるなら、普段食堂を使っていても教室でって台本が書かれていると台本通りに教室で食べる。運のいいことに俺と慎はそういう役にならなかったから関係ないがな」
「ふ~ん」
「それにしても兄貴と一緒に本宮さんがいないのはなんか新鮮っすね」
「そうか?」
慎の言葉に俺は首を傾げる。
昔は確かに大体一緒にいたが、最近では向こうの事情に巻き込まれることがほとんどないので意外と一緒にいる時間は減っている。
寂しいとは思わない。むしろ当然だと思っている。
向こうはレールに乗った上で重責のかかる人生。大して俺は一人で生き抜くことを前提とし、深い業を背負った化け物。道がすれ違うのは時間の問題だ。
それはここにいる奴等にも言える。
ある一時で道が合ったとしても、それ以降の道が重なることは結構低い。
人生とはそんなものだ。
…………と、今までの俺はそのまま伝えるだろう。
だが、
変わろうと決意した状態で、
それは絶対に言えないものだ。
「……今はテストに向けて頑張ってるからな。流石のあいつも時間がなくてこっちに構えないんだろう」
「「……」」
そういうと二人は驚いていた。
食べ終わった俺は片づける準備をしながら「どうしたんだよ?」と訊いてみる。
答えは甲斐が教えてくれた。
「いや……お前なら『もともと立場が違うのだからこれが正常だろ』とか言いそうだったからな。意外だっただけだ」
「喝入れられたからな。変わろうとするさ、俺だって」
「……それでも、一朝一夕で何とかなりませんよ」
「だから少しずつだ。自分の中のそういう部分を少しずつ変えていく。絶対に変えられないものを除いてな……そんじゃ、俺はこれで」
そういって俺はそのまま食器を片付けて食堂を後にした。後ろから『慎も変えてけ』『うっ』という言葉を聞きながら。




