7-14 散策
「どういうの買う予定なんだ?」
「う~んとね……」
店内の男女比率が女性に傾いてるな……と思いながら聞いてみると、どうやら茜も具体的なものを決めてないようだった。
まぁいきなり来たようなものだしな。そんなことを思いながら店内を見渡してみると、ピアスとかよりネックレスとかの比率が多いことに気付いた。近くにあるのを見ると指輪とかチェーンがある。
最近だとピアスは売れないのだろうかと自分がつけてないのに考えていると、「お兄ちゃん行こう?」と腕を引っ張られたので奥へ進んでいく。
「そういえばお兄ちゃん知ってる? このお店ってうちの商店街にある銀時計さんの二号店なんだって」
「そうだったけ?」
「あれ? 知らなかったの?」
「俺こういう店あんまり来ないし。片寄さんと話すとき大体腕時計だから」
「そうなんだ? お兄ちゃんでも知らないことってあるんだね」
「何でも知ってるわけじゃねぇよ俺だって」
そんなことを言っていると「お客様」と声をかけられた。
「ん?」
声がした方へ振り返ったところ、そこにいたのは件の人物だった。
「マジで二号店だったのか、ここ」
「まぁ、そう。……にしても、まさか『拓斗』君が来てくれるとはねぇ」
「おいこら」
そういって睨むと「ははははっ。いやごめんごめん」と言葉だけの謝罪をして片寄さんが「何か買ってく?」と訊いてきた。
「金がねぇから冷やかし」
「ざっくりいうねぇ。茜ちゃんは?」
「え、えっと……あの、このお店限定で売ってる指輪はどこにありますか?」
「ああ、あれね? こっちこっち」
そういうと片寄さんは歩き出したので俺達はついていく。
というより、店長自ら案内されてる俺達が奇異な目に映っているんじゃないだろうか。何気なく視線が集まっている理由を考えながらついていくと、「一応目玉商品だからね」と言いながらショーケースの前で立ち止まる。周囲に人が集まっているのも気にせずに。
これだけ集まっているのだから確かに人気商品なんだろうと解釈しながらその商品を眺めてみる。
それは、簡単に表現すると質素だった。
装飾品であるにもかかわらず宝石やガラスなど一切付けず、ただ単一素材をきれいに磨き上げたもの。
だが、それに見入ってしまう。おそらく職人が手間暇かけて磨き上げたと分かってしまうからだろうか。
なめらかな曲線。光が反射し、銀色に光るその指輪。
繰り返してしまうが、本当に装飾がない。何か彫ってあるわけでもない。ただただなめらかに、美しく磨き上げた、指輪。
誰も彼も固唾をのんで見ている中に俺達も混ざり、それに圧倒される。
「どうだい?」
「……ああ。すげぇよこれは」
片寄さんに感想を聞かれたので素直に答えると、「いやぁ君がそう言うんだから本当にいいものなんだね」と言い出すので「俺は鑑定士か」とツッコミを入れる。
が、片寄さんはスルーして茜に「どうだい?」と同じく質問する。
それに対し茜の答えは「すごいです……」とだけ。
「そっか。それは良かった」
「ちなみに値段は? かなり手間かかってるだろこれ」
「ん? 値札はちゃんとあるよ」
そう言って指輪の下をさすので俺達はつられてみて、それぞれ漏らした。
「まぁ、妥当だよな」
「……うわぁ」
値段は税込み三十万也。
「また来てねお二人とも」
「おう」
「はい!」
結局、限定品の指輪のインパクトのせいでほかの商品など目につかずそのまま店を出ることにした俺達。その際に片寄さんがあいさつしてくれたので何とか返事する。
「……ねぇお兄ちゃん」
「……ん?」
「すごかったね」
「ああ。すごかったな、あれ」
先ほどまでの余韻に浸りながら感想を漏らす。宝石とかでも美しく高いものがあるが、あれは人の手で作り上げた努力の結晶だ。高いにしても宝石とはベクトルが違う。
同じような素材で同じような輝きを出しても、たぶんあれを超えることはできないだろう。少なくとも俺は。
一つの境地を見た気がするなんて思いながら腕時計を確認したところ、十一時半になった。
「もうすぐ昼だ」
「え、それじゃぁホールの方へ行かなきゃ!!」
そのまま茜が駆けだそうとしたので、俺は反射的に手をつかんで「飯食いながらでもいいだろ。二階からでも見られるし」と諭す。
「そうだけど!」
「つぅか今から行ったら立ち見すら難しいと思うぞ?」
「そ、そっか……そうだね」
ようやく落ち着いてくれたらしいので、俺はとりあえず「何食べる?」と聞きながら歩き出した。




