7-13 近況報告
ショッピングモールの敷地面積は広大だ。建物自体が横に長く、四階建てなので迷子になりやすい。おまけに人がごった返している状況もある。
「ところでお兄ちゃん?」
「ん?」
目的地間違ったなぁと思いながら近くの入り口から建物内に入ったところ、茜が声をかけてきたので俺は反応して「どうした?」と訊いてみる。
「ここで何を買う予定なの?」
「ん~……」
改まって買いたいと思ったものを思い浮かべてみたところ、別にここじゃなくても買えることに気付いた。
だから俺は正直に答えた。
「本かCDを買おうと思ったんだけどよ……別にここじゃなくてもよかったんだよなぁ今更だけど」
「じゃぁどうしてここに来たの?」
「手加減の練習をしようとあえて遠くまで来てみたんだが……」
「手加減って?」
「というより、制限だな」
「どういうこと?」
よくわかってないようなので、茜も染まってきたなぁと思いながら歩きながら説明した。
「身体能力おかしいだろ俺」
「うん……でもお兄ちゃんそんなに普段おかしくないよね」
「頑張って練習したからな……でもま、現状でもかなり浮いてるんだよ俺」
「……ひょっとして、この前のテレビ?」
「ま、そんなとこだ」
「大変だねお兄ちゃん」
「まぁなぁ」
そういいながら看板前に来た俺達はこれからどうするか話し合う。
「茜はあるのか? 買いたいもの」
「えーっとね……せっかくだからアクセサリーショップ見てみたい! あと、光さん見てみたい! お昼ごろホールでやるから二階からでも見れるし!!」
「今十時ぐらいだから確かに見れるな……」
正直言ってみたいと思わないのだが、付き合ってくれているので茜の意見をある程度尊重しないと。
この人ごみの中で迷子はシャレにならんなぁと思いながら「そんじゃ先にアクセサリーショップへ行くか。俺の用事はそのあとでもいいし」と行動指針を口に出す。
「え、いいの?」
「付き合ってくれた礼だ」
「ま、まだだからね!?」
「? まぁ行こうぜ」
何テンパって口走ったのか理解に苦しんだ俺は問答無用に茜の手を握って最初の目的地へゆっくり歩きだした。
「いつもよりゆっくりだねお兄ちゃん」
「今練習中だからな」
人ごみに紛れるような速度を維持しながら会話をする俺達。もちろん手をつないだまま。
まぁ恥ずかしいと思うが、はぐれたことを考えるとこうした方がいいと思っている。
……茜の方が嫌がっていなければの話だが。
「なぁ茜」
「何?」
「手をつないだままだが、大丈夫か?」
とりあえず確認してみる。
返ってきた答えはうん、だった。
「だってお兄ちゃんが手をつないでくれたのってそんなにないじゃん」
「ないのが普通なんじゃねぇか?」
「わかんないけど、お兄ちゃんは極端だよきっと」
「そうか?」
「うん」
普通の兄妹がどんなものかわからないんだが、茜が言うのだからそうなんだろうか。
考えるのが面倒になったわけじゃないが、無駄に考え込む必要がないものを考えるのもどうかと思い、それ以上突っ込むことはやめ、学校の話を振ってみることにした。
「そういや学校どうだ? 楽しいか?」
「うん! 相変わらず男の子からは敬語使われてるけど」
「あーそりゃ悪かったな」
「気にしてないよ……あ、そういえば前に帰った時友達が一緒にいたでしょ?」
「そういや」
「その中にどうもお兄ちゃんのファンだって子がいたんだよ。悠乃ちゃん。覚えてる?」
「……あー最初に質問してくれた子だっけか……にしても、ファン? なんでまた」
「うん。私もお兄ちゃんがテレビにほとんど出てないのにどうしてなのかなって思って聞いてみたら、どうも悠乃ちゃんのお姉さんからお兄ちゃんの武勇伝を聞いてたからなんだって」
「ふーん」
……って、武勇伝聞いてファンになったって、どういうことだ? 適当に相槌打ってからはたと気が付いた疑問だったが、憧れとかそういうのが入っているんだろうと自己解釈してから「そのこがどうしたんだ?」と本題を聞いてみる。
「お兄ちゃんのサインが欲しいんだって」
「サイン? そんなもの書いたことないんだが」
「そりゃそうだけどさ、光さんや美夏さんだって書いてるし、お兄ちゃんもこれからサインくださいとか言われるだろうから。ね?」
「んなこといわれてもな……」
サインなんて郵便物が届いたときとか書類に書く時ぐらいだし、しかもそれ普通に名前書いただけだからタレントとかが良く書くサインなんて簡単に思いつかない。
そもそも高校卒業したら必要ない気がするんだがなぁと思いながら「やってよお兄ちゃ~ん」と甘えた声でせがんできた茜に対し「いつかないつか」と先送りにしておく。
「いつかって、やる気ないでしょ?」
「一応はあるぞ、一応」
「お兄ちゃんの一応は当てにならないじゃん」
「んなこと言ってたら着いたぞ」
流石によくわかった返しだったので、俺は目的地に着いたことを言って話題を逸らすことにする。
それでうまく話が変わったので、安堵しながら一緒に店に入ることにした。




