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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第七話~テストに向けて~
158/205

7-12 手加減への道

 六月十一日(土曜日)。

 昨日は衣装合わせをするということで午前がつぶれ、本番の場所の説明からのシーンごとの動き決めに関して大雑把に行ったら終わった。

 で、来週に本番と同じ舞台を使って通しを行うことが決定しているので委員長から「本番だと思ってやるわよ」と激励された。現状だと動きなしだとなんとかできるようになったのかもしれない。見立てでは。


 で、今日。

 言わずもがな、茜と買い物へ行く日である。

 一応目的としては俺の手加減の練習。あと本当に買うものがあるのでそれを買いに。金はないが。

 何だろうか。自分で自分の首を絞めてるな。俺本当に独り暮らしまともにできるんだろうか。

 外的要因で散財してる気がするなと思いながらバイト先増やさないといけないなんてまじめに考えながら――

 今、たかあき駅前で一人茜を待っている。

 一緒に出ればいいものの、なぜか「先に行ってて」と言ったので素直に従ってこうして駅にいる。かれこれ十分ぐらい。

 いつきからはなぜか白い目で見られながらだったが……たかが兄妹で買い物するだけでその視線はあんまりではないだろうか。

 今後の金策などを考えながら腕時計を眺めていると、「お待たせお兄ちゃん!」といつぞやに着ていた服に小さい手提げバックを持って息を切らせてきた。

「行くか」

「うん!」

 なんか朝起きた時と服装が違う気がするんだが……なんて言う気にもなれなかった俺は、何気なく茜と手をつないで電車に乗ることにした。


 普通に電車に乗って、橘巳町へ。今回の目的地はそこにあるショッピングモールだ。

 駅についてから俺はそのまま走るんだが(まぁ基本自転車でどこでも行く)、今回の目標が手加減なので移動を普通の人と同じようにするためここはバスで行くか。金ないけど。

「どうすっかな……」

「な、何が?」

「ん? こっからの移動」

「バスじゃないの?」

「まぁ普通はな……乗るか」

「なんで残念そうなの……?」

 まぁ普通はそんな反応なんだろうな俺の発言は。

 どうしようもない俺と世界とのズレを再認識しながら、「行こうぜ」と茜の頭に手を乗せてからバス停へ向かった。

 バス移動の中。

「そういえばお兄ちゃん」

「ん?」

「今から行くショッピングモールで確か光さんが映画の宣伝をするトークショーやるんだけど……知ってた?」

「いや全然」

 興味がないからそんな情報を一切知らない俺は思わずため息をつく。

 どう考えても又巻き込まれるの確定だ。どうやら俺に平穏は訪れないらしい。

 つくづく体質が恨めしいと思いながら窓の外をけだるげに見て時間をつぶした。


 バスに揺られて数十分。ようやく目的地であるショッピングモールへ到着。と、同時に何かが起きる可能性が高い場所である。ここまで何かに巻き込まれたわけではないので必然的にそんな思考に陥る。

 かち合わない方向で何とか頑張るしかねぇかなと腕を伸ばしていると、茜が「なんか微妙な顔してるけどどうしたの?」と訊いてきたので、なんとなく気になった俺は「分かるのか?」と質問してみる。

「段々と、だけど。お兄ちゃん、初めは怖い顔で表情固定されてるのかと思ったぐらいだもん」

「そんなに表情変わってないのか?」

「どうなんだろ? 喜怒哀楽ははっきり出てるけど、それ以外の焦ったりとかの表情は分からないかも」

「そうなのか……」

 改めて言われると自分の中でいかに表情が制限されているのかが分かる。制限、という言い方は悪いのかもしれないが、俺の中ではそれがしっくりくる。

 なにせ、ハッタリや嘘なんかを平然と並べて劣勢をひっくり返したりしなければいけない人生だったのだ。焦りなどの些細な表情は全部出さないようになっている。

 良いことと云えばいいことなんだろうがなぁとぼんやり考えながらバス停から動いてないことに気付いた俺は「さて、行こうぜ」と促した。


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