7-10 緊急事態
――その事態が起こったのは始めて一時間も経たないうちだった。
俺達が台本を読みながら動きを話し合っていると、彼女が勢いよく教室を開け何の発言もなしに教室に入ってきた。あとからついてきた二人は遅れて。
ひょっとして何かしら問題発生したんだろうか。だとしたら俺が関係する可能性があるな。現実に起こってほしくないけど。
一体どんな問題が発生したのだろうかと思いながら練習を中断して委員長の方へ視線を向けると、それが分かっていたのか何の合図もせずに彼女が切り出した。
「えー、撮影の交渉を行っていた映像学科で一か所だけ急遽予約自体をキャンセルさせてほしいと連絡がありました。ちなみに場所は最大の山場となる廃工場です」
ピンポイントで場所のキャンセルってひどいこともあったなぁと思いながら、続く言葉を推測する。
たぶん、俺の力を貸してほしいんだろうな。知ってるけど。
果たして。俺の予想は当たっていた。
「先生方には話を通してきました。今から場所の変更として私と、八神君で不動産に直接交渉したいと思います」
途端にざわめくクラス。だが、俺は平然としており、いつきはそんな俺を見て「君ってどうしてそう駆り出されるんだい?」と目で訴えていた。
そんなこと言われても俺にはどうしようもないというか。多分、どっかで会った事があるから指名されたんだろう。覚えがないが。
なので、肩をすくめて返事をしてから「だったら今すぐ行こうぜ」とある程度の荷物を持って教室を出る。
が、言い忘れていたことがあったので足を止めて教室へ顔を出す。
「あ、そうだ。笠松、戻ってくるまでよろしく」
「あ?」
「そんじゃ」
言いたいことは言ったので、俺は今度こそ教室を後にして下駄箱に向かうことにした。
同行する人間は映像学科と裏方の方から一人ずつらしい。
昇降口でアポを取るために電話し終わったところで彼女たちが来て自己紹介をしてくれた。
なぜ裏方も必要なのだろうかと思ったが、そこら辺は俺が気にすることではない気がしたので触れないことにした。
ちなみに電話した先は俺が知っている不動産会社。ただし、今もチームを組んで君臨している。
まぁ少しいざこざがあったから知り合いになったんだが。そんなことはどうでもいいだろう。
で、そいつらの事務所へ行くのに自転車を使いたかったんだが、三人を置き去りにするのが明らかだったので、タクシーかバスで近くに行くかのどちらかしか選択肢がない。
と言ってもバスしか選択しない気がするなとぼんやり思いながら自己紹介を聞き流して何も言わずに外へ出ていこうとすると、委員長が「説明してくれないかしら?」と訊いてきたので「移動中に教える。それより財布持ってきてくれ。直接行くから」と答える。
「え、い、今からですか!?」
「時間がないしアポならもう取った。大筋は話してあるからあとは直接行って場所を借りればいいだけだ」
「は、早い……流石です」
「分かったわ」
そういうと三人とも財布を取りに行ってしまったので、これ、下校時間に間に合うのだろうかと思いながら俺は校舎を出ることにした。
バス停で待つ。時刻表を見る限りだとあと十分もしないうちに来るだろうが、基本的に誤差最大五分ぐらい見てないといけないので遅くても十五分ぐらいには来るだろうか。その間に彼女たちも来るだろうし。
首を回したり背筋を伸ばしたりして待っていると、彼女達が来た。
「どこへ行くのかしら?」
開口一番委員長がそう聞いてきたので、「その前に」と俺は答えずに「どうして俺に声がかかったんだ?」と一番の謎を聞くことにした。
「一番詳しそうだと思ったからよ。まさか本当に知り合いがいるとは思わなかったわ」
「そうか」
果たして本当にそうなのか疑わしいものだが、気にしていたら進めないので俺は委員長の質問に答えた。
「廃工場を所有している不動産屋。撮影のセットなんかより本物使った方が幾分時間が短縮できる」
「あ、あの……私たち道具を作るんですが……」
「実際に現場見て足りなかったの造ればいいだけだろ。少しは考えてくれ」
「す、すいません!」
「まったく八神君は……ところで、交渉はやっぱりあなたが?」
「書類の用意は頼んだ。あとはどこがいいのかをそっちで相談して期間や料金などを話し合ってくれ。何でもかんでも頼られても困る」
そう答えたところバスがちょうど来たので、俺達はバスに乗り込んだ。




