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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第七話~テストに向けて~
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7-3 動き決め

「遅かったな」

「君のせいだよ」

「は?」

 いきなり俺のせいにされたことに首を傾げたが、そんなことに構っていられないので体を解す。

 それに座ってから気づいたいつきは質問してきた。

「何ストレッチしているの?」

「ん? ちょっと如月と動きの練習位はやっておきたいと思って声かけた。だから午後の最初は俺達ここにいないぞ」

「へぇ……みんなに混ざらなくていいの?」

「言いたいことは言った。それに、次の段階に一人でも動いておいた方がいいだろ?」

「確かにそうかもしれないけどさ」

 まだ何か言いたげだったので俺はチャイムが鳴ったと同時に「如月行くぞ」と声をかけて教室を出た。


 午後の授業はテスト準備期間中からない。その代わり、授業の進みは進学校より早いらしい。まともに受けたことがないのでピンとこない。小テストの時だけ起きて百点取るからまだ覚えているのだろう。ドラマリテラシーという科目に関しては満点だが内容をさっぱり覚えていない。嫌いだからだろうか。

ちなみにドラマリテラシーというのはこの学校特有で、テレビ出演などに際する注意や心構えなどを教える授業である。一年の夏休みまでに終わる。

 しっかし朝に通り過ぎたやつらは一体何の用だったんだろうかと思いながら屋上へ向かって歩いていると、「ま、待って!!」と大きな声が聞こえたので振り返る。

 一階分下にいる如月が、俺を見てから息を切らせつつ階段を走って上っていた。

 こりゃカメラ見切れるぞ俺なんて柄にもない心配をしてから欠伸を漏らして移動を再開した。

 俺が屋上についてから五分ぐらい経って如月が来た。

 これが『差』か……なんて思いながらコンクリートの地面に大の字になって寝転がり、荒い呼吸を整えている如月を見ている。かれこれ三分ぐらいこうしているだろうか。

 幸い、屋上には俺達以外いないので何の心配もない。俺自身は暇だが。

 特訓で体力つけてきたんじゃねぇのか? と疑問に思いながら空を仰いでいると「ご、ごめん……」とようやく整ってきた如月が漏らした。

「生きてるか?」

「なんとか……」

 ゆっくり、それでいて確実に立ち上がる姿を見た俺は、元々が低いんだろうなとあたりをつけながら説明することにした。

「これからやるのはお前と俺との一騎打ちの動きだ。とはいっても俺が考えたもので、他の奴らに言ってない」

「……え?」

 息を整えている中で呆然と返事をする。まぁ色々言いたいことがあるのだろうが、正直な話少しでも進めておかないと絶対苦労がついて回る。ひいては俺のバイト時間の削減にもなるので正直嫌なのだ。

 まぁそんな本音は伏せておいて、「動きを入れる際に喧嘩のシーンってのは戸惑ったりするだろ? 前もってやっておいた方がいいと思ってな」と肩をすくめて補足する。

「……確かに、そう、だけど……」

 段々と調子が戻っているらしく、しゃべる間隔が長くなってきた。

 俺からしたらそれなりに遅いのだが、正直一般的感覚ではないので普通が如月ぐらいなのだろう、きっと。比較対象がないからわからんが。

 肩で息をしなくなってきたのを見た俺は「んじゃ、説明するが」と前置きし考えを説明した。

「最初に遭遇した際、俺は一切動かないので本気で殴ってきていいぞ。ある程度やってお前が疲れたころに手加減して殴り返すから」

「……それ、喧嘩になってないけど」

「だってお前、一度負けるだろ。それぐらいの絶望感ぐらいは必要じゃないか?」

「それ絶望過ぎますよ」

「とは言ってもなぁ……土曜日のテレビ見たらわかると思うんだが、正直殴り合いを最初にしたら最後のシーン出来ないぞ?」

「…………あーそういえばそうでしたね……」

 何やら遠い目をしだした。きっと何かあったのだろう。

 なんか当番制で特訓してるとか言っていたから、場所によっては音を上げようが関係なく追い込むのだろう。一般人には地獄以外の何物でもないだろう。

「体を鍛える指導をしてくれるのはありがたいんですけど、体幹を鍛えるとか言って両腕に壺を乗せて五分維持とかいきなり無理ですよ。筋トレだって二十回出来ればいいのにいきなり五十回。しばらく仕事がないので続けられていますが、これで仕事入ったら僕死にますよきっと」

「何だそんな程度で音を上げているのか」

 思わず漏れてしまったその言葉に、如月は「そりゃ八神君にしたら欠伸が出るようなものでしょうけど」と言ったので、少し俺の昔を語ることにした。

「俺は最初、筋トレなんてしなかった」

「?」

 首を傾げたので、食いついたなと思い空を眺めて続けた。

「俺は親父が鍛えてくれたが、親父は子供の俺に最初基礎トレーニングを教えず俺の肩を脱臼させて嵌めなおした」

「え?」

「当時、二、三歳だった俺は当然痛みで気を失った。で、目を覚ましたら親父がこう言った。『これよりひどい痛みを伴う特訓をこれから課せる。ただ、それだけお前には強く、丈夫になってほしいんだ』ってな。当時の俺は多分、嫌がっていた。嫌がっていたが、親父に敵いはしないから絶対強引に連れていかれる。そんな日々の繰り返しだったよ。仕事帰りの親父に手を引かれ、暗闇の中親父の声に合わせてトレーニングを受ける。休みの日なんざ一日山の中籠ったしな」

「…………」

 予想以上だったのだろうか黙りこくってしまった。まぁそりゃそうだろう。下手すりゃ幼児虐待で捕まるからな。

 だがまぁ、良くも悪くも無法地帯だったのと、血筋の関係上通過儀礼だったのでうちではさほど問題なかったと、今にして思う。

 フォローしねぇとやばいなと思い立った俺は、「ま、なんだ」と頭を掻きながらつぶやき、如月に顔を向けてからフォローしながら結論を言うことにした。

「結局はそれも親心なんだよ。だから過去のことに関してはもう感謝しかないな……って、訳だ。他者と比べてもお前にとってつらいもの以外ではないだろうが、お前自身が決めたんだから貫けよ」

 その言葉がどう響いたのか俺にはわからないが、彼はいつのまにか俯いていた……と思ったら顔を上げ、「ご、ごめん。それと、ありがとう」と覚悟を決めた眼をして礼を言ってきた。

「頑張るよ、僕」

「おうそうだな。頑張らないとまた幼馴染に守られるからな」

「そ、それは言わなくてもいいよ……」

 一瞬想像したのか暗くなった如月の姿を見て俺は思わず笑い、それに気付いた如月が非難する目を向けてきたので「悪い悪い」と謝ってから話題を戻すためにこう言った。

「んじゃ、一回やってみっか」


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