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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第七話~テストに向けて~
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7-1 変化

最近怠けていたツケがここに来て自分の首を絞めていく……でも負けたくない!


 バイト帰りに如月が連行されている場所へ顔を出して報告を聞いてから巻き込まれることなく家に帰った俺は、いつきから「明日学校に行ったら驚くんじゃないかな」と言ってきたので、素直に聞いたがはぐらかされた。

 で、茜に週末空いてるか聞いてみたところなぜか顔を赤くして二階へダッシュし、そのまま「大丈夫!!」と叫んできたのでちょっと実験に付き合ってもらおうと「ちょっと買い物行こうぜ」と誘っただけなのにいつきに背中を強襲された。具体的に言うと飛び蹴りされた。痛くなかったが。


 次の日(六月七日火曜日)。

 不機嫌ないつきより先に(いつも通りともいう)家を出た俺は、よく考えたら個人情報を報道しなくても近隣住民にばれるよなと今更なことを考える。

 自転車をこいでいるときに声をかけられる回数が増えている現状にうんざりしながら、人の噂も七十五日という諺を信じて手を振るだけにとどまることにし、朝から喧嘩している奴らを加減の実験台にして学校にいつもより少し遅く到着。

 いやー、普通の不良が見える速度までに落とすって難しいな。あいつらのおかげで少しは切っ掛けをつかめた気がする。感謝しないとな(ちなみに彼らはヤクザ同士の因縁の付け合いをしていたのだが、実験台になって感じた恐怖で組を抜けることをつとむは知らない)。

 だがやっぱり加減の練習は気心の知れた奴じゃないと駄目だな。さきほどの人たちの表情を思い返した俺は、はぁとため息をつきながら自転車を駐輪場に止めて鍵をかける。

 可哀想なことしたなぁと反省しながらのんびり歩きつつ、周囲の、視線を合わせないようにしながらも俺を見てくることに何も言う気がないので素直にスルーして教室へ向かう。

 すると、教室へ向かう途中で昨日抜いた気がする奴らが待っていた。

 面倒なので同じように抜いて教室に入る。何か声をかけられた気がしたが、どうでもいいので無視。

 教室に入ったところ、昨日までの雑談姿はどこへやら。みんな真剣な顔をして話し込んでいた。

 何かあったのかあの後と首を傾げながら、いつきが言っていた意味を理解して自分が普段座っている席に座ろうと移動を始めたとき、俺に気付いた安井が「お、八神来たか! ちょっと来てくれ!」と声を張り上げてきたので進路方向をとっさに変えて歩き出す。

 集まっていたのは安井達男子。不良役達ではないのだが、なぜ俺を呼んだのだろうかと考えつつ近づくと、「なぁお前だったらこの場面どうする?」と台本のワンシーンを指さして聞いてきた。

「如月にでも聞けよ。というか、なんで俺に訊く?」

「本宮さんに教えられたからですよ。八神君がとった昨日の態度の理由を」

「そうそう。そんで俺達もひっぱたかれた気分でさ、流石に三年あってもこのままやってたら自分の目標になれるわけねぇやということで心機一転してるわけ」

「いやだから、なんで俺なんだ?」

 肝心なところが答えられていなかったのでもう一度訪ねると、「だってお前、時たま来る光様に色々アドバイスしてるじゃん」と答えが返ってきた。

 あーあれか……と思い返しながら「パラパラ台本捲って内容を確認してから問題のシーンの感情を推測してるだけだぞ? 参考程度にしろとしか言ってないし」と答えると、「それが十分すごいんだぞこの野郎!」と返ってきた。

「そんなもの初心者の技術じゃないっての!」

「そうだぞ! 誰だってお前みたいに何でもかんでも何とかなるわけじゃないんだ!」

「そうですよ! 国語の授業じゃないんですから!」

「というか光様、ほとんどお前のアドバイス通りにやってたからな!?」

 テレビ見ない俺にそんなこと言われても知らねぇよと言いたくなったが、同時に自分の異常さが再確認できたので肩を落とすほかない。

 とはいったものの、自主性位は持っていて欲しいんだがなぁと光に対して思っていると、「ま、そんな訳でこのシーンについて教えてくれ」と最初の方に戻ってきたので、カバンをここから自分の席に投げて台本を読む。その際机にカバンが乗ったのが視界の端に映り周囲の奴らが唖然としていたが気にする必要がない。

 ……。

「これって十ページぐらい前の出来事引きずってるからこんな考えになっているんじゃないか? 幾分かこの間に日付は経過しているみたいだし、感情は膨れ上がるだろきっと」

 作者の考えなんてわからないが、きっとそんなものだと思う。人間関係の中ではありがちなすれ違いだ。

 と、そんなことを口走らずに反応をうかがっていたのだが、いかんせん誰も言葉を返してこなかった。

「おい、せめて『なるほど』とか言えよ。じゃねぇと俺がただの解説者になるだろうが」

 黙っている連中に対しそういうと、重りでもつけているかというぐらい遅く口を開こうとし、

「おはようつとむ、みんな」

 いつきが教室に入ってきて挨拶してきたのが原因か反射的に口をつぐんだ。

 昨日あいつマジで何言ったんだ? と首を傾げたくなる男子たちの反応に訊いてみたいと好奇心が沸いたが、すぐさまそれを流して「おう」といつきを見ずに返事をする。

 が、反対に女子たちはいつきが来たことに盛り上がっていた。

「いつきちゃんいつきちゃん! 私の衣装が結構地味なんだって!」

「それは仕方ないよ。役柄上目立ちすぎるのもダメだから」

「そういえばメイク道具持ってきた!?」

「あー、持ってくるの忘れたよ」

「本宮さんでも忘れるんだー意外」

「そうかい?」

 …………なんだろうこの温度差。立場が完全に女性優位になってる気が……?

 これ、本当にまとまるのか? なんて一抹の不安を抱きながら俯いている周りの奴らを無視する形で台本を机に置き、「ちゃんと言ったからな」と念を押して自分の席に戻る。

 中を確認したところ、書類がまだ残っていた。

「おはようつとむ」

「なんだ、書類持ってこなかったのか」

「か弱い女子になんてもの持たそうとしているんだい。あんなの家まで運ぶ前に無理だよ」

「一応中身は見たんだな」

「まぁ気になってたからね」

 そういいながら嬉しそうないつきは「で、どこに決めたんだい?」と聞いてくる。

「全部に目なんか通してねぇよ。それに、通さなくたって分かるだろお前」

「えー? 本当に―?」

「……なんでそんなに嬉しそうなんだよ」

「だって君のことだからね」

 意味が分からないので顔を向けてみると、彼女はウィンクをしてきてそれ以上語らなかった。

 まぁ大して興味もなかったので俺は普通にカバンを引っかけて窓の外を見ることにした。


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