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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第六話~余裕な危機、新たな問題~
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6-16 職員室と練習

「失礼しまーす」

 そういや茜達と一緒に帰ったときは合わせられたなと思いながらも職員室に来た俺は、とりあえずなあいさつで中に入る。

 すると、中にいた先公たちが一斉に視線を向けてきた。

 ? と首を傾げながら担任の席へ行くと、「来たな」と言って書類の束を持ち、「ついて来い」と言ってきたので、黙ってついていく。

 ついていった先は談話室。普段そこで先公たちが会話しているのか、煙草のにおいがそれとなく漂っている。

 お互い対面に座ると、さっそく先公が書類をテーブルに置いてから話し始めた。

「先日の出演番組、見たぞ。本当にとんでもなかったな……と、それはそれとして、だ」

「うす」

「態度が悪いのはどうにかしろ」

 だよなー。

 心底思った点を言われ、内心で納得した俺は「すいませんした」と謝っておく。

「……やけに素直だな」

「俺としてはいつも素直なんすけど」

「悪い方向にな」

 現状が嫌なのだからどうしようもない。と、言いたい衝動を抑えて「いや、まぁ……」と言葉を濁す。

 すると先公は「まぁその態度の悪さを補って余りあるインパクトのおかげで、今回は何も言わん」と流される。

「そんなことより、だ」

「はい」

「……あぁ、先日の番組で扉壊すという暴挙をしたことに際してだが、それも放送局の方で一悶着あったそうでそちらもお咎めなし。そんでもって、これが本題だ」

 そう言って置いてあった書類を俺の前に差し出す。

 一番上に書かれた文字を見たところ、契約書と書いてあったので内容を察したうえで問い返してみた。

「事務所の専属契約ですか?」

「どちらかというと、スタントマン系の方が多いな。芸能プロダクションも大手で何社か来ているみたいだが」

「……全部でどのぐらい来てるんすか、これ」

 束になっているので数えるのもばからしい俺が素直に聞くと、「二十社ぐらいだな」と言われた。

「言っとくが、一年がこの時期で契約書をもらうのが初めてのことだし、その上でこんな数とかは前代未聞だ。もらい始めるとしても二年、有名度などを考慮しても五社もらえば最高だというのに……」

 そこら辺の事情なんて知らんので適当に流しておく。

「ひょっとして全部目通したんすか」

「当たり前だろ。そのうえ電話がひっきりなしにかかってきたんだ。まったく朝から疲れたぞ」

「お疲れ様です」

 なんというかまぁ、大概クレームだと予想される電話に出るのは疲れるだろうな。

 そう思いながら労ったところ、「取材や出演オファーが殆どだったのが幸いだったな……疑いの電話をかけてくるのはそんなになかったぞ」と言われた。

 ……世の中って意外と優しいんだな。

 なんとなく俺はそう思ったが、商業目的の見世物パンダにすれば儲かると考えているんだろうなと思い至ったのでそんな感想は捨てた。

 その代わり、俺は聞いた。

「これ、全部目を通さないといけないんすか」

「一応な」

「見終わったらこの書類は?」

「私のところに返してくれ。その際、契約したい事務所があればその旨も伝えてくれ」

 答えなんてわかりきっているので見たくないのだが、このまま突っ返すのは無理なんだろうなと直感した俺は「暇があれば目を通します」と言って書類を持ち上げて立ち上がる。

「そろそろテストの準備しないといけないので」

「そうだったな……と、そういえば」

「はい?」

「都合二回の出演料の振り込みは完了している。その領収書だ」

 そう言って二枚の紙も差し出さしてきたのでそれも受け取る。

「早いすね」

「普通だろこのくらい」

 そんなもんかねぇ。

 振り込みの早急さにと感心しながら額を見ないでポケットに入れた俺は「そんじゃ、失礼します」と言って談話室から出ることにした。



 書類を持って教室に戻りながら、ポケットに入れていた領収書を取り出して確認してみる。

「二件で計三千円か……割に合わん」

 手数料その他諸々引かれたらこれぐらいが妥当なのかねと考えながらポケットに入れなおした俺は、ふとなんで口座番号知っているんだろうかと思った。

 歩きながら少し考えてみるが、答えらしいものはすぐに出た。


 入学する際の書類にそんなのがあった気がしたな、と。


 こういう時に必要なんだなとよく読まなかったことを棚に上げて納得し、そのまま教室へ入る。

 入ったらクラス全員がいた。練習はまだやっていないらしい。

「また俺待ちか?」

「という訳ではないのだけど、ね」

 ? と首を傾げながらも自分の席について書類の束を机の中に入れていると、俺の質問に答えた少女――委員長は「全員揃ったところでもう一度。全体練習についてです」と話し始めた。

「私達のクラスは他のクラスより圧倒的に遅れているわ。それを踏まえた上で今週中にやるかどうかを聞いておくわ」

「難しくね? だって今やったらボロボロだろ?」

「それはそうだけど……いずれはやらないといけないわよ」

「それに、私たちまだセリフすら覚えていないのよ? この状況でやったら流れ確認するだけで一日終わるんじゃない?」

 それを聞いた俺はこのままやってたら時間が流れていくのが分かったので、差し出がましいと思ったが「なんでそう、やる前から否定的なんだよお前ら。というか、台本覚えてないって致命的だろ」と言っておく。

 教室内が静まるのが分かる。視線が集まっているのも。

 なんでこんなこと言われて文句を言いたげなんだろうかとため息をついた俺は、立ち上がって教壇の方に移動し、委員長の隣で手を鳴らしてから言った。

「なぁお前ら。本当になりたいなら、どうして全力で事を当らないんだ? 覚えてない? もう一週間は経っているのだから少しは覚えていないのか? それに全体練習をやっておかないと都合二週間しかないのに本番に臨めるわけないだろうが。一発撮りに自信でもあるのか?」

 そういうと静まった上に雰囲気が暗くなる。

 これで頑張らないとお前らいつ頑張るんだよとげんなりしながら、たぶん、このクラス唯一の出演経験がある人物(俺以外)に話を振った。

「如月」

「え、あ、僕? な、なに?」

「ドラマの台本ってどのくらいで覚えるのが普通なんだ?」

「え、えーっと……役によってはセリフ量が違うから一概に言えない、よ……主役の時にはセリフ量が多いからキャストとして決まって台本が渡され、撮影が始まるまでの間には大体覚えてたかな。一ヶ月もあれば、一週間とか短かったりしてた、かな」

 ……なんだそれ?

 聞いてみて予想以上に幅があったことに俺は脱力しかけたが、咳払いして「まぁ、経験者はこう言ってるんだ。無茶振りされている前提でやらせたいんだろうよ、先公どもは」とまとめる。

「ところでつとむはどのぐらい覚えた?」

「あん? 普段から使ってるセリフが多いから特に覚えないといけないってセリフはそんなになかったし……どうせアドリブいれるんだからそこら辺のシーンで使いそうなセリフぐらいしか覚えてないな」

「それってさ、ほとんど覚えたってことにならない?」

「そうか? 覚える以前に使っているセリフだぞ?」

 真顔で質問してくるいつきに真顔で問い返すと、クラス一同が脱力した。

 ……ん?

「どうした?」

「えっと……八神君のその、さらりと衝撃的な発言をしたから、だと…思うんだけど……」

「誰だって普段から使ってれば分かるだろ。お前もビビりなんだから」

「……あー、う、うん。そうだ、ね」

 納得してくれたようでなにより。だが、たぶん納得した感じじゃなさそうだなこれは。

 なんで俺の発言でみんな絶句したり驚いたりするのだろうか? 普通に考えたりするんじゃないだろう……か。

 なんて考えているとまたいつきあたりに「君の思考が普通なわけないでしょ」と言われるんだろうなと思いながら追究するのをやめることにし、「まぁそんなことより。結局お前らやるの? 全体練習」と本題を確認する。

 その言葉に我に返ったクラスメイトは周りの奴らとがやがやと話し出す。

 自分の意見ないのかお前ら……とため息をつきたくなると、「いいじゃん。やろうよ」といつきが声を上げた。

「どうせ僕達ほぼゼロなんだからさ、現状を再確認して頑張るにはちょうどいいと思うけど?」

 笑顔でさらっと毒を吐いていたが、クラスメイトは気にしなかったのかいつきの言葉を聞いて少し考えてから頷いていた。

 それを了承ととったのか委員長が「それでは今から全体練習やります。各自台本を持ちながらでもいいので最初から最後まで台本通りに流していきます。読み合わせで」と言ったことが決定打となり、俺たちはこの日台本の読み合わせをやることになった。


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