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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第六話~余裕な危機、新たな問題~
143/205

6-14 撮影後

これにて撮影篇終了です

『と、いう訳で、』

『色々と波乱と常識が破壊された今回ももうすぐ終了となります!』

 無言のままステージに戻ってきた俺達。十六夜さんだけかぶっているのは、ギリギリのとこでせったくんさんが見つけられたから。

 そして時間終了となってCMの間にステージに戻ってきた俺たちはこうして並んでエンディングを迎えている。

 平手打ちを食らった俺だったが、顔にそんな痕はありません。多少痛かっただけなので。

 まぁエンディングといっても俺たちはただ立っているだ……

『今回は……まぁ、色々と常識が、ね? みんな壊されたと思うから……無傷ボーナスを差し上げるついでに色々と質問しましょう』

 そういうと同時にステージ下でスタッフが前に出るよう指示を出してきたので、頭を掻きながら二歩ほど前に出る。

 すると司会者二人が俺を挟んで質問してきた。

『まずはどこから質問したものかな……。今回参加してみてどうでした?』

 どうだったか……なんて言う質問に対し、答えは一つしかない。

『助け出すのに必死でしたね。楽しいとも思えませんでした』

『あのーこれバラエティなんですよ?』

 そんなことは百も承知である。だが、俺からすれば『助ける』という行為に必死になれない奴は人間じゃない。

 なんて流石に言えないので、『笑って人助けできますか?』と淡々と訊き返す。

 メグルさんが黙った代わりに今野さんがこういった。

『……えっと、結構辛辣な意見だと思うけどほら、テレビなんだから』

 その言葉に俺はかなりイラッと来たが、口にするのも憚れるのが反芻して理解したので『すいません』と謝ってから『ですが必死でしたので安堵したぐらいしか感想はありませんよ』と答える。

『……あ、そうですか……』

 何やら肩を落とす今野さん。生憎だが、俺にとってテレビも映画も関係ない。手足を動かせている「ここ」という現実で起こっていることに対処しているだけなのだ。面白いも楽しいもない。これが出来ないとこうなるという最悪の結果を回避するためだけに行動しているだけ。

 見ている奴等にとってはまさに嫌な奴なんだろうなと思いながら、これで終わりかなと後ろに下がろうとしたところ、意を決したのか復活したメグルさんが質問してきた。

『あ、あの、あそこまでの身体能力をどうやって身に着けたんですか!?』

 あれまだ全力じゃないんだが。そう思いながら先程までだったらどの位かかったかなと思い返し……正確な時期が思い出せないことに気付いた。

 たぶん、中学生に上がる頃には先程の状態を超えていたはず。となると……小学何年生だ? 上がる前には骨折に骨折に吐血に意識不明になってたから……う~ん。

『あの、拓斗さん?』

『……あ、すいません。確か幼い頃から延々体鍛えてましたので……詳しい時期などは覚えていないんです』

『そ、そうなんですか? で、でも、どうしてそんなことを?』

『家庭の事情ってやつですね』

 本当は「よしお前には強くなってもらうぞ。これは一族の掟だ!」とか親父が言ったのが発端なのだが、まぁどちらにせよ同じか。

 『夜神』という少し珍しい苗字で、かなり特殊な一族に関する事情なのだから。そんな些末事は言う必要もないだろう。

 ……口に出せないってのが本音だ。言ったらどうなるかわからん。俺が。

 そんな恐怖と内で戦っていると、感心したように『それは大変でしたね』と追及してこなかった。

 助かったーと思っていると、今度は今野さんが『ちなみに、どんなことをやってたの?』と聞いてきたので、オブラートに包んで答えることにした。

『筋トレは勿論、親と一緒に山の中を走り回ったり、空手、柔道、剣道、カンフー、テコンドー、ボクシング、ソバットなど格闘術をひと取り組み手で覚え、あとはひたすら覚えたのを型稽古でしたね』

 実際は山の中で一週間サバイバルや、バッティングセンターの最高球速のストレートを眼前で避けたり(150位だった気がする……)、遠泳と称して重りつけて四キロ泳げとか、潜水して一番深いところに到達できなければやり直しとか、正直人間が経験しちゃいけない鬼トレーニングをやっていた。が、そんなことは言えない。絶対に。

 幸い、これ以上の追及もなかったようなので安堵していると、『あ、無傷ボーナス』と思い出したかのように今野さんが声を上げた。

『忘れていました。無傷ボーナスの進呈です!』

『番組始まって以来初めてのことですから誰も覚えていないかと思いますが! 賞品は国内にある有名宿一泊二日ペアチケット! ちなみに場所は選べますのでカタログを参照してください!!』

 へぇ。

 そういうのあったんだなと知らない俺は半ば感心しながら、必要ない景品だなと思いどうしようか思案しながら無表情を貫いていると、『さぁこちらです!』と言われたので素直に受け取る。

 ぶっちゃけ使い道がない。有名な宿の一泊二日と言われたところで敷居が違い過ぎて逆に使いたくなくなる。親父達なら普通に使うのだろうが、庶民というか高校生の俺にとってはファーストクラスなんてもってのほかと同じ気持ちである。

 本気でどうしたものかと思いながら『これを使ってやっぱり白井さんとですか?』と訊かれたので、少し考えてから『特に考えていませんね』と無難に答える。ここで「はい」と答えるとスキャンダラス的なことに発展する可能性があるというのもあるが、絶対に知られてしまうので後々のことを考えると否定するほかないのである。ま、行く気は毛頭ないが。

 後ろでショックを受けている雰囲気はあるが当然無視。司会者たち二人も無言になってしまったのも俺には関係ないことなので無視。

 さてこれで本当に終わりだろうなと思いながら自然と元の位置に戻ったところ、司会者達二人は俺がいなくなったことに気付いたのか気まずい雰囲気を醸し出してから話題を変えた。


 というところで、この番組の件は俺の中で終了した。


 の、だが。


 美夏に挨拶をして即行で駐輪場に移動して自転車に乗り、その場を後にしようとしたところ、スルーしてもいい現場を目撃した。

 具体的に言うとSEIMIさんが十六夜さんをナンパしていた。駐輪場近くの森の中で。

「……」

 どうしようか逡巡する。が、嫌がっている雰囲気が見て取れ、なおかつそれに気付いていなさそうなので黙って自転車を止めてその現場に近寄ることにした。

 会話は二人が夢中になっているのがわかるが興味がないので、ある程度まで近づいた俺は(それでも二人が気付かない程度)SEIMIさんの真横で軽い右ストレートを繰り出し、繰り出された際の衝撃がSEIMIさんを襲い、ふっ飛ばした。

 ポカンとしている十六夜さんを見た俺は、声をかける気もなく自己満足できたのでさっさと自転車に乗って帰ることにした。


 と、ここで話がさらにこじれる。


 これを観覧していた飛翔達と遭遇したのだ。

 なんだこの不幸の連続なんて思いながら「よぉ」と不機嫌そうに声をかけると、飛翔達が俺を囲んで「なんでお前が!?」と声を大にして一斉に聞いてきた。

「うるせぇ! ……司会者の言ったとおりだよ。不本意ながら私立スミレ学園に通っている」

「ま、マジかよ……普通にヤンキー校に入学して入ってすぐに頭取って周辺を支配下に置いてるもんだとばっかり思ってたぞ」

「俺を何だと思ってやがる。やんちゃ好きの不良じゃねぇ」

「まぁ確かにそうなんだけどよ……つぅかお前、ひょっとすると白井さんとも知り合いだったのかよ!?」

「まぁ」

「今どこにいると思う!?」

「知らんよ。次の撮影現場にでも行ったんじゃないのか? 俺は用がないからもう帰るけど」

「マジかー」

 半数近くががっくりと肩を落とす。いやお前らずいぶん間近で見れただろうよ。そう言いたかった言葉を飲み込み、邪魔なので「さっさと散ってくれ」と言って周りの集団を散らし、そのまま帰ろうとしたところ。

 こんな絶叫に似た叫びが後ろから聞こえた。

「一生のお願いです! サインもらってください『皇帝』!!」

「知らねぇよ!!」



 結局のところそこから十六夜さんが俺にお礼を言いに来てSEIMIさんが飛翔達に睨みきかされて弱腰になり、そこで喚くものだからうるさくなった俺がどすの利いた声で失神させてことを強制的に終わらせたのだが、「よかったらこれ」と言われて差し出された名刺を受け取る羽目になり、さらに飛翔達からいろいろ言われる状態になったので我慢の限界だった俺は思いっきり足を踏み下ろす、

 ズシィィィィン!!! と盛大な音と振動が近くを襲ったのか周囲はあわただしくなるが俺には関係なく、青ざめてきた飛翔達に対し「これ以上はいいよな?」と脅して強制的に黙らせ、全力でこの場を後にした。


 なお、穴が開いてしまったので工事の件は頼み込むしかなさそうだ。うん。



 で、まぁ。帰ったら予想通りの状況になっていたので割愛し、次の日は開店からずっとバイトしていたところテレビ効果で客足が増えすぎたので心労もたまった。マスターも盛大に売り出そうとか言いやがったので視線で黙らせた。


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