2-7 バイト帰り
もうすぐ九千PV越えます…
しばらく色々と話していたみたいだが、俺にとってはどうでもいいので自分の仕事(暇な時は調理室の掃除など)をしていた。マスターはというと、他の客と談笑しながら飲み物の注文を取っていた。……抜け目ねぇな、おい。
そして、俺の仕事がひと段落ついた時に、丁度話が終わったらしい。二人が席を立つのを見た俺は、マスターに言われるまでもなくレジに移動した。
「会計をしたいn」
「コーヒーが一杯二百二十円。チーズケーキは四百三十円。紅茶は二百円。合計で千八十円」
「早いね、君。千八十円ね。はい」
「千五百円からだな。おつりは……四百二十円だな。はいよ」
「ごちそうさまでした。おいしかったですわ」
「そうか。それはよかったな。また来てくれれば、店としてもありがたい」
「ふふっ。それならまた来ようかしら。そういえば、あなたの名前はなんですか?」
「は? どうしてそんなこと訊くんだよ?」
「また会いそうですから」
「…嫌な予想をありがとう。俺は八神つとむだ。んで、そっちは?俺だけってのは、ちとずるいんじゃないか?」
「そうですね。私の名前は白鷺美夏と申します。それでは」
「ありがとうございましたー」
そんな会話をして、そいつ―――白鷺は帰っていった、のか? さっきの奴と一緒に行くみたいだから、またどこかに行くんだろうな。とぼんやり考えていると、
「おい。もうすぐ時間だぞ」
「何だとっ!?」
マスターの一言で、俺は我に返った。時計を見ればすでに五時五十分。もうすぐ上がる時間だった。なので俺は、いつも着替えているところに素早く戻って着替え始めた。
なんか、今日はこんなんばっかだな。
「いや~、あの店は静かで取材にはもってこいだね。今日はありがとね、白鷺さん」
「いえいえ。私も初めて行きましたが、静かでいいと思いますよ」
「そういえば、どうしてあの店員さんの名前を訊いたの?それに、どうして自分の名前を教えたの?」
「なんとなくですよ」
「そう。ところで、今日も帰りは迎えが?」
「そうですね。もうすぐ来ますよ」
キキッ――――――!!
「来たみたいだね。それじゃ、僕はこの辺で」
「ありがとうございます、平塚さん。一緒にいてもらって」
「いいって、いいって。君に何かあったら、僕の首がとぶからね。これぐらい構わないよ。じゃ、また」
「はい。またですね」
「お嬢様。お迎えにあがりました」
「ご苦労様です」
「? お嬢様、何か喜ばしいことでもあったのですか?」
「いえ、そんなものじゃないですよ。それでは、帰りましょうか」
「かしこまりました」
そう言って、お嬢様と呼ばれた少女――白鷺美夏は迎えの車に乗って、帰っていった。
ふぅ。二つ目のバイトに行く途中に何もなくてよかったぜ。今日だけで三つぐらい巻き込まれたからな、こっから先は何もないと思いたいな。そう思いながら、二つ目のバイトをこなしていった。
「ただいまぁ~」
と家に帰った俺の体力は、もうほとんどゼロ。正直、このまま布団に入ったら、翌朝まで寝てられる自信がある。そう思いながら玄関から二階に上がろうとすると、
「あ! お兄ちゃんおかえり! ……って、ちょっと!? 大丈夫なの、お兄ちゃん!?」
と茜が心配そうな声を上げていた。
「ん? 大丈夫だぞ。寝れば何とかなるからな」
「そういう問題じゃないよ!! なんでそんな無理するの!?」
「いや、無理はしてないぞ。ただ、」
そう、無理はしていない。ただ、
「ただ?」
「面倒事が起き過ぎただけだ」
「え?」
今日はとにかく、面倒事が起き過ぎただけだ。朝、爺さんが自殺しそうになったり、ひったくり犯を捕まえて尋問したり、二年の女子に絡まれたりと、ともかく大変だったんだ。だが、それをいちいち茜に言うと、またこいつが心配しかねないので俺は黙ったまま、
「お前も、もう寝ろよ。俺も寝るんだから」
「お風呂は?」
「明日の朝入る」
と言って、俺は二階に上がり自分の部屋に入ったらそのまま寝てしまった。オヤスミ。
「お兄ちゃん、どうしたんだろう?」
そう茜がつぶやいた時、
「ん? つとむの奴、帰ってきたのか?」
と、すすむがリビングから顔を出した。
「帰ってきたけど、すぐ二階に行ったよ」
「ああ、そう。ならもう、茜も寝なさい」
と玲子が言うと、
「なんでそんなにお兄ちゃんに対しては淡白なの!?」
茜が怒り出した。すると、
「それがあいつに対しての愛情だからだよ」
ぶっきらぼうに、すすむが言った。それを玲子は『そうなのよねぇ~』と頷きながら聴いていた。その言葉を受けて茜が、
「え? なんでそれがそうなるの?」
と困惑していた。
「子供を守ろうとするだけが、愛情じゃないんだよ。特にあいつの場合は、自分で何とかできないと駄目だ、と思ったから、仕方なくこういう態度をとっているんだ。…………そうじゃないと、あいつはいつ死んでもおかしくは無かったからな。」
最後の方は、茜に聴こえないように小声でそう言った。それで疑問が氷解したのか、
「そうなんだ。愛情ってわからないね」
と言って、茜は自分の部屋に行った。それを見届けた後、
「いつまで隠しとけばいいんだろうな、あいつの体質」
「いつまでも隠せるものじゃない気もするけどね」
そんな夫婦の会話があったという。




