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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第六話~余裕な危機、新たな問題~
136/205

6-7 一回戦:視聴者サイド

明けましておめでとうございます。本年も作品たちをどうかよろしくお願いします。

 とまぁ、そんな女子会めいたことが行われていることなど露も知らないつとむはというと、壇上に上がって司会の話を聞いていた。

『さぁ最初のステージはこちら! とはいっても皆さん見慣れているセットでしょう。そうです! この番組名物『落とすな落ちるな障害物!』ステージです!!』

『いつも思うんですけど、これ絶対最後の方に回せばいいんじゃ?』

『そこは私に言ってもしょうがない! ……ゴホン。えー、では! 初めての方もいらっしゃるかと思いますから、ルール説明行きましょう!!』

『説明中に視聴率落ちるらしいですよ』

『する前に不吉なこと言わない!! ……では説明を始めます! とはいってもルールは簡単で、スプーンに乗せた卓球用のボールをゴールまで120秒以内に運ぶだけ! もちろん、地面に落とさず! また障害物に弾き飛ばされないで!!』

『ざっくりじゃないですか』

『ぶっちゃけもうこれぐらいでみんな分かりますしねー。あとはほら、このセット!』

 そう言って今野さんがセットのある方へ視線を向け、カメラも自然と追いかけるように移動すると、モニターには俺達が挑戦するステージセット。

 上から見るとコの字になっているそのステージは、一直線ごとに異なる障害物が存在している。

『ご覧くださいこの意地悪なコース! 最初にハンマーを持ってきて次にシャワーによる滑る床! そこから段々道幅が狭くなるうえに両サイドから空気砲の発射!!』

『それらをクリアしたとしてもまだボールキャッチなんてさせますからねこの番組。まともにクリアできた人って片手で数えられますよね?』

『そうだねー。果たしてこの中でクリアできる人がいるのか! それは見てのお楽しみ!!』

 そう締めたらCMへと行くのが普通だと思っていたところ、さらっと『では最初の挑戦者の方に来てもらいましょう!!』とさっきの発言から少し間をおいて言い出したので、尺の都合かなと勝手に解釈して『拓斗さんでーす!!』と言われたのと同時にスタート地点に上る。

 周りからは特に反応がないのは別にどうでもいいので手持ちのスプーンを回して暇をつぶしながら直立不動の体勢。

 何の反応も示さない俺に見かねた司会の今野さんが『拓斗さーん! 大丈夫ですか!?』と声をかけてくれたので、俺は回していたスプーンを止めてから後ろへ振り返り『あ、すいません。ちょっと考え事してました』とピンマイクが拾える大きさで返事をする。

『考え事とはまた余裕ですねー。となると、このステージは楽勝だと?』

『最後の方以外は』

 正直言うとこのステージ全部余裕。多分、半分ぐらい時間余りそうな気がする。

 でもそれやると尺あまりそうだからなぁと考えていると『口調戻さないんですか?』とメグルさんが訊いてきたので『今回はこれで通していこうと思ってます』と答える。

『そうなんですかー!? 無理してません?』

『いいえ? 慣れてきてますので』

『慣れて…きている……? えっと……』

 おかしなことを言っただろうかと戸惑っている彼女に真顔で首をかしげると、『そろそろ始めますよ! 拓斗さん!!』と今野さんが言ってきたので『わかりました』とスプーンをスタート位置の横にあるテーブルに置いておく。

『メグルちゃんカウントお願いね!』

『え、あ、はい! それでは拓斗さんのチャレンジスタートまで』

『5! 4! 3! 2! 1! スタートです!』

 言われた俺はボールが乗っているスプーンを普通に手に取り、落とすことなく普通に歩きだした。


「いつきちゃんどうしたの? テレビにかじりついて」

「あ、玲子さん。つとむがテレビに出ているので見ているんですよ」

「へー。あの子またテレビに出れたの……今回事件なんか起きてないわよね?」

「というより、ある意味事件を起こすと思いますよ」

 つとむの家。家の用事は全部お断り状態のいつきは、泊まっている彼の家のテレビでその番組を見ていた。

 掃除を終えた玲子がその姿を目撃して先ほどの会話になった。

 彼女の言葉に少し考えた玲子は休憩として椅子に座り「まぁあの子も大概だからね……」と答えを察したのか呟く。

「あははっ。確かにそうですね」

 そう言いながらいつきは慣れた手つきで音量を少し上げる。その際に聞こえたのは、司会である今野の『え、は、はぁ!?』という驚きの声だった。

「今頃セールでも始まっているんじゃないですか?」

「終わってからが商店街のねらい目だと思うから大丈夫よ……それにしても、思いっきり手加減しているわねー」

「ですよね。つとむなりに考えての結果なんでしょうけど」

『スタート直後から走り出した拓斗さんですが、第一の障害を止まることなく通過! そのまま第二の障害、シャワーステージも足を滑らせることなく突き進み、第三の障害である妨害平均台を最後の方つま先立ちで、しかも空気砲のタイミングを計って通り抜けました! この間四十秒しか経っていません!!』

『走っているのに一度もボールを落とさないなんて人間業で可能なんですか!? なんて言っている間に覚悟を決めたのか最終ステージに挑むようです!』

『ピンポンボールを入れてから十秒後に発射されるこのステージに到達した人はたくさんいましたが、キャッチ位置までに間に合わなかったり落としてしまったりする人が殆ど! さぁ拓斗さんはー……って、何の迷いもなく走って立ち止まったぁ!? これは落下位置が予測できているというのか!?』

『そうこう言っているうちにボールは発射されて拓斗さんのチョイ前方に落ちて来ました。しかぁし! 拓斗さんはそれすら予測していたのか落下地点に移動が完了してい……え?』

『へ?』

『……今、ボールを打ち上げてキャッチしませんでした?』

『うん……真上に打ち上げたのを何事もなくキャッチしたね』

『……会場が騒然としている中、拓斗さんはそのままゴールしました。かかった時間は八十秒……番組始まって以来の最短記録です』

『うわぁ……』

 司会者の呆然とした言葉を聞いた彼女たちはため息をついて口々に言った。

「絶対あの子今『やっちまった……』とか思っているわよ」

「手加減の基準もだいぶおかしいですからね……それはそれで心強いとは思いますけど」

「惚れ直した?」

「へっ!? え、えーっと、その……」

 突然の言葉にいつきは顔を赤くしながら動揺し、あわただしく手を動かす。

 それを玲子がにんまりと見ながら「愚問だったわね」と更にからかい、余計にいつきは混乱する。

 モテるのは誰に似たのかしら。なんて誰かの事を考えながら、いつきの珍しい表情を笑顔で玲子は見ていた。



 その頃たかあき町のどこかの家。

「茜のお兄ちゃん、すごいねー」

「うん!」

 くれな町に住んでいた頃の学校の友達とたかあき町の友達と一緒に遊んでいた最中につとむのテレビ出演の方を聞いて急いで近くの家へお邪魔し、第一ステージを見終わった茜達は口々に感想を漏らしていた。

 だが茜は、どこか不満げだった。

 それに気づいた友達の一人が訊ねると、「黙っていたなんてひどいんだもん」との答えが。

 それに一同が理解を示していると、一緒に見ていた友達の母親が「あの子が自慢なんてするわけないでしょ」とあっさりと、それでいて我が子供のように理解している風に答えた。

「あの子本当、筋金入りのテレビ嫌いなんだから。自慢するよりは見られたくないのよ」

「お母さん、どうしてそんなことわかるの?」

 娘の質問に対し、母は「玲子姉様の息子とは何回も競っていたから分かるのよ。多分、この町に住む私たち世代より上は理解してるし」と言葉を濁す。

 本当は商店街のタイムセールでの喧嘩で顔を突き合わせ、それが終わってみんなでお茶をするときに本人から聞いた話なのだが、たかあき町以外の人もいるのだからとその事情をまるっと省いた。

 ちなみに。玲子姉様とは玲子が作ったレディースにいた証拠であり、尊敬と畏怖を込めた呼称である。本当に恋愛対象としてその名で呼ぶ輩もいたが、三日も経たずに矯正された(誰に、とは言わない)。

 そんな背景も知らないくれな町から来た茜の友達は「茜のお兄ちゃんって、町の有名人?」と茜に質問する。

 それに対し茜は「有名人っていうか、確かお兄ちゃんがこの町の一番上にいるって話だった気がする」と思い出しながら答えた。

『……では、さっそく終わったばかりの拓斗さんにインタビューしてみましょう。ずいぶん余裕にゴールしましたが、どうでしたか?』

『最後が一番、肝が冷えましたね。普通に乗せようと思ったんですが、回転がかかっていたので焦りました』

『……えっと、ちなみに、どうして球を浮かせたんですか?』

『回転を弱めるためです。ちょっとコツがいりますが、成功してホッとしています』

「町の一番上ってどういうこと?」

 他の友達がそう聞くと、茜は答えに窮した。

 別に言ってもいいかもしれない。けれど、この町の事を説明して嫌われないかという不安に駆られて。

 その心情を察したのか、現在茜が通っている中学校の友達は「まぁ有名人に変わりはないよね」と助け舟を出す。

「だったらそう言ってよ茜」

「ご、ごめんね」

「そんなことよりあの子、もう映ってないわよ」

『あ』

 最後まで見ていた友達の母親にそう言われた彼女たちは声をそろえ、つとむが映っていないテレビへ視線を移した。


正月効果で四百件お気に入り超えました。大変うれしく思います。

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