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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第六話~余裕な危機、新たな問題~
135/205

6-6 一回戦:女子サイド

一回戦だけはちょっと面倒に感じるかもしれません。

 スタッフに案内され、ぞろぞろとリハーサルを行った場所へ移動する俺達。その間観に来た野次馬たちもぞろぞろと移動し、俺以外に対する応援の言葉を口にする。

 律儀に応対するするのでウミガメが陸に上がるがごとく遅い。そのせいで俺だけスタッフに黙ってついてきているだけである。

 まぁぽっと出に声がかかるなんておかしな話だしなと思いながら飛翔達のグループを通り過ぎたのが分かったが、向こうが驚いて声が出てなかったので気にすることをせずに通り過ぎる。

「……ああ」

 一瞬なんで来たのかわからなかったが、『白井』さんのファンがいたなと思い出して納得する。残念ながら後ろの方にいるが。

 スタッフに急かされるだろうからそこらにいてもスルーされるだけなんじゃなかろうかと思いながら誰からも呼び止められなかった俺は、唯一対応に追われるスタッフすら追い越して何事もなく次の撮影場所に到着した。これは本来悲しいのだろうが、ぶっちゃけ出始めた人間にファンがついてるわけもない。そもそも俺はこれに出たら今年度に関してもう出る気がないし。

 バタバタと忙しそうにしている裏方の人達に驚かれながらも待っていること数分。ようやく他の出演者がスタッフに先導されて到着。司会の人達はそのまま駆け足で司会のステージへ上がった。

「『拓斗』さん」

「どうかしましたか?」

「お客さんは大切にするべきです」

「それよりスケジュール通りにいかないと生放送なので厳しいと考えますが?」

「確かにその一面もありますが、無愛想はダメです」

「……」

 普段から無愛想で通ってる俺にとってほぼ無理な注文に押し黙ると、「まぁそれはともかく。よろしくお願いしますね、『拓斗』さん」と言ってきたので意趣返しに大きく腰を曲げて右手を腹に左手を背中の方に当て「仰せつかりました」と返答しておく。

「……」

 ちらっと顔を上げてみると顔が真っ赤になっていた。

 こういうノリに慣れてないんだなぁと思いながらいつきに対してやった時のことを思い返していると、「それでは拓斗さん、せったくんさん、SEIMIさんの順に出てきてください!!」と言われたので動かない彼女に背を向けて移動した。


「……反則、じゃありませんか」

 司会が場を盛り上げているステージにつとむ達が上がった時。

 彼女はなんとか自分たちが捕らえられている檻の中に移動し、モニターも見ずにひとり俯いていた。

 理由は簡単。つとむが意趣返しにしたことの余韻が残っているから。

 あっさりと、それでいてまるで長年仕えてくれている執事のような流れる動作と言葉に、彼女の心のガードはあっさり打ち抜かれていた。

 普段なら絶対隠せる表情が全然隠せない。それをテレビに映されたくないためこうして俯いているが、それも時間の問題だろう。

 と、そんな風に考えていたところ「ど、どうしたの白井さん?」と緊張した声で話しかけられた。

 そっと顔を向けると、今女子高生の間で大人気のモデル、十六夜がどこか心配そうな表情を浮かべていた。

「な、何でもありませんよ。体調が優れないわけではありませんので」

「……そうね。さっきあの拓斗さんの言動に……ドキドキしているだけ。でしょ?」

「!?」

 あっさりと見破られたことに動揺が隠せない美夏。その姿を見て喜喜麻里菊はその長い髪から見える眼を鋭く光らせ、「……レアね」と呟いた。

 対してその光景を思い出した十六夜は「あーあれはすごいですね。さらっとあんなセリフ出てくるなんて。見てるこっちまでドキドキしました」と感想を漏らす。

「あの人、本当に入学したばかりなんですか?」

 そんな尤もな疑問に動揺を抑え込んだ美夏は息を大きく吐いて「はい」と平常通りに戻すことに成功した。

「……それにしては、滑らか過ぎ……ね」

「今年の入学生って、こんなにレベルが高いんですか? だとしたら、入らなくてよかった気がします」

「いいえ十六夜さん。『拓斗』さんだけが異常なんです。慣れている生徒もいらっしゃいますが、あそこまで普通にできる生徒はいないと思います」

「……むしろ、たくさんいたら困るわ、ね」

「ですよね」

 カメラが回っていないことが分かっているからか、そうやって雑談をしていたところ急に外から爆音が聞こえたために備え付けられているモニターに全員視線を向ける。


 そこに映っていたのは立っているスプーンを右手の人差し指の腹で支えながら安堵した表情を浮かべるつとむの姿。


 それと爆音が意味するのを三人は理解し、口々に感想を漏らした。

「いつの間にか終わってましたね」

「え、というより、あのステージクリア出来たってことですよね? 片手で数えるぐらいしかできなかったクリアを」

「……すごい人、連れてきたわ、ね」

 喜喜麻里にそう言われた美夏は、まるで自分が褒められた時のような笑みを浮かべて「私の自慢の、後輩です」と言いながらいつきが時折見せる感情について理解した。

 ダイジェストもなく次の番に向かってしまったので三人とも詳細は見れなかったが、次の場所に移動する際に聞こうと満場一致で決まったところ、SEIMIが落ちてしまったせいで十六夜は顔面にパイを投げられてしまう。

 結局せったくんもゴールすることはできず、美夏だけ罰ゲームなしだった。


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