表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第六話~余裕な危機、新たな問題~
133/205

6-4 本番:自己紹介

撮影開始です。

「本番五分前でーす!!」

 スタッフの一人が大声で俺達にそう叫ぶ。司会としてきている人達も緊張を紛らわすためなのか、深呼吸を何回もしている。

 他の共演者も似たようなものだが、俺の隣にいるやつだけは違った。

「楽しみですね、『拓斗』さん」

「……落ち着いてますね」

「そういう『拓斗』さんこそ。それに、落ち着いてませんよ私は。楽しみなんです」

「そうですか」

 どこの場面で口調が崩れるかわからないので精一杯取り繕っているが、正直言うとかったるくてさっさと帰りたいという、緊張感すら持ってない心理状況である。

 なぜって? 嫌いだからに決まってるだろ。表情に出してないけどな。

 テレビに出るときってあまり暗い表情するなとか言われているが……表情を消すのは問題……あるんだろうなぁ。

 ステージに上がる順番として俺達は大トリ。はっきり言うとオチ担当である。

 お笑い芸人、モデル、学生……どういう基準でオファーしたのか知らないが、人選が明らかに間違いである気がする。

「本番五秒前!」

 そのままカウントが続いていき、「本番始まります!」という声とともに司会の二人がステージへ駆け上った。

『ハイどーもー! 今回もハラハラドキドキをお届けに来ました『危機一髪』!! 司会はいつも通り私、今野史郎と!』

『アシスタントのメグルで~す! さぁさぁ今野さん! 早速今回の出場者を紹介しちゃいましょう!』

『って、雑談なしですか!? 私それなりにトーク準備してきたのに!』

『いやー、話すと長くなりそうなら全カットしましょうよー』

『相変わらずの容赦のなさ……』

『何か?』

『って、わかりましたよ紹介しましょう紹介!! 今回の出場者はなんと! 今話題沸騰中のタレントさん達です!』

『どうぞ―!!』

「ではせったくんさん達から行ってください!」

 マイクの声とBGMが隠れ蓑になっているのかスタッフも大声で指示を出すが、向こう側に聞こえている様子はない。聞こえていたら問題だがな。

 とか考えていたら『どうもーせったくんやで~!』という紹介とともに上がる黄色い歓声。これを聞くと結構人気があるのが分かる……生放送を現場で見ているシチュエーションによるテンションの高揚感でなければ。

『さぁ最近売れ出してきた中堅芸人のせったくんさん! ところで、名前言いづらいんですが変える予定は?』

『何で変えなあかんのや! あと中堅は余計や!! 確かにデビューしてから苦節十年色々あったけどな……』

『はいどうでもいいのでペアの方を紹介しましょう!『何でや!?』今回せったくんさんの相方となった方は第四回一人コント準優勝のこの方! 喜喜(きき)麻里(まり)(きく)さん!』

『ふひっ……どうもです』

 場が静まった。

 ひょっとすると俺もこうなるんじゃないだろうかと考えていると、アシスタントの方が持ち直した。

『あ、今野さんにパスします!』

『ちょ、丸投げ!? ……あ、あのー喜喜麻里さん?』

『なん……です…か?』

『それ、地ですか?』

『ふひっ』

 会話になってない。

 司会も大変だなと思いながら欠伸を漏らすと、『つ、続いては女子高生に大人気モデルのこのお二人です! どうぞ!』と逃げるように出番を促す。

 俺達のことを見ずに二人で手をつなぎながら上がっていくその後姿を見ながら、片方――女性の方がどこか嫌な雰囲気をまとっているのが分かった。

 面に出さないって大人なんだな。観察しながらそんな感想を抱いていると外から黄色い声の大合唱が聞こえる。もちろん、BGMの上からだ。多分、音量を押さえているんだろう。

 となると俺達の場合はうるさいままなのかなと推測していると、「『拓斗』さん。いよいよですね」と楽しそうに言う。

 で、登場の際のやり取りだが、せったくんさんが言っていた通り、どこか自分に酔っているという印象が強く司会の方もうまく流していた。さすがである。

 とか言っていたら俺達の番になった。

『さぁ最後の出場者になります!』

『今回はあの! 私立スミレ学園の生徒で、しかも三年生のアイドル認定生と新入生という、摩訶不思議な組み合わせです!!』

『メグルちゃん遭ったことある?』

『おじさん臭いですよ今野さん……三年生のアイドル認定生である白井美夏さんとは何度か共演しましたけど、とてもこんな危険な番組に出るタイプに見えませんでしたよ』

『さりげなく番組ディスるのやめなよ。そして私のことも……』

『事実じゃないですか』

『……ま、いいけどね。あ、だったらもう一人の方は知らないんだ?』

『え、まぁ。ただ先週起こったあの事件で果敢にも観客たちを逃がしたっていうことは局の人達が話していたので知っています』

『それ以上は?』

『知りませんよ当然』

『……では登場していただきましょう! どうぞ!!』

「拓斗さんに白井さん! 上がってください!!」

 なんか俺、すごい話もられている気がする。そんなことを考えながらもスタッフに指示された通りステージに上がる。

 観衆に晒されるというのは、存外弱気にさせる。意識していようがいまいがそれは周知の事実であろう。

 事実、一緒に入ってきた『白井』さん(腕を組まれたのでなし崩しで)から伝わる体温は上がっている。それは緊張しているから。

 なら俺はというと、口を閉じ、背筋を伸ばし、表情を消して直立不動の体勢でいつになったら美夏さんは離れるのだろうかとぼんやり考えていた。

 確かに観衆の目にさらされるというのは精神的にクるものがある。だが、俺にとってはそんなもの意識のうちに入らない。何故なら観に来ている人達のことなどどうでもよく、ただ『美夏を無事に助け出す』という目的にすべてを総動員している。あと、自分の口調が崩れないようにも。

 そして上がってきた俺達が他二組と同じ位置で立ち止まった時の観客の反応は、何もなかった。

 ……まぁ当たり前である。実績のない餓鬼にタレントとして活躍しているが学生の域を出ていないお嬢様。そんなヘンテココンビが出てきたところで観客の興味は薄い。

 あまりの妥当な反応に口調が戻りそうになるのを自覚していると、どこからか「あ! あのお兄ちゃん見たことある!!」と幼い声が聞こえた。

 それに反応したのが司会の方。すかさず番組スタッフに『ちょっと今叫んだ子にインタビューお願いできませんか!?』とお願いする。

 俺はさりげなく『白井』さんから抜けて少しだけ姿勢を緩める。それに気づいた彼女は少し残念そうな雰囲気を出していたが、表情には出さない。

 カメラマンとマイクを持ったスタッフが大慌てで移動し、叫んだ子供を見つけ出したらしい。詰めかけている人数はざっと数百人だろうか。密集している中で見つけられるというはもはや脱帽である。

 それを知った司会の今野さんがその子に聞こえるように質問した。

『ねぇ君、このお兄ちゃんをどこで見たの?』

 それに対しモニターに映っている(後ろの壁にモニターが埋め込まれている)小学生ぐらいの子供(女子)は興奮気味にしゃべった。

『うん! あのね、あのお兄ちゃんがね! 悪い大人の人をやっつけてくれたの!!』

『え? えっと、それはどこでかな?』

 ――この後追及されるとまずいと直感した俺は、思い当たるケースと記憶をすべて引っ張り出し少女の面影とかを頑張って探り空気を読まずに言葉を奪った。

『――くれな町にある小学校の間で話題になっていた不審者のことですね。たまたま帰り道に遭遇したもので、彼女が追われていたので助けて警察を呼んだんです』

 ですよね? と尋ねると『う、うん! やっぱりあの時のお兄ちゃんだ!!』と頷いた様子。

どうやら正解だったようで俺も内心胸をなでおろす。

 が、まだ彼女にマイクはつながったままだったようで。

『お兄ちゃん、なんかあの時と違うよ? 大丈夫?』

 …………。

 ハイ終~了。

 いや本当、マジどこでバレるかわかんねぇなこれ。開始五分も満たないぜ?

 あはっはっはっ…………はぁ。

 表情は完全に消え失せた中での独り芝居は自分でも滑稽だと思うが、これぐらいやらないと自分の運のなさを心底嘆きたいと思えてくる。

 と、ここまで黙っていた司会の今野さんが我に返ったのかマイクを持っているというのに叫びだした。

『え、えぇ!? た、拓斗さん! 不審者を捕まえたんですか!?』

 正直うるさいなと思いながら『はい』と短く答える。

 それを皮切りにざわめく会場。まぁ当たり前なのだろう。事件に遭遇し、解決に導く人間なんてものはそうそういないし。まして、高校生では。

 漫画や小説の中ぐらいだろそういうのはって感想が多いだろうなと予測しながら黙っていると、アシスタントのメグルさん(たぶん年上だから)が訊いてきた。

『そういえば先程、女の子がその時の口調と違うと言ってましたけど、ひょっとして緊張しています?』

『いいえ。私の素の口調が荒っぽいので出さないようにしているだけです』

『そうなんですかー。ではでは、ちょっとだけ素に戻ってくれませんか? どれだけ荒っぽくなるのかを!』

 いやそれって催促しちゃいけないやつじゃないのか? と思いながらも近づいて来てマイクを向けられたので素に戻っていつもの表情にして頭を掻きながら『あーこんな感じだ。もういいか?』と実演する。

 それを聞いたメグルさんはマイクを自分の口の方に戻して『なんか最初の方が違和感ありまくりですね今野さん!』と話を振った。

『ちょっとその振りはやめてメグルちゃん! ……でも、その風貌で敬語っていうのは確かに違和感しかないね。イメージ的に』

 お前もか。なんだ俺はそんなに敬語が似合わないのか。ただ目つきが鋭いだけで不良じゃないんだぞ(それに近い存在ではあるだろうが)。

 なぜこうも敬語を使っていると違和感を持たれるのだろうかと真顔で考えていると、『さ、まぁこんな感じで紹介を終わりたいと思います! それでは、コマーシャル!!』と二人が声を揃えて宣言したのでオープニングは終わりを告げた。


 ………マジでさっきまでの努力水の泡なんだけどよ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ