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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第六話~余裕な危機、新たな問題~
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6-2 共演者たち

今更というか、何度も言っておりますが、この作品はほぼ想像なので現実とは違いますからね。

 とりあえず白井さんに連れていってもらいTV局側に対する自己紹介は終わった。

「ありがとうございます、『白井』さん」

「……あの、『拓斗』さん。二人きりの時は普通にしてくださって構いませんよ?」

「ご冗談を。先輩方に素を見せられるわけがございません」

「……何か気が変になりそうで怖いんですが」

 ふむ。やはり翠に言った通り俺を知る人がこんな言葉遣いになると相当に堪える様だ。とはいえ、正直社会に出ることを考えるといつまでも今のままでいるわけにもいかないのは明白。

 ……大学卒業して就職するとして、無事に決まるかどうかは別として。

 まぁ未来は不確定だしなるようになっているだろと思いなおした俺は仕方ないので「……これでいいのか?」と口調を戻す。

「ふふっ。やっぱりつとむ君はその口調がお似合いです」

「それは俺にまっとうに就職できないと言っているようなもんだがな」

「大丈夫ですよ。その気になればどんな職業でも違和感なく仕事できるでしょうから」

「んなことより、最後に共演者のところに戻ってあいさつしなきゃいけないんだろ? あれ、リハーサルとかはまだか?」

「ええまだです。放送開始時間が二時ですので、その前にリハーサルなどを行います。一応聞きますが、この番組も有名なのですがひょっとしなくても」

「知らん。家に帰ったら夕飯食べて風呂入ってさっさと部屋に戻って寝たり本読んでる」

「夕方あたりはバイトですしね」

「っと、そろそろつきました、『白井』さん」

「ここからはきちんと自分で自己紹介してくださいね、『拓斗』さん」

 そういうと一人でさっさとテントに入ってしまったので、俺はため息をついて十人ぐらいの気配がするテントの中に入ることにした。


 テントの中はテントの中で、戦場だった。

 TV局のスタッフがあっちへ行ったりこっちへ行ったりと大忙し。パイプ椅子に座っている人達――おそらく出演者――はメイクなどをしてもらったり集中したり本を読んだりと各々好きなように過ごしていた。

 なんだこれ。最初の感想。次の感想は、絶対TV関係の仕事にだけはつかないようにしようだった。

 つぅか誰に言えばいいんだろうかなんて思いながら手持無沙汰にそのまま突っ立っていると、「なんやあんちゃん。見ない顔やけど、ひょっとして共演者?」と若干関西方面のイントネーションで話しかけてくるサル顔の男性がいた。年齢は三十代ぐらいだろうか。

 またあくの強いキャラだな。作っているのか? なんて観察しながら思った俺は、「はい。本日『白井美夏』さんと一緒に出演させていただきます、『拓斗』と言います。よろしくお願いします」と挨拶をする。

 たったそれだけの紹介だというのに、その場の空気が凍った。

 …………ん? この反応からするとやっぱり俺、悪い意味での有名人なのだろうか。

 どうでもいい気はするがなんだかなぁと思いつつ「どうかされました?」と質問したところ、我に返った彼が「へぇ! お宅があの有名な『拓斗』か! なんや今日はぎょうさん驚く日やなぁ」と感心していた。

 演技も白々しいその雰囲気に思わず何か言いたくなったが、それすら関係ないことだったことを思い出して「本日はよろしくお願いします」と頭を下げる。

「おう! よろしゅうな!! ちなみにワイはせったくん。まぁ関西かぶれやけど、芸人や!」

 そう言って笑いながら俺の肩をたたく。

 結構気持ちのいい人だなと思いながら「こちらこそ」と返事をすると、何やら敵対視しているような鋭い視線を感じたので視線を向ける。

 そこにいたのはモデル体型と言われるスリムアンド高身長で、おそらく最近の流行を作り出していそうな美形の男性だった。

 面識のない奴にいきなり敵意を向けられる事なんて幾度もある俺は気にすることなく小さく会釈すると、そいつは鼻を鳴らして席を立ちテントを出て行った。

「なんやあいつ。最近人気でてるからって調子に乗ってるやろ」

「そうなんですか?」

 俺がそう尋ねるのが不思議なのか「ファッション雑誌やテレビでもよう出てるやん」と言ってきたので「生憎自分の生活が忙しくてテレビは見ないものでして」と返しておく。本音は言わない。

 その答えに納得したのかせったくんさん(面倒くさいな……)は紹介してくれた。

「さっき出て行ったんはモデルのSEIMIいう、気障な奴や。正直な話、あれにはナルシストの気があるから話は適当に合わせといたええで」

「助かります」

「ええって! 子供助けるためにトラックの前に飛び出して一ヵ月そこらでこうして元気にしてる奇跡の人間と一緒に共演できるんや。それだけでワイにも何か奇跡が起きそうやで!」

 そういって一人で盛り上げる彼を尻目に、俺はどうして有名なのかを理解して「ああ、やっぱり俺も親父たちと同じステージにいるんだなぁ」と再確認した。

 若いから回復力がある。という単純な話ではない。普通、トラックに轢かれたらトラックのエネルギーを一身に受けるため、大概即死するだろう。運が良くても重傷で、軽傷になるのだったらトラック自体のスピードが遅いのが要因に挙げられる。

 そんな凄惨な状況になるはずなのに、俺は下半身が動けない状態で意識はあり、二週間ほど寝ただけで完全回復してしまっている。

 とはいえそれは今に始まったことではない。昔から――とはいっても小学生高学年ごろぐらいから――他の奴らより傷の治りが速いというのはあった。親父もまさにそうで、昔両腕骨折したというのに病院に行かず二日寝たきりで治ったとかバカみたいな本当の話がある。

 それからしたら俺は同じステージとはいえ随分下にいるはずだが、それでも普通の人から外れていることには変わりない。

 驚かれるのに慣れてはいるが、正直あんまり知られたくないんだよなぁと思った俺は特に口を挟まずにそばを離れる。

 残っているのは女性陣三人。『白井』さんはいいとして、残り二人――片方はモデルで片方は芸人だろう――にも一応挨拶に行かないとな。そう思って近づこうとしたところ、テントの中に「今からリハーサルです! 皆さん準備してください!!」と言われてしまったのでできなかったか……と内心肩を落とし、未だ盛り上がっているせったくんさんに「リハーサル始まるよ」と声をかけてテントを出た。


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