2-6 遭遇
一ヶ月で七千PV……意外と人気だったんですねこれ
「行ってしまいました」
と秘書っぽい人が言った。その言葉を受けて、
「どうしたんじゃろうな?なぜ彼はいきなり出て行ったんじゃろうな?」
と疑問に思っていた。すると、
「もう、朱雀さんも耄碌したね。つとむはドラマが嫌いなんだよ。見るのも、出演のもね」
といつきが含み笑いをしながら言った。
「?」
「彼には、ドラマなんて時間内で終わらすためにつくられているただの幻想――幻かな? ともかく、そういった認識なんだよ。だから、彼はテレビをあんまり観ないんだよね。観るとしたら生放送か、実録! といった番組ぐらいだよ」
「そうなのか…。じゃが、どうしてじゃ?」
「彼の資料を見ているんなら分かるんじゃない? …じゃ、僕も行くね」
と意味ありげな笑みを浮かべながら、いつきは部屋を出て行った。
「学園長。どうするおつもりで?」
「ふむ。今すぐ彼の、中学までの資料を集めてくれ。本宮の子のも、じゃ」
「わかりました」
「今年の一年はすごい才能を持った奴らが多いのぅ。楽しみじゃ」
学園長の顔をその時に笑っていたという。
廊下を歩いていると、曲がり角の付近で声がするのをいつきは聴いた。なんだろう? と思い、顔を覗かせると、
「なんなんですの、あの男は!? 折角わたくし自らが声をかけて差し上げたというのに、無視してそのまま走り去っていくなんて!!」
と、篠宮が一人で怒っていた。これに関わるのは嫌だったために、いつきは迂回した。
全く、なんだったんだ? あいつは。急いでいたってのに、わざわざ道をふさぎやがって。そのせいで、結局今日もギリギリだったじゃねぇかよ。と思いながら店に入ると、
「つとむ! さっさと支度しろ!! おめぇの料理じゃねぇと嫌だ、とか言いだしてる客がいるんだからよ!!」
入った早々マスターの怒りの声が。これはさっさと支度しないといけないな。そう思って俺は、そそくさと支度をした。
「ほいよ。オムライスに、ショートケーキに、イチゴパフェだ」
「おう。…ほら、つとむがつくったものだ、満足だろ」
と不機嫌そうに料理を手渡すマスター。それを見た客の一人が、
「マスター、不機嫌にならないでよ。八神君が普段通りの時間に来ないから騒いだのは謝るけどさ。その代わりに、マスターが淹れたコーヒーとか飲んでたじゃん」
というと、
「うるせぇ。折角俺が作ってやるって言ったのに、どうして『八神君が来てからでいい』なんだ!?」
と返してきたので、
「そりゃぁ、」
「マスターより」
「八神君のほうが美味しいから」
と客の奴らが言うと、
「お前ら、俺にもプライドがあるんだぞ」
と素早くマスターがツッコミを入れた。
「俺はマスターの方が上手いと思うけどな」
と俺も会話に参加すると、
「そ、そうか。まだまだ俺に勝てねぇのか。困ったアルバイトだな」
とマスターが嬉しそうに言った。
客の一人が、
「え? 嘘じゃないの?」
と言ってきたので、
「ああ、まだまだだな。マスターは一人で喫茶店を経営してるからな。それに、賄飯を食べていると分かるんだが、アレンジ力ハンパねぇぞ」
と俺が言うと、
「へぇ~そうなんだ。マスター、それなら僕達にも出してくれればいいのに、賄飯」
と言ってきた。
「馬鹿野郎。そんなもの出せるかよ」
「いいじゃない。マスターの腕が本物かどうかわかるんだから」
「…分かったよ。明日くればつくってやる」
「あ。明日は無理だ」「私も」「うん」
「人の善意をどこまで踏みにじる気だ、お前ら?」
マスターがちょっと怒り出した。何とかしないとなぁ、と思いながら辺りを見渡すと、
「ん? マスター、あんな客いたのか?」
そこには、本を読みながら飲み物を飲んでいる客が窓際の席に座っていた。しかも、どうやら俺が通っている学校の奴だ。なぜかというと、うちの学校の制服を着ているからだ。
と指をさした方を見てマスターが、
「ん? ああ、あの客ならさっきからいたぞ。お前が来る前からな」
「そうなのか?」
「ああ。最初にコーヒーを出してからずっとだな」
「もう中身がなくなってそうなんだが」
「じゃ、頼んだ。注文を取ってきてくれ」
と平然とした顔で言うマスター。
「仕方ねぇ、いくか」
何を言っても駄目だと思ったので、何も言わずに俺は、その客の方に向かった。
「ふぅ。この本を読んでいると、時間を忘れてしまいますわね…あら? 飲み物はいつの間に無くなっていたのでしょうか?」
「そりゃぁ、ちょっと前くらいだな。おかわりにするのか? それとも、別のやつにするのか?」
しっかし、結構美人だな~。そう思いながら俺が訊いたら、その客がこう訊き返した。
「あら? ここの店員さんですか?」
「そうとも言えるが、アルバイト、だな。で、どうする?」
「そうですねぇ……おかわりしましょう。それと、飲み物ばかりじゃ悪いので、このチーズケーキもよろしいでしょうか?」
「分かった。コーヒーとチーズケーキだな。マスター! コーヒーひとつ!」
「ケーキはお前がつくれよ!!」
「知ってるよ!」
そう言いながら、俺は調理室でケーキを作り始めた。……しかしあの客、抜けているのかそうでないのか分かりにくいなぁ。
「もうすぐ待ち合わせの時間なんですけど、来ませんわねぇ。一応、場所は分かりやすいところのはずなんですが・・・・・・」
カランコロ~ン!!
「いらっしゃい」
「あっ! ごめんごめん!! ちょっと仕事がおしてたものでね」
「ようやく来ましたか。…とりあえず、取材の前に何か飲んだらどうです?」
「そ、そうだね。……え~と、紅茶でも頼もうかな」
「紅茶だな。少し待ってろ」
「え? 今ので注文終わり?」
「ここではそうみたいですね」
「はいよ。チーズケーキとコーヒー。何か注文があったら呼んでくれ」
「ありがとうございます。……聴いてた通り、おいしそうです」
「そうか」
と言って去っていった八神。それを見た後に、
「なんか目つきがすごいね。悪っぽい感じがするね」
「見た目はそうですけど、話してみればそうでもありませんよ」
「はいよ、紅茶」
「あ、どうも」
お礼を言った時には、マスターはカウンターのところにいた。
「この店の人は戻るのがはやいね」
「だから注文されたのを早く出せるのでしょうね」
「(ゴクリ)うまいね、この紅茶!!」
「こちらのケーキもおいしいですよ? ……うん。評判通りです」
「誰の?」
「このあたりの人達のです」
「そう。なら、僕も何か頼もうかな?」
「それもいいですけど、はやく取材をお願いしますよ。平塚さん」
「分かったよ。白鷺さん」