5-14 相談
前回の区切り方をミスしました。次が短いうえに五話終わりです。続けてもよかったんですが、自分の中で納得がいかなかったのでやめました。
「全体練習ね……」
早々に教室に戻った俺は昼食を食べ終えていたらしく、自分の席に座っている委員長にそのことを話してみたところ、目を閉じて考え込むように呟いた。
「さすがにぶっつけ本番でやるわけにはいかないだろ?」
「そうね。でも、シーンごとにやるとしても一週間はかかると考えてみたら来週いきなりはちょっと厳しいわ」
「やっぱりか」
練習を重ねたのは如月や俺がいない中。そこに混ざろうとしたところで役別自体をやってないので無理だと判断しているのだろう。
というか委員長、こういうスケジュールも考えているのか? 処理能力すごすぎるだろうよおい……。
俺の場合はやりながら調整入れるようにしてるからスケジュールもくそもないんだよな……期日までに間に合わせられるのだったらどっちでも良いんだろうけど。
「ところで、そっちは?」
「ん? ああ、とりあえず台本の確認と、問題点を洗ったぐらい」
「問題点、ね……どういうところが気になったの?」
「動きの少なさ。雰囲気はいいとは思うんだが、傍で見ていると動きがないように見える。テレビカメラを通すとなるとさらに小さく見えるはずだろ?」
「確かに。私達の方もそんな問題が挙がったわ。こればかりは慣れるしかなさそう」
そりゃそうなんだろうけどな……なんて腕を組んで考え始めたところ、「それにしても意外ね」と言われたので思わず聞き返した。
「え?」
「だって嫌なんでしょ? 撮影」
「まぁ」
「なのにテストであることも考慮してあなたはやる気出している……それが意外って言っているの」
「ああ……」
確かにそうなのだが。その点に関してはいくつか理由がある。
「理由はある。一つは補習を回避したいから。誰だって本来の休みより一か月近くも少ないのなんて嫌だろ? それにもう一つは、俺の気持ちは俺個人のだからな。周囲に喚き散らして迷惑かけるのも今更だが辞めにすることにしたんだよ。俺個人に来た仕事に関しては全部突っぱねてればいいやって思ったのもある」
「……ねぇ八神君。あなたってどうしてそう」
俺の言葉を聞いた委員長が何か言いかけたらしいが、俺は壁に掛けられた時計を見てそろそろ自分の席に戻ることにした。
授業なんてガン無視して、放課後。
帰る準備を終えた俺はそのまま行こうとしたところ、いつきが「あれ、バイト行くの?」と訊いてきたので「そりゃ」と短く答える。
「練習していかないの?」
「……マスターがてんてこ舞いになりそうだと思うと気が引けて、な」
「本音は?」
「バイト代が一日でもなくなるのは正直我慢ならない」
「うん。とりあえずマスターに電話しようか」
「……」
いつきの笑顔の圧力に本能的に恐怖心を抱いた俺はしばしの沈黙ののちマスターに電話を掛けた。
『もしもしどうした?』
「すまんが今日と明日はバイト行けないのでよろしく」
『え、おい! ちょっと待て! お前以外にバイト雇ってないから休業するしかねぇだろうが!? り、理由は!』
「学校のテスト勉強で今日は残る。明日は個人的な用事があるから」
『マジかー……仕方ない。今日と明日ぐらいいなくても乗り切るか……お前いないときの方が長かったから何とかなるか』
「悪い」
『テスト頑張れよー』
マスターの応援の言葉を聞いた俺は電話を切り、息を吐く。
「それじゃ、今日は一日フリーになったってことだね」
「まぁしゃぁねぇ。クラスの奴らも帰る気なさそうだし、実際俺達このぐらいやらないと厳しいしな」
「よくわかってるじゃん」
「身から出た錆だからな」
「あ、自覚有ったんだ」
なきゃあんな風に謝らねぇよ。そう思った俺は「おら帰らねぇんだったら練習だ! ついてこいよ」と言って教室を出た。
両手をポケットに入れ、猫背になった状態で。
そんで校舎裏。
俺達はヤンキー座りをして練習していた。
「『ボス。最近使える一年が入ってきたんすよ』」
「『使える? 何に』」
「『パシリとかなんでも。ありゃ生来の弱虫ですぜ』」
「『ふ~ん』」
「『……反応薄いっすねボス』」
「……あー悪い。やっぱりダメだこれ」
そう言って俺が台本を投げると、全員が驚いた。
「え、なんでだよ」
「なんでもなにも、こんな弱い奴パシリに使えねぇ。それに、台本が気に入らなくてなおさらやる気が起きねぇ」
『は?』
何言ってるんだこいつという表情で声が上がる。
重々承知なので俺は俺の考えを言った。
「ラストで俺が負けるのはどうでもいい。正直、そこで俺が勝ったら意味がないことだし。だが、その状況に持っていくために何でアイツの彼女役を攫わないといけないんだよ? 読んでもそこらへん理解できん。その時点でやる気がおきん」
「いや、そこはちゃんと書いてあっただろ。かばう形でって」
「その時点ですでに勝負はついてるだろ? なのになんで続けようとするんだよ」
「それは最後の方にあるように、守りたいという力を見せたかったからですよ。台本の進行上、それが最後の見せ場みたいなものですから」
「彼女役押しのけてそいつだけ引っ張っておけば目を覚ました後にタイマンやって彼女来て負けられないってなるんじゃないのか、普通。結局、なんで攫わないといけないんだ」
『……』
言ってることが理解できたのか沈黙する十人。俺からしたら台本読んだだけで違和感の塊でしかないこれを違和感なく読んでいた十人の方が理解できない。
他にもある。俺に関係ないシーンでも違和感しかない行動とセリフが、俺がやるシーンでもこれみたいに理解できない言動が。
理解できない俺が悪いのか、もともとそういう風に編集されたのか。はたまた台本を考えたやつの頭がぶっ飛んでいるのか。
よくもこんな台本でテストやろうとしやがるな爺と心の中で文句を吐いた俺は、未だに黙っている奴らに対し「つぅか、何もこんな台本その通りにやらなくてもいいんだろ」と今更な言葉を吐く。
「いや、確かにアレンジありだけど。話の骨格はちゃんと残せないとダメだって」
「骨格なんて、主人公いじめられてます。ヒロインに助けられています。不良たちに目をつけられてパシリになり下がります。どうしようもなく弱い自分に嫌気がさしたところに謎の人物がアドバイスなどをします。主人公頑張ります。パシリにしてきたやつ倒します。ボスに負けます。ヒロイン攫われます。ヒロイン助けるためにボス倒して付き合います。たったこれだけだろ? これ以上ないぐらい簡単な話だし」
「いやな? まぁそうなんだけどよ。八神が今何をどういう風にアレンジ考えてるか知らないけど、向こうに合わせるようにしないと話自体が崩れるぞ?」
「向こうのクラスにお前たち何人か在籍してるだろ。そのぐらい向こう行って話せばいいだけ。それに、いつきも多分アレンジを提案してるだろうし」
「え、マジで?」
「マジも大マジ。あいつ結構舞台とか見ているらしいからな。話の筋が通ってなさそうなこの台本は嫌いな部類に入ると思う」
「……本宮さんって本当にお金持ちなんだね」
そんな言葉が聞こえた俺はそれに対して何か言おうとし……そんなことをしゃべっている事態じゃないことを思い出し「そんなわけで向こうに行くクラスメイトで不良の櫻田と十勝はそっちに合流。残りはアレンジをするとしてどんな方向にするべきかを話し合うぞ」と方針を伝える。
二人を見送ってから残った奴らに対し「ひとまずは俺らの場面で整合性が取れるようなアレンジについて考えようぜ」と笑顔で言った。
俺の笑顔を見たやつらは全員肩を震わしたが……一種の脅迫を浮かべたのがまずかったのだろうか。




