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アイドルッ!  作者: 末吉
三幕:第五話~矯正に乱入~
124/205

5-10 ひとまず向き合う

……来週水曜日に更新します

「じゃ、じゃぁな。俺バイトだから」

「お、おう。またな」

 気まずい中、俺は荷物を片付けて教室を出る。クラスの奴らも似たような感じだったので、明日会ったらどうすればいいだろうか……。

 まぁ普通に行くしかない。練習していかないと一ヶ月補習だ。そこら辺はあいつらもわかっているだろう。

「バイト?」

「ああ。昨日は短かったからな」

「え、行ったの? 僕が誤魔化すの大変だったのに?」

「悪いな」

「……まぁいいさ。何か事情があったんだろうし」

「そういや柊哉さんに電話したのかあの事?」

「父さん? 普通に笑ってたよ。『がんばれ』って」

「そうか」

 何の違和感もなく隣にいるいつき。俺もそれに違和感を持たないながら、ふと『確定しない未来』の事について考えてみた。


 もし。

 もし、いつきが、

 何らかの事情でそばにいられなくなったとして、


 俺はその先を己の力で本当に切り開けるのだろうか――と。


「……」

「ん? どうかした?」

「いや」

 気が付けば俺は顔をのぞいていたようで、いつきは笑顔で俺に質問してきたがはぐらかすことに。

 らしくない。ひょっとするとまだあの件が尾を引いているんじゃないだろうか……引いているんだろうな。

 いつまでも一緒にいられるわけじゃないのは、判っていたことなんだろうが、な……。

「本当にどうしたんだい? いつもの君らしくないじゃないか」

「……あ、ああ。そうだな」

 我に返った俺だったが、それでも頭の片隅にはその「もし」が残り続けている。

 それに気づかれたくないので、俺はさっさとバイト先へ向かうことにした。



「さっさと仕事しろこの野郎!」

「悪い!」


 やはりというか案の定というか。

 バイト先に到着した俺を待っていたのはマスターの罵声と、いつもより多少増えた料理の注文の数々。

 とはいえ、そんなものはもう慣れっこなのでこなしていけるように神経を集中させて作業しながら、静かに俺はため息をつく。

 テストのこと。如月の事。そして、先程考えたいつきとの今後の事。

 調理し、完成させ、食器を洗いながらも、それぞれのことをぼんやりながら考えているのだが。なんというか、今までこんなことをあまり考えなかったせいかどうしたものかと考えをまとめられない。

 たぶん、クラスの結束と言うのを久し振りに感じたからだろうか。一つの事を全員で同じ方向でやるというのに俺はあまり慣れていない。

 トラブルだったら俺は解決できると自負している。なんたって巻き込まれて解決してくるものばかりだ。経験値なんてものがあったら、ほぼカンストだろう。

 だが、クラスメイト達と一緒に行事を行うというと、ほとんど初心者になる。基本的に当日に遅刻が当たり前。最悪欠席とかざらすぎる。

 別に如月のことは心配していない。筋トレとかやらせて、あとはセリフや動きを覚えてもらっていけばいいだけだ。今頃幼馴染に説教受けたりいろいろ言われているんだろうが、あいつが変わりたいというのなら、それぐらい跳ね除けるだろう。

 いつきのことも心配していないが、『先』の事を考えると心は急に不安になる。

 大人になって俺達が関わらなくなったところで、それはそれで自然の流れ。正直、いつまでも仲良く一緒にと言うのは無理だろう。

 なにせあいつは金持ち。本人がどうも思わないといっても世間体からすると時間と言うのは限られてくる。

 いつきの親父――柊哉さんとうちの親父は高校生の頃からの付き合いで、柊哉さんが結婚したと同時にこっちに引っ越してきたという話からするとそうでもなさそうだが、今度は性別の差が立ちふさがりそうだ。

 まぁそれも、結局のところ俺達の意思で決まるんだろうな。

 うだうだうだうだと考えながら仕事を消化していると、「おいつとむ」と声が聞こえたので我に返る。

「あ?」

「客だ。お前に」

 ほれさっさと出てこい。そういって手招きしてきたので、注文されたものがないことを確認した俺は、調理場からカウンターの方へ向かった。


「やぁつとむ。相変わらず仕事が早いね?」

「そうか……んで? 如月と一緒に来た理由は?」

「分かってるくせに」

 そういうと、注文したらしいレアチーズケーキをフォークで切り取って、口に運ぶ。

 その上品な動作に相変わらずだなと思った俺は、隣で俯きながらちまちまとサンドウィッチを食べている如月に視線を向けて答えた。

「どうせ目的地一緒だから、喫茶店で時間つぶしてから行こうか? ってところか?」

「ええー! なんでわかるんですかー!?」

「うるさい」

「す、すみません」

 どうやら当たりのようだ。だからといってうれしいわけじゃないが。

 俺はため息をついて「まぁいい。俺も少し話したいことがある」と呟くと、いつきのコーヒーを飲む手が止まる。

「なんだい?」

「なんとなくだが、俺のせいで今までクラスがまとまってなかったんだな。すまん」

「いやー、それは僕も同罪だと思うけどね」

「ぼ、僕もうまく馴染んでいた自信ありませんよ」

「で、だ。今月末テストだろ? それを考慮すると、いい加減俺もきちんとクラスの奴らと話し合わないといけない気がしてな」

「で、それを僕達に言ってどうするのさ?」

「そ、そうですよ。今言ったばかりじゃないですか」

 そういわれると何も返せなくなるんだが、俺は再び息を吐いてから言った。

「いつきはともかく、俺と如月はそれぞれ主役と言っても過言ではない。なのにクラスの輪になじんでいる自信はないだろ? だから明日学校に行き、きちんと周りの奴らと話してスケジュールとか決めよう……なんて感じだ」

「え、えぇっと、確かにそうですけど……僕まだセリフ憶えてません」

「そんなものは学校外でも練習するなりすれば問題ないし、そっくりそのままやらなくてもいいらしいし。アドリブ入れるつもりだったら、大筋の流れと必要なセリフさえ覚えておけばいい」

「……」

 俺の提案に如月は沈黙する。それとは違い、いつきは「まったく君らしいね」と微笑みながら感想を漏らす。

「まぁテストだから。っていうよりは、演劇を例に挙げるけど台本があって練習する。勿論、台本のセリフ通りに合わせて動きを入れていくのが基本だ。だけど、演出家がそれを不自然だと思ったら協議して変更される。当然、それは動きや演出、セリフなどが追加されたり削除されたりと役者たちにとっては大問題。テレビドラマでもそういうことは多いらしいから、演劇の役者だろうが、女優・俳優だろうが、演じる者たちにとってそれをいかに素早く切り抜けるかっていうのは必要不可欠らしいんだってさ」

 これ全部知り合いの有名な演出家の受け売りだけどね。そうおかしそうに笑いながら説明したいつきは、のどが渇いたのか冷めたらしいコーヒーを口に含ませる。

 それを聞いていた如月は少し動きを止め、ため息をついてから「……そういえばそうでしたね」と経験したことを思い出したのかつぶやく。逆に俺は解決してきたものすべてがほとんどアドリブだったので別に響くものはない。そういうものなんだという程度の認識になっただけである。

「おいつとむ。注文入ったぞ。さっさと作れ」

「うっす……まぁそんなかんじで明日言ってみようと思うから、ちゃんと来いよ。学校」

「……あ、うん。分かった」

 最後にそう言って俺は調理場に戻り、この店が閉店する時間まで働いていた。


 ……そういや朝の件、結局解決してねぇな。


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