5-8 説教受けました
今回も短いです。
学校に着いた。
車から降りた俺たちは出発する車を見送ってから顔を見合わせ互いに息を吐き、校門から入っていくことにした。
教室に行くのが面倒なので、俺は履き替えたらそのままある所へ向かう。もちろん、如月を連れて、である。
理由はまぁ、爺に挨拶に行った方がいいからという良心的な理由である。そのあときちんと先公の方にも行って怒られるぐらいの気構えはある。当然のことだが。
というより、このまま続けてバイトする時間が減るのが何よりも痛手であるからさっさと終わらせるだけなのだが。
かったりぃと思いながら学園長室の前に来た俺は、何の脈絡もなくノックする。気配があるのはわかってるので居留守を使われたところで別の手段に訴えるからいいだけである。
『誰だ』
秘書っぽい奴の声がしたので「八神つとむ」と答えてから勝手にドアを開ける。
「うぃっす」
「あ、あの失礼しま……す…」
「おぬしら。こちらからどうぞというまで待てぬのか」
「いるんだから別にいいかと思った。悪いというのは承知の上だ」
「本当にすいません!」
悪びれもせずに俺は堂々と言い、対照的に如月は頭を下げながらも入る。
そんな態度に書類から顔を上げてため息をついた爺さんは、「さて、いきなり早退かました理由と一週間もサボった理由を聞かせてもらおうかの」と本題について訊いてきたので隠すことなく答えることにした。
「集団練習ボッチになった上、授業で困るところないので帰りました」
「あの……自分変えようと思って色々やってました」
「ふむ。なるほどの……」
と、呟いてから鬼の形相という表現がぴったりな怒り顔を張り付け、その体躯から想像がつかない怒声が発せられた。
「この馬鹿ども! おまえたち二人の勝手な行動で迷惑を被っている人間がいることを忘れるな! 如月! お前がビビりに悩んでいることは儂にもわかってる! 八神! お前が不本意ながらもここにいることはもう知っている。だが! お前達はこの学園というブランドを背負っているという自覚を持たんかい!!」
「す、すみませんでしたぁぁ!」
「……悪かったな」
「……お主ら。一度目は反省文を書いて提出で許しておく。が、二度目からはないぞ」
「うっす」
「はい……」
「ならもういい。職員室へ行って担任に事情を説明して原稿用紙をもらって教室で書け。終わったなら帰ってよし」
「はい」「了解」
そこまで言われた俺達は素直に頭を下げて失礼しましたと言い、部屋を出た。
「はぁ……」
「確かにあの二人の独断は悩みの種ですが」
「そうではない」
「はい?」
二人が教室を出た後。
ため息をついた鯨井に同意するようなことを彼は言ったが、見当違いにもほどがあったのですぐさま否定した。
彼は分かっていない顔をしていたので、仕方なく鯨井は説明した。
「わしは八神に『如月を頼む』と言った。それはつい最近の事じゃ。それより以前から自分で何とかしようと如月は何とかしようと一人で頑張っていた……ように見えて甘えてたのが見え見えじゃった」
「そうなんですか」
「お主も少しは観察眼を養え」
「すいませんでした」
「そんなこと今は置いとくが。問題なのは『学園』を必要とせずに好き勝手にやれてしまう人間に対し我々は怒ることはできても、手助けはできないということなんじゃよ」
「?」
鯨井の言葉の意味が理解できなかったのか首を傾げると、「やれやれ。お前さんももう少し指導者という立場を理解したらどうじゃ?」と再びため息をつき説明する。
「指導者というのは教えを請いに来た者たちをより良い方向へ導くための存在じゃよ。が、その者たちを超えてしまう者、教えを請う気もなくただ来た者、自分の中で解決しようとする者。そういった者達は稀にじゃが存在する。そしてそれが今年の一年生で来てしまったという事実をわしらは今日まで気が付かないでおった」
その該当する生徒を瞬時に頭に思い浮かべた彼は、「しかし、それでもあの態度の悪さに関しては指導できるのでは?」と質問する。
しかしその質問は、「あいつが素直に敬語話してみろ。それこそ頭がおかしくなったと思うじゃろ?」という言葉に納得してしまう。
「あいつは色々な意味で手遅れなんじゃよ。そんな奴に儂らが教えてやれることなんてあると思うか?」
その問いに彼は目を閉じて考え「……あるように思えませんね」と同意する。
「じゃろ? 昨日からの集団演習がいい例じゃ。あやつだけ独りにさせてしまった。そのこと自体は別にあやつにとってどうでもいいんじゃろうがな。じゃがわしらが何もできないという事実は覆らん」
そういうと鯨井は書類に視線を落としながら「……まったく。こんな出会いがあるから指導者というのは面白いんじゃ」と言いながら、悩ましい表情を浮かべていた。
こんなトップだったらのびのびできそうですね…




