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アイドルッ!  作者: 末吉
三幕:第五話~矯正に乱入~
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5-2 苛立ち抑えられず

今週は木曜まで何とかなりそうです。

 そうして何事もなく学校に到着。普通に駐輪場に自転車を置き、普通に教室に入り、自分の席に着く。

 と、そこに近づいてきた気配がしたので「どうした?」と尋ねる。

「そういや八神ってさ、テレビ出てたんだな」

「ん? ……まぁ」

 顔を合わせず話を合わせる。放送した日時なんて聞いてないし興味なかったため。

 俺の返事にクラスメイトの男子だろう。そいつが「俺見たんだけどよ! あのドッキリが分かるってすごくないか!? 事前に知ってたのか!?」と訊かれたので「いや」と否定する。

「最初は俺も動いてないから死んだと思ったけどよ、病室の入り口あたりで光ったから冷静になれた」

「……マジで?」

「ああ」

 教科書を机に入れながら淡々と返事をすると、聞き耳を立てていたのか女子がこちらに来る気配がした。

 一体どうしたんだ今日はなんて思っていると、「ねぇ八神君! どうやったら演技ってうまくなるの!?」と質問されたので、自分の事を終えた俺は顔を上げて囲まれていることに気付きつつも答えた。

「演技が上手くなる方法? そんなの、常日頃『役』をやり続けるぐらいじゃないのか? 頭でわかっても体がついていかないからな。なりきるんじゃなくて自分がその役だととらえて日々過ごせばそのうちうまくなるだろ。必ずしもそうなるとは限らんだろうがな」

 と、答えてから気付いた。

「なんで俺にそんなこと聞く」

 気がつけば囲んでいた奴らは熱心な顔つきをしていた。代表してなのか、質問してきた女子が教えてくれた。

「いつきちゃんが合宿中に教えてくれたの。八神君の演技力がすごいって」

「なんで今」

「いつきちゃんと大体一緒にいるから話しかけづらくて。ちょうど一人だったからというのもあるけど、負けてられないってのもあって」

「……」

 俺は別に演技が上手いというわけじゃない。ただ必然的に、生き抜く術として身についたものである。

 ただ単純に堂々とふるまうことだけ。それで力をふるい相手を黙らせる。

 演技自体をやっているという認識はない。やったといえるとしたら学芸会とかの発表会ぐらいで、それ以外にやった覚えはない。

 だというのにいつきはどうしてそんなことを言ったのだろうか。少し謎に思ったが、別にいいかと切り捨て「ならがんばれ」とエールを送る。

 と、同時。

 ドアが勢いよくスライドして怒った口調で「八神つとむっている?」と訊いてきたので仕方なく立ち上がって「俺がそうだ」と答えると、黙ってこちらに近づき人が周囲にいるというのに黙って頬に平手打ちした。

「…………」

 いきなりの事だが特に痛いと思わずそいつを見ると、俺と似たような目つきの鋭さのその女は俺を見上げて怒鳴った。

「洋司はどこに行ったの!? あいつは体が弱いのよ!!」

 それに対し俺はため息をついてから聞いた。

「なんで俺になるんだそれで」

「あいつが言ってたわ。『八神君みたいに強くなる』って。あいつの事だから本人に頼んでる。だからあんたに訊いたのよ」

「俺をはたいたのは八つ当たりみたいなものか」

 冷静にそういうとその女は言葉を詰まらせる。

 それを見て俺はため息をついてから「俺が知ってたらどうするつもりだ。連れ戻すのか?」と答えが決まっているだろう質問をする。

「当然でしょ」

 それを聞いた俺は頭を抱える代わりに長い溜息をついてから、宣言する。

「バカだろ」

「なんですって!?」

 逆上する形で平手を振り上げたので、俺はそれをつかんで引き寄せそいつの間近で言った。

「俺が知っていてもお前に教えることはない。あいつが言っている『強くなりたい』の意味が分からないお前に」

「な、なんですって!?」

 顔を赤らめながらまだ激情しているので、手を離してやり言い放ってやる。

「お前がそう言っているうちには無理だ。絶対にわからない」

「何を言ってるの!」

 こりゃもう駄目だな。そう思った俺は鋭い目つきをさらに鋭くし、顎を引いて睨みつけるように向けてから「ア?」とドスを利かす。

 怯えて一歩引いた彼女に対し、視線を外して鼻で笑ってから「そんなんだからわからねぇんだよ。テメェなんかじゃ」と言い自分から近づいて見下ろしながら追撃する。

「お前が気付かないんだから自分でそうやって取り乱しているんだろ。どんな関係だか知らないが、そうやっているのはすべてお前の自業自得だ」

 そう言って今度こそ自分の席に着く。放心した奴の事など気にも留めずに。

 少なくとも本当に自業自得という部分があるのだろう。強くなりたいと頑張る如月の頑張りを阻止しようとする目の前の女。もはや度し難いと言っても過言でもない。

 そろそろ授業だなと思いながら欠伸をし、その女を放置して体育館へ向かうことにした。


 が。


 体育館へ向かっている途中に面倒だなと思った俺は、ついてくる気配を感じて足を止める。

「まったく。一体何の用だ先公」

「今週は最低限の演技指導するために俺もいるんだ……っと、そういえば聞いてなかったなお前は」

 そう言われたので振り返ると、確かにジャージ姿に台本を持っていた。

 言っておくが、この学園の教師陣はどこの学科でもプロに準ずる人たち。ただ少しばかりの事情がありここで教師をしているという話をいつきから聞いた。

 しかし俺はそんなに遅く出たかねと思いながら内心首を傾げていると、その先公が「お前に訊きたいことがある」と真剣な表情をしていた。

「なんすか」

「如月がどこにいるのか知っているか?」

「ハァ?」

 思いっきり怪訝な表情を浮かべる。なんでどいつもこいつも俺にばっかり居場所を聞くのか。その根拠が解らない。

 その表情を見た先公は「いや、分からないならそれでいい」と引き下がったので俺はとっさに口を滑らせた。

「おいおい先公よぉ。それが人にものを尋ねる態度か、ぁア? つい最近まで知らなかった奴の事をどうして俺が知ってると思ったのか。ちゃんと説明しろよ」

「なっ、八神! 貴様教師に何て口のきき方だ!!」

「ハァ? 俺はお前たちに教わったことなんてないっつぅの。それより教えろよ。どうして俺が知ってると思ったんだ?」

「貴様……! そこになおれ!!」

「はっ。誰が言うことなんて聞くかよ」

 そういうと俺は先公から距離をとる。

 驚く先公を俺は嘲笑いながら「まぁどうしても答えないってのなら別にいいさ。なんとなく見当ついてるし」と言っておく。

 言っておくがここは一階の廊下。体育館へ行く渡り廊下へつながる道である。

 そんな天下の往来でこんな風に目立つことをしていれば自然と俺に悪意の視線が向く。

 そんなものは百も承知で、俺は平然と言い放った。

「ったく。しらねぇもんはしらねぇよ。俺に関係あるわけでもないし。分かったらとっとと授業始める為に体育館行けや。俺はもう帰るけどな」

『!?』

 全員驚くのがわかる。同時に、その場を動いていないというのも。

 なので俺は堂々と対峙していた先公の横を通り過ぎ、見物人となっていた集団に一言「どけよ」と言ってそのまま通り過ぎる。

 すると、当然のように生徒会の面々がすでに集まっていた。

「つとむ君。これは何の騒ぎですか?」

「あ? なんで言わなきゃなんねぇんだよ」

「貴様! 会長の質問を無視するのか!!」

「うっせぇ! テメェなんかにゃ聞いてねぇんだよ!! その腕二度と使い物にさせないぞ」

「!!」

 本気で怒鳴り、本気で脅す。それが伝わったのか、岡部と呼ばれていた血気盛んな女は沈黙した。

 それを聞いていた美夏は何かを考えていたのか急に声を上げた。

「あ、もしかしてつとむ君のクラスのテストって、明日よ輝け!! じゃないですか? そのヒーラーの筑地君ですよね?」

「……」

 セリフを覚えていたが役の名前なんてさっぱり覚えていなかった。相手側の名前を覚えているが、自分の名前だけは興味が持てなくて覚え忘れていたようだ。

 まだまだだなぁと思った俺はため息をついて「なんで知ってたんだよ」と質問する。

 すると、「最近DVDを買ってみていました」と笑顔で言ったのでそりゃ当てられるわともう一度ため息をつき前へ進もうと歩き出す。

「どこへ行くんですか?」

「帰る」

「どうしてですか?」

「やることなんてないからな」

 そう言って遮ってきた美夏の横を通り過ぎる。

「こんなクソ台本、よく見る気になったな」

 そう言葉を残しておいて。


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