4-5 嫌な予感
これで四話終わりとなります。
「そうですか……試験で成長する姿を見せる為にへたれたままの根性をたたき直したいためにわざわざこちらに」
「まぁ直球に言えばそうなるな」
「暇なので別にかまいませんがね……まぁうちでやるのなら口出しはさせませんよ」
「いいさ。二週間ぐらいでなれるのなら」
「保証もしません。結局のところ自分の意志ですので」
「一応あるみたいなんだがな……」
部屋に入った俺は正座で奥さんと会話する。時々お茶をすすったりお茶菓子を食べたりしながらだが、奥さんは正座のまま動かず話をしている。
こういう人たちって本当の意味で動じないってことを体現してるよな……なんて奥さんを見ながら思っていると、「まぁ夫に相談させてもらいます。ノリノリでやるというのなら私も一肌脱ぎましょう」と言ってくれた。
俺は机から少し距離を置いて拳を握り、それを畳につけて頭を下げ「ありがとうございます」と丁寧に礼を述べた。
それを聞いた奥さんは着物の裾で口元を隠し何やらつぶやいた。
「……で…」
「?」
聞き取れなかったので顔を上げて首を傾げると、「なんでもございません」と言ってから「その代わりと言ってはなんですが」と切り出した。
「少々うちにやんちゃを吹っかけてくる愚か者が最近増えてるらしいのでそいつらを手段は問わず消してもらえませんか?」
「……そういや最近余所のところからやんちゃしに来たやつらがフルボッコになってどっか連れて行かれたな……」
「最近そういう輩が増えてるんだそうで……まぁ社会的に抹殺しても差し支えない奴らなんで良心が痛みませんがね」
この町で『喧嘩』というとそれこそ血を血で洗う『殺し合い』に近いことになる。『やんちゃ』となると本当に瞬殺、赤子の手をひねるぐらいに終わらせてしまう殴り合いという意味になる。
なぜかというと無法地帯のこの町が真の意味で無法地帯だった時の『殺し合い』を『喧嘩』と評してしまったからである。なのでこの町の老人たちからすれば他の町で言う暴動や殴り合いのニュースを見ても『ずいぶん人数の多いやんちゃじゃの…』と呟くだけ。元気な人なら『わしも混ざってくるわ』と言い出しかねない。
まぁともかく。そんなわけでこの町の『喧嘩』とは町人同士の諍いなどをさし、『やんちゃ』とは子供同士の口喧嘩や余所からの遠征に来たやつらをさす。
うちらが遠征行ったら間違いなく不良を根絶できてしまうのでやらない……というより、ここにいる人たちより強い奴がいないから行かないというだけである。まぁ俺が行かせていないというのもあるが。
報道陣の奴らは基本的に来ないはずなんだが……と思いながら「一応根源をつぶすか…」と呟く。
「どうであれ来なくなればいいんです。頼みますね」
「まぁ頼まれました」
そんな感じで俺は如月を任せ、奥さんから頼まれたことを調べることにした。
……一応台本読んだりしないとな。なんとなくで覚えてはいるが。
その前に美夏との約束があったなぁと思い出した俺は、少しだけ気落ちした。
「……で、学校抜けて学友をヤクザに預け、その代わりに受けた情報をほしい、と…。つとむ、お前何でもかんでも受け過ぎだぞ」
「しゃぁねぇだろうが。等価交換は基本だろ?」
「だろうけどよ……なら俺からも受けてくれるな?」
「……おう」
「なぁに簡単だ。ちょいっと猫拾ってくれればいいだけだ」
「また野良猫か……探して捕まえるの大変なんだぞ」
「そんくらい簡単だろ? ちゃんと任せたからな……その代わり情報は先払いでやるよ」
「……ああわかったよ」
渋々ながら言うと、魚屋のオッチャンは「じゃぁ説明するか」と切り出したので自転車のサドルに腰かけて店前で話を聞くことにした。
さっきの家から学校に戻るのもなんだか微妙な気持ちなので、とりあえず奥さんの話を解決しようということで現在商店街に戻っている。
で、魚屋のオッチャンに話しかけて現在に至る。
「今回の件、そうなったのは本宮の家が関わってる」
「いつきが? 一体どうしてだよ」
そう聞くと魚を店先に並べながら続けた。
「どこかの金持ちがこの町潰して本宮の家を失脚させようとしたんだろ。そんでもって家を潰して本宮の一人娘を貰おうって考えじゃねぇのか? 俺がつかんだのはどこかの金持ちが余所の新進気鋭の暴力団に流してその手下に向かわせたって言うもんぐらいしかないからな」
「なんだ、そんなことかよ」
魚屋のオッチャンの情報の信憑性を疑うことはないので、とんでもなくつまらない話を聞いて俺は脱力。
それを見たオッチャンは「とは言ったものの最近の若い奴らは鍛えてないのもいるからな……何かあったら問題なのは確実だ」と続けたので「ああそうだな」と茜を思い出して呟く。
「しかし昼どうするんだお前」
「家帰ろうかと思ったが、お袋に何言われるかわからんからどこかで食べてから――」
バイト行こうかな。そう言おうとしたところ不意に殺気が感じ取られたのでその方向を振り向くと、件の人物が。
「……つとむ? 学校はどうしたのかしら?」
「……あー色々と事情が重なって抜け出した」
「そう……正直に教えてくれたから父さんに告げ口するのはやめるわ」
そう言いながらとんでもない威圧感を放ち近寄るお袋。俺はその威圧感に冷や汗を流しながら動こうと思ったが、動けない。
とっさに震えている膝を見たところ『それ』は当たり前のように起こった。
「本格的に悪い子に育てた覚えはないわよ!」
「ぐふっ!」
至近距離からお袋得意の全力右ストレート。腹部、しかも鳩尾に直撃した俺は踏ん張りもろくに効かず、そのまままっすぐ吹き飛んだ。
「魚屋さん。そこの旬のお魚を四匹いただこうかしら」
「……お、おう。これは…サービスな」
「あら、ありがとうございますね♪」
「はは……毎度あり」
俺が吹き飛ぶ前にお袋はそんなやり取りを魚屋のオッチャンとしていたのを見たが……商店街の端ぐらいまで吹っ飛んで止めてあった自転車に激突した俺には何も言う気力もなかった。
……しかし本当に面倒なことになりそうだな、おい。
予定として、土曜日に第五話を更新してから週一ペースに落ちると思います。とにもかくにも土曜日に。




