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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第四話~ビビり直し~
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4-1 直々の頼み事

 六月一日(水曜日)。

 治ったことがばれたおかげで退院させられた俺は、ギプスを外してる状態で学校に来ていた。

 ……たった三日の、短い休暇だったな。

 まぁ休養できたと思うことにしようと思いながら腕を伸ばすと、「台本読んだ?」と声がかけられたので腕を下して声がした方へ顔を向ける。

「それにしても……つとむと同じ方法で来てみたけど、どんだけなのさ」

「何が? 俺はただ普通に走ってるだけだぞ?」

「いや、出発して二分も経たずに姿が見えなくなったんだけど……」

「その前に台本見てないが」

「僕が読んでいるところ見てたのに?」

「台本は見たが内容は見てないが正しいな」

「そんな細かい否定はいいから」

 そう言って話を切ったと思ったら「配役がすごかったよ」といきなり感想を言われた。

 そう言われてもどう返事をすればいいのかわからない俺は適当に相槌を打ったが、それがお気に召さなかったのか「もう。君の部屋に台本が置いてあったから持って来てあげたよ。これ読んで確かめなよ」と言ってカバンから台本を取りだし俺の机に置いたのだが、俺はそれを見ずに周囲の嫉妬の視線というか、奇異な視線の嵐にぐるりと見渡して呼びかけた。

「一体どうしたおまえら?」

 しかし答えは返ってこず、遠巻きにされるだけ。

 原因に心当たりがありまくった俺はどうするかと悩もうとしたところで、先生が教室に入ってきた。

「お前らちゃんと席に座れ。そして八神は学園長室へ行くように……って、また如月来てないのか」

 最近無断欠席が多いなあいつ……とぼやいているのをしり目に、気配を消した俺はそのまま教室を出た。終わるまで待つのが面倒だし。


 今回は一体何の用だろうか……ま、ある程度予測はついてるけど。


「邪魔する。何か用か?」

「うむまぁ。爆破事件の当事者なんじゃし」

「だろうと思った」

「ム?」

 俺が知ってるような口ぶりに首を傾げたジジイだったが、すぐさま戻して質問してきた。

「で、大丈夫か?」

「爆発に巻き込まれたのは初めてだが大丈夫だよ。意外と」

「まぁ見ればわかるが……お主が爆発に巻き込まれて入院したと聞いてさすがに目を丸くしたんじゃぞ」

「それが普通だろ」

 むしろ平然とされた方に驚く。親父は普通に笑ってたけど。

 まぁあれは例外だ例外。すぐさまそう考え直した俺は、「ところで、そのことについて聞きたいのか?」と訊ねた。

「それもあるが……テストに関してひとつお願いがあるんじゃ」

「…………」

 テストか……台本読んでないからどんなのか分からないんだよな…。

 やらないと補習だからっていう話は聞いてるからやる気はあるんだけどな…とも思いながら黙っていると、どう解釈したのか知らないが、ジジイは話を進めた。

「実はの、お前のクラスにいる如月洋司を何とか立ち直らせて欲しいんじゃよ」

「あ?」

 如月洋司って…あぁあのヘタレか。今日も学校に来なかったらしいけど、一体どこで何をやっているんだか。興味はないけど。

 その態度を示しているのがわかっていながらも、ジジイは話を進めていく。

「あいつは気が弱くてビビりでかなりどうしようもない奴じゃが」

「客観的にもひどい言葉だな。教育者としてどうなんだよ?」

「そういう役にはピッタリなのに、それ以外だと全くと言っていいほど使えん。演じる役を増やしてもらわねば、こちらとしても困る」

 嘆息しながらうつむくジジイ。

 どうやら、ジジイはそいつに役の幅を持たせたいらしい。そのための一つとして、俺を呼び出したってのもあるようだ。

 そうなると俺って単なる当て馬だよなと思いつつ、秘書らしき人物がいないという事実を気にせず――大方ジジイの指示だろう――両手を腰に当てて下を向き、ため息をつく。

「はぁ」

「なんじゃ」

「どうして俺なんだよ」

「…さてはおぬし台本読んでおらんの?」

「ああ」

「即答するでない! ……お主等のクラスの台本の配役で、お主が悪役。如月が主役。本宮の娘がヒロイン役というものじゃからじゃよ」

 あぁなるほどだからいつきが妙に嬉しそうだったのか。あいつがヒロインだからそりゃ嬉しくもなるわな。ずっと男役ばかりやらされていたようなもんだから……って。

「俺が悪役!? 確かに納得はいくし俺が主役とか似合わないのはわかるが、だからってなんで!」

「満場一致じゃな」

「……あぁそう」

 先公達のイメージで台本のキャスト決まったのかよ。

 まぁ独断よりマシなのかねと思いながら「そういや気になったんだが、監督って役割はいるのか?」とふいに浮かんだ疑問をぶつける。

「いないぞ? お主達で決めて演技をするんじゃよ」

「ああそう……じゃぁ小道具とかは?」

「あるじゃろ製作の学科が。広報とかは育てとらんがな」

「そういえばそうだったな…」

 この学校の学科を思い出して納得し……ふと何の気なしに質問してみた。

「そういえば転科ってできるのか?」

「学年末終了時、先生もしくは本人の希望で申請はできるが?」

「ふーん」

「ま、お主には出来ぬことじゃがな」

「なんでだよ」

「アイドルや本宮、他にも色々な人脈を作って今更転科なんて、周りがさせると思うか?」

「いや、しらねぇけど」

 とかいいつつ内心どんな方法を使ってでも止めそうな奴らを思い出したので、あまり強く出れない。

 その考えを悟られないようにジジイの話に耳を傾けていると、「まぁともかく頑張ってくれ」とまとめられた。

 案外拍子抜けする言葉だなと思いながら「……まぁ、テストだからな」と面倒くさそうに答えた。

「それでもいいんじゃよ」

 なぜか穏やかな目で見られながらそんなことを言われた。……なんだろうこの『うれしいぞ』っていう視線。俺はお前の孫じゃないんだが。そんな視線が露骨に出ていたからか気づいたらしいジジイは、一回咳払いをして「ま、とにかく。そ奴のことを頼んだぞ」と言ってきたので、どのみち逃げ道ないからなと思った俺は「やるだけやってみるさ」と言って部屋を出ようとして……不意に思いついた。

「どうしたんじゃ?」

「いや……今回のテストってひょっとして撮影するのかなって思ってな」

「まぁカメラワークのテストも兼ねておるからの。動きが少ないと撮影側も減点されるのを考慮してくれるとありがたい」

「このテスト、全学科対象なのか……」

 ちょっとした裏話を聞いてげんなりした俺は、まぁ赤点にならない範囲でやるかと思い直して今度こそ部屋を出た。


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