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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第三話~初出演に関する懸念材料~
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3-9 見舞客

何度も言いますが、私の想像なので実際にはこんなことになるわけがありません。

 茜が一番心配していたことがひしひしと伝わった面談が終わり、今は一人。腕が完治しているので入院してる意味などなくただのんびりできると高をくくっているだけなのだが、ふと自分の体質を思い出し、ゆっくりできるかといまさら不安になった。

 が、それも杞憂だったようで。

「ふあぁぁあ」

 そんな言葉が漏れるほど、今の俺は暇だった。

 なんでだろうな。思いっきり何もないというのが又何か嫌な感じがするんだが。こんな平穏が何かの前触れのような気がしてならないんだが。

「うぃーっす」

「なんだよ菅さん。今日非番か?」

「ちげぇよ。お前が巻き込まれた爆弾犯についてだよ」

 そういうと菅さんはパイプ椅子に座り、火をつけてない煙草を咥えながら「しかし入院一ヵ月とか本当か? 本当は大丈夫なんじゃないのか?」と左目が隠れた顔で腕の部分を見ながら聞いてくるので、「大丈夫と言えば大丈夫だ」と答えてから、「管轄違うだろ?」と出張ってきた理由を尋ねた。

「んだけどよ。ちょうど暇だったせいで行って来いだとよ」

「大変だな」

「まったくだ」

 そう言って互いに笑う。が、すぐさま菅さんは顔を引き締めて説明に入った。

「あいつな、至る所に爆弾作っては売ってたらしい。余罪がまぁボロボロと出てくる。典型的な自己顕示欲の塊だぜ」

「だろうな。……しかし親父」

「あ? お前の親父がどうしたんだ?」

 「あ、知らないのか?」心底意外な顔を作り、俺は菅さんに今回の立役者を明かした。

「今回犯人を捕まえたの、俺の親父だよ。俺は一つ目の爆弾でこのザマだ」

「……なるほどね。まったく。お前の家系はどうなってるんだよ」

「しらね」

 しっかしわざわざ見舞いに来るというか報告しに来るとは珍しいな。そんなことを思っていると「じゃ、この機会に生き方を見つめ直しとけよ」と言いながら菅さんは席を立った。

 よく見るとパイプ椅子の後ろに花束があったので、誰かを見舞いに来たついでなんだろうなと思いながら「見つめ直してもかわらねぇよ」とわざと明るく言うと、逆に菅さんが「……かもな」と翳りのある雰囲気を出して花束を持って病室を出て行った。

 見送った俺は、たかあき町の警察署で長く勤務している理由が原因なのかもしれないなと当たりをつけながら天井に視線を移した。


「……む」

 いつのまにか寝ていたらしい。人の気配で目が覚めた。

 ……目の前で俺の顔を凝視してるし。

 とりあえず起きてる証拠として瞬きをするが、そいつはじっと見つめたままなので「おい」と声をかけたところ、不意に倒れこんできた。

「っで」

 足にかかった重みに思わずそう漏らすが、倒れこんできたそいつの背中を見て、焦燥も怒りもなく、ごく少量の混乱だけで現状を理解した。

「死んだか……」

 感慨も、悲しみも、寂しさも、涙も、何一つそう言った感情を見せることなく淡々と事実を述べる。

 例えその顔に、見覚えがあっても。

 しかしこれは夢なのだろうか。頭が妙にすっきりとしてることに何の疑問を抱かずこの現状を把握しようと努める。

 超然としているがゆえに人から外れているであろう行動だが、それに思うことは何一つなくただただ倒れこんできた奴を触りながら考え込む。

「ふむ……死因は背後から刃物で一突きか。血が固まっているところからすると俺が寝てる間に死んだのかそれとも……」

 しかし暗いなこの部屋。今更だがなんかカーテンが閉まってる。夜目になってるせいか関係なかったが、ブラインドも閉めてるせいか、余計に。

 寝ている間に何があったのだろうかと推測しながら、ある個所に触れて今までの推測が全部間違っていることに気付いた俺は、ため息をついて倒れこんできた奴に言った。

「なんでこんな登場の仕方なんだ、翠。生きてるのに」

「はいカットォォ!」

 かちん、と音がした瞬間、病室の明かりがついた。

 そこにいたのは翠一人なのだが、病室の扉の隙間からカメラを見つけたため、いるのは明白。というか気づいていた。なんかいるなって。

 明るくなったのに膝から離れてくれない翠をゆすりながら「おい翠、さっさと離れろ」というが、彼女はそれでも離れない。どころか、泣いていた。小さく、俺にしか聞こえない声で。

 良かったと。無事でよかったと。そんなつぶやきまで聞いてしまった俺に再度離れてほしいということができず、彼女が納得いくまで放置することにした。


「ごめんね、こんな登場の仕方で」

「いや別に大丈夫だったが……なんだこれは? ドッキリか?」

「あははは……まぁ、そうだね」

「ちょっと風美さん。彼、全然動揺しないわよ。一体どうするの?」

「まぁいいじゃないか。こういうケースの人間もいるのだからドッキリをやらせじゃないと認識させられるのだから」

「プロデューサー。ですが」

 さらっと混ざってきた女性の言葉を男は片手で制し、「君が爆弾事件で助けてくれた出演者だね……八神君。私は君が出演するはずだったあの番組のプロデューサーだ」と自己紹介してくれた。

 あまり興味のない情報であるため聞き流すことにした俺は「ドッキリ番組を急遽作ることにしたんですか?」と尋ねると、苦笑しながら肯定された。

「昨日のあれで撮影が延期になったから放送する枠が空いちゃってね。だったら次の日に特番撮ればいいやってなったんだ」

「……よく上が頷きましたね」

 テレビ局内でどんな力関係があるのか分からないが、無難に想像できるところを呟く。

 それに対し、彼は「その日その時間で枠が空くと他の局に分散しちゃうからさ。僕達も一生懸命考えているんだ」と答えたので、立派だと思いながら「もうよろしいですか?」と確認する。

 男は少し考えたがすぐさま頷き、「じゃ風美ちゃんを着替えさせて。それから僕たちは次の人たちのところへ行くよ」と指示を出していく。

 ……初出演は、どうやらドッキリになるようだった。


では明日と来週の金曜日に更新します。

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