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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第三話~初出演に関する懸念材料~
106/205

3-6 あー畜生

区切り方間違った気がしなくない。

「つとむぅぅぅぅぅ!!」

 翠は目の前の光景――フィールドの中心にいつの間にか移動したつとむが爆発に巻き込まれた光景――を見て叫ぶ。叫びながら、彼女は涙を流していた。

 つとむが爆弾の存在を明らかにしてすぐさま逃げ惑う観客やキャストたち。そんな流れに、翠は沿わなかった。

 マネージャーに手を引かれかけたが振り払い、人の波に逆らうように残り、自分も爆弾を探すと決めていた。

 そして、見つけてしまった。

 黒くて重く、タイマーのカウントが冷酷に鳴り響くそれを。

 彼女はドラマで似たようなものを見たことがあったが、現状見つけたものが同一であることが信じられなかった。

 なぜなら、そんなものが現実で設置されてるなんて違う世界だという、誰もが思う固定観念にとらわれていたからである。

 人はドラマとリアルを混同しない。それは、心のどこかで「そんなのは起こらない」と高をくくっているからである。

 もしこれが現実に起こっていたら。もしこれが身近に起こっていたら。そんなことを真剣に考えられないような精神ができている。

 だから翠は見つけてしまったときに頭が真っ白になり、膝が震え、力が抜け、ロクに声も出せない状態になった。

 現実に目の前に存在する凶器。誰が仕掛けたのかという疑問すら抱くことすらできない恐怖。

 そんな状態で冷静になれなかった彼女を責めることなど、誰もできない。誰もがそうなってしまう状況で、特定の人物を責めることなど。

 煙が広がる。上から空気が流れ込むからか、段々と煙がフィールドから消えていく。

 彼女はもう動けなかった。目に焼き付いてしまった。

 つとむが、爆発に巻き込まれた瞬間を。

 まぶたを閉じても思い出す。今この状態でもフラッシュバックする。彼の焦った表情と、彼の必死な表情を。

 口がうまく動かない。声が出てるかどうかわからない。喉の奥から乾いていく。

「あ、あっ、あっ……」

 自分のせいだ。自分が見つけてしまったせいだ。自分が手伝わなければ。自分が役にたてると思わなければ。

 そんな思考がぐるぐると頭の中を駆け巡る。対処法など、ない。

 両手で頭を押さえ、体をうずめて己の中に現れたものと戦っていると、晴れた煙の先で声が聞こえた。

「…………あー。死ぬかと思った」

「……………………え?」

 聞こえるはずのない声。聞こえることがおかしい声。

 現状の理解ができない彼女は思わず顔をあげてフィールドの方へ視線を向ける。

 するとそこには、遠目ながらも決して無事ではない状態でいるにもかかわらず立っている、つとむの姿があった。

「あ…………」

 翠は、そんな彼の姿を見て喜びが込み上げ、すぐさま気を失った。




「っぶねぇ。瞬時に離して全力で一歩後ろに下がらなかったら今頃本当に死んでたかもしれねぇ。…とっさに顔も隠したから腕時計壊れてるし、腕も衝撃で片方動かんし」

 本当にヤバかった。爆発するコンマ何秒のラグの間に爆弾から手を離してバックステップしたところで爆発したからな。本当に死ぬかと思った。腕折れただろうけど。服上下共にボロボロだけど。

 ……って、足も違和感あると思ったらバックステップの途中だったせいでうまく着地できなかったからか足ひねったぽい。走れる気がしない。

 盛大に息を吐く。生きてることに対する感謝に対し。

 あの爆発なら人は確実に殺せるな。だけど爆発するまでのラグがありすぎる。他人が見つけて十秒後とか信管壊せたり投げて空中で爆発させたりできるぞ。まぁそのおかげで助かったんだが。

 折れてるだろう腕をだらんとさせて、俺は地面にへたり込む。と、ピリリッと電話の音がしたのでどこにあったかとがんばって立ち上がってケイタイを探そうとするが、ポケットの中に入れていたことをすぐさま思い出し、左腕で右のポケットを探して見つけ、何とか通話ボタンを押す。

「もしもし」

『大丈夫か、つとむ』

「親父? 仕事じゃねぇのかよ?」

 電話をかけてきたのは犯人ではなく親父だった。通話相手よく見てないからなんだが。

 っていうか、このケイタイ衝撃に強いな。爆発の衝撃でも外傷すら見当たらない。

『なんか嫌な予感がして抜けてきた』

「……」

 本当に化けもんだなと思ったがいわずに黙っていると、軽い調子で親父が言ってきた。

『そうそう。爆弾犯ぼこって縛ってきたから。あと、眠ってた女の子も助け出してきたから。そんでもって、お前が処理させた爆弾以外は全てこっちで不発にさせておいたから』

「……はぁ!?」

 いきなり終わったと言われ驚く俺。だから俺に電話かけてきたのか、こいつ。どこまで人外なんだよ。

『で、そっちは?』

 特に解説すらせずに俺の報告を聞こうとする親父。そこに親父の気遣いみたいなものがうかがえたため、俺はふっと笑ってから答えた。

「終わったよ。被害は俺の腕と服と腕時計だけだ」

『そっか……守れたんだな、お前』

「たぶん、な」

『んじゃ、救急車呼ぶから。じゃぁな』

「病院で待ってるぜ」

 俺がそういった時にはすでに通話を切れていた。

 そのケイタイの画面を見た俺は何とかしゃがんで地面に大の字で寝転がり、空を眺めながら叫んだ。

「あー畜生! 親父に全部持ってかれちまった!!」

 そんな俺を空は何も言わず、ただただ流れていた。

 いつもと変わらない、日常という時間で。


現在二次創作と並行して書いております。

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