3-5 第一現場
職鬼のお気に入りが最近増えてきてることに驚いてます。
一方とあるビルの一室。
「……んー」
「どうしたんですか、すすむ部長」
「いや……ちょっと嫌な予感がするんだ」
「部長のそれ、外れたことありませんよね。おそろしいことに」
「君も親になれば身に付くだろうね……というわけだ。唐崎君」
「なんです?」
「一身上の都合により私は出かけてくる……社長とかが来たらそう言っておいてくれ!!」
「え、いやって、部長―!! 窓から飛び降りないでくださーい! ……って、聞いてないし。七階から飛び降りるとかマジでバケモンだよあの人……」
「久しぶりに飛び降りたみたいだね、すすむは」
「って、社長!? 見、見てたんですか! ……というか、久しぶりって?」
「前にもあったんだよ。就職してすぐ。あの時は遅い新入社員でね。仕事ぶりが真面目で特に非の打ちどころがない人だと思ったよ」
「……まぁ、あの人は常識という壁を優に突き抜けたのに戻ってきた人ですからね…穴をふさがずに」
「そんなある日。彼はいつも通り仕事をしてたらしいのだが、いきなり窓を開けて飛び降りたんだよ。当時は三階だったが」
「その時何があったんですか?」
「うちに融資してくれている銀行に強盗が入ったんだよ」
「……え?」
「ま、知らないだろうから説明しておくと、警官が銀行を囲んでる時に裏口から彼が侵入し、銃を持った犯人たちの銃と腕を折って鎮圧して人質とかを解放。警官が呆気にとられてる中、彼は『じゃ、おれはこれで! 警察には適当に言ってください』と言って裏口から出て行ったらしい」
「……なんで裏口の場所知ってたんですか?」
「彼が住んでる町が、何でもアリだからだろ……というより、君はいつまで話しているのかね。部長が残した仕事の半分ぐらいはやってもいいのでは?」
「それは理不尽です!」
……という会話が繰り広げられた。
五軒目到着!! ……って、
「俺が電話受けた場所じゃないか……」
なんか自分でもわかるくらい脱力している。というより、今撮影が始まっているんじゃないかと思ったり思わなかったりで、入るのがめんどい。
ならばどうするか。普通に突破してもいいが、それだと後々面倒事が起こりそうな予感がするのでここは……
「……気配消して裏口から入るか」
よし入ろうと思ったが、スタジアムの中から歓声が聞こえるのでそうは言ってられないと思い、しょうがないので街灯をよじ登ってスタジアムの壁に飛びつき、そこから侵入することに。
基本的に勾配がきついがそこらへんは特に気にせず蜘蛛のように上る。いやもう外聞気にしてる余裕なんてないから。おもっきり犯罪者みたいに見えようが爆弾探すので必死だから俺。
十分でよじ登った俺は観客席の一番後ろに音もなく着地して周囲を見渡し、俺に気付いている奴がいないかどうか確認する。
……よしいないな。さて、爆弾探すか。絶望的に広いけど。
中央のグラウンドでは、俺と光が本来参加するはずだった番組の撮影が始まっている。なんと翠もいるのだからこの番組はかなり人気があると見受けられる。
しかしどうする。一段一段降りながら席の足元をチェックしていく俺。はっきり言ってすごい焦っている。
残り爆発まであと十分あるかないか。未だ爆弾の形状の見当がついておらず、こちらの行動はあちらに筒抜けだといっても過言ではないだろう。
焦る頭を理性で押さえつけながら探していた俺だが、残り五分ぐらいだとわかった瞬間何かがキレた。
それは集中力かもしれないし、苛立ちの頂点かもしれない。ともかくそれがキレたことにより、俺の理性は確実に吹き飛んだのかもしれない。
……そうじゃなければ、この後の俺の行動の説明がつかないから。
いつの間にか俺は、マイクを片手に持ってグラウンドの中央にいたのだから。
ざわめく観衆。動揺する撮影陣。驚くキャスト。
それらを一瞥せずに俺は、司会者が持っていたであろうマイクで叫んだ。
『この場にいる全員に告げる!! 死にたくなければあと五分以内にこの施設に隠されたと思わしき爆弾を探せ! もしくは全員逃げろカスドモォぉぉぉ!!』
一瞬の静寂。そして混乱。
誰かが急いで逃げたのに続き、他の奴らもスタジアムの外に出る。
そんな中俺は目を閉じて音を聞き分けるために集中していた。
人の悲鳴や地を駆ける音などを排除し、自分の中に静寂を作る。人々の気配が鮮明に感じ取れ、異物を探すのにはもってこいな環境にする。
…………チッ、チッ、チッ。人の雑踏を排除した中でそんな音が聞こえたため、俺は顔をあげてその方向を見る。
そこには観客席とフィールドを隔てるフェンスがあり、その近くにカバンが置いてあった。
そこかっ! と駈け出そうとした瞬間、予想もしなかったほうから悲鳴が上がったので振り返ると、翠が尻餅をついて怯えていた。
少し迷ったが翠のほうへ駆け寄り「どうした!?」と訊ねる。
すると翠は、指が震えているのを無視しながらも「それ」を指差した。
「それ」はボストンバックだった。
「それ」は俺達のすぐ近くにあった。
そして「それ」は選手が通る通路――今俺達がいる場所の近く――に、鎮座していた。
時計の針が進む音を刻みながら。
それが聞こえた俺は、反射的にそのボストンバックに飛びついてバックを開ける。なんで翠が怯えていたのかわからずに。どうしてチャックが開いていたのかもわからずに。
「……はっ」
見つけたのは紛れもなく爆弾。それも、ご丁寧に『don’t mind』という文字を流しながら。
なるほど。特定の人間以外が見つけたら爆発する仕組みか。それ以外にも色々と付けてそうだな。
思考がゆっくり、明確になった時にはすでに俺は爆弾を持った状態でフィールドのほうへ移動した。が、その瞬間カウントがゼロになり、投げる間もなく、
爆弾は爆発した。
言っておきますが、この作品のほとんどは自分の想像で書かれています。これ違くねと思われても言わんでください。




