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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第三話~初出演に関する懸念材料~
101/205

3-1 災難の一日

101話です。来週更新予定日は……活動報告に書いておきます

 五月二十八日(土曜日)。

 今日は、光との約束(押しに負けて)でバラエティ番組に出演する日。

「ハァ」

「何溜息ついてるんだい? 君の場合、一人だと絶ッ対に集合時間に間に合わないだろ? 早く行ったらどうかな? どうせ長谷川さんと待ち合わせしているんだろ?」

「なんで不機嫌そうなんだよお前は……」

靴を履いているところでため息をついたら、いつきがなぜか不機嫌そうに言ってきた。

 いつきの不機嫌な理由がなぜなのかと問われると、俺には全くさっぱり理解できない。ただテレビに初めて出演するだけだというのに。

 ていうか今更ながら面倒だな。やってやれんこともないがやる気が起きん。

 まぁ引き受けたのだから仕方がない。そう思うことにしよう。

 そう切り替え、俺は近くに置いたバックを背負ってドアノブを回して「行ってくる」と出て集合場所へ向かった。

 光が指定してきた場所は、スミレ学園の校門前。そこに俺はいつも通り自転車で向かっている。のだが……、

「……なんで何事もなく学校に着いちまったんだ?」

約束された集合時間より二時間ちょいぐらい早く家から出てきたんだが、何に巻き込まれるわけもなく学校に着いてしまった。

 いつもならこうはならない筈なんだが……一体どういうことだ? と、思わず首をかしげながらしばらく待っていると、携帯が鳴りだした。

 着信を見ると「長谷川光」だったので、俺は普通に通話ボタンを押した。

「もしもし」

『あ、つとむさん! おはようございます!!』

「ああ。……ところで、何か用か?」

いつにもまして元気な声を聞き、電話してきた用件を尋ねると、一気に声のトーンを落としてこういってきた。

『あの、一つお聞きしたいんですけど……今、どこにいますか?』

「どこって、お前が指定した集合場所だが?」

何を当たり前なことを聞いてるんだ? 内心そう思いながら答えると、すいません! と思いっきり電話越しで頭を下げている光景が目に浮かぶほど切なそうな声で言ってきた。

『すいません。事情がありまして、私マネージャーと一緒に現地にいます。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします』

なるほど……こういう展開になるからここまで来るのに時間がかからなかったんだな。

 なるほどこいつは一杯食わされた☆ とか思ったが、内心では怒り狂っていた。

 ビキビキとヒビが入る音が聞こえるケイタイ。それがケイタイ越しで聞こえたのか、光の声が焦り出した。

『すいません! すいません!! あとで説教でもなんでも聞きますので来てくださいお願いします!』

 そうまくしたてられた後、すぐさま通話が切れた。

「…………」

そんなケイタイの画面を数秒間見つめた後、ハァとため息をついてからケイタイをポケットに入れ、顔を上げて叫んだ。

「ふざけんじゃねぇぇぇ――――!」

そして俺は自転車に乗り、何時ぞやの時と同じ感じで走り出した。

 だから俺はぽっかり頭から抜けていた。

 自分の体質と、過去の経験を。




「うおぉぉぉぉ――――――!!」

撮影場所までほぼ全力で自転車をこぐ。

 そう言えば、撮影場所の説明をしていなかったな。

 撮影場所はくれな町から車で一時間、電車で四十五分ぐらいかかる、りぐる市。

 そこは別名「スポーツの市」と呼ばれ、運動場や野球スタジアム、体育館やサッカースタジアムがある。

 なぜこんなに一ヶ所にまとめたのか理解に苦しむが、移動する距離がほとんどないのでその点を考慮されてのことだろう。

 が、しかし。そんなこと今の俺には知ったことではない。

 今俺を突き動かしているのは、誰かさんに対する恨みや怒り、それに、約束したのに遅刻するという失態。

「遅れてたまるかぁぁ!」

 俺は死に物狂いで自転車をこいでいた。

 が。たとえ死に物狂いで自転車をこいでもつらい場所というのは存在する。

 例えば、坂道とか。

「しゃらくせぇぇ!!」

 もはや競輪選手顔負けの距離とスピードの状態のまま、俺はりぐる市へと続く山道を登る。

 自動車を追い抜いてそのまま走っているが、段々とその数が多くなってたので、冷静になってこぐスピードを落とし、息を整えながら先へ進むと。

「……なんで交通事故が起きてやがる……」

 何が原因か知らないが、トラックと乗用車が接触事故を起こしたらしく、そのせいで道が渋滞してるようだ。

 俺は内心焦りながらケイタイの時計を見る。

 確か撮影開始の時間が十時ぐらい。だから集合時間を八時ぐらいにしてもらい六時ぐらいに家を出たのだが……時計を見たらあら不思議。午前九時三十分になっていた。

「って、ヤバいどころじゃねぇ! もうすぐで時間じゃねぇか!!」

 心底驚き慌てた俺は、そのままケイタイで光に電話することにした。

 が。

「……つながらねぇ!」

 いくら電話をかけてもつながらない。何度かけてもつながらない。

 りぐる市へと続く道はここ以外にもあるはずだが、今引き返したら確実に時間に遅れる。かといってこの場から通り抜ける道などどこにも……

「あ」

 あった。

 そう思い立ち往生している人たちとは違い山のほうを見る。

 ここは山の中。ということは、舗装されていないが山の中を走れば何とかつくかもしれない。

 少し悩んだが、俺は時間もないと思い山の中を走るために自転車を押して同じく立ち往生している人の視線を受けながら山へ入った。

 ……しかし、こっから間に合うか? この状況で。


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