2-9 来たよ
今週は今日と水曜日に更新します。ちまちまとですが進んでおります第六話。
家に帰った時には午後九時半。
ただいま~といって靴を脱ごうと思ったら、何故か靴が一足多いことに気付いた。
また誰か来ているのかよ? なんて内心首を傾げながら靴を脱いで二階へあがり、諸々をしてリビングに行ったら、我が目を疑った。
なぜなら、両親と和やかに話しているいつきの姿があったからだ。
俺に気付いた茜は、タッタッタッタッと来た。
「どうしていつきがここにいるんだ?」
近づいて来た茜に、頭を撫でながら訊いた。
そしたら、頬を赤くしつつ下を向いてこう答えた。
「えっとね、いつきさんのお父さんがしばらく家を空けるからってことで、ここに泊まりに来たんだって。使用人にも暇を出して」
思い切ったことをして俺のところまで来たのかよ……なんて思いながら、俺はテーブルに座って談笑しているいつき達へ向かいこう言った。
「お前な、柊哉さんが居ないことなんてざらなのに、どうして泊まりに来たんだよ?」
すると、一旦会話を中断し、いつきは俺に向かいこう言った。
「おかえり。……それにしても、随分な言いようだね。僕は久し振りだっていうのに」
「そうだけどよ。いきなりすぎるだろ」
「僕は今日言おうと思ったんだけどね、君がずっと寝ているものだから言えなかったんだよ」
そうだったのかと思いながら、俺はふと両親の顔を見てみた。
すると、
「おかえりつとむ……そう言わないの。いつきちゃんだって寂しいのでしょうから」
「そうだぞ。第二の家族といっても過言でもないこの家に来るのは当然のことだろ」
などと言って互いに顔を見合わせ、笑ってから酒(よく見ると一升瓶のうち五合近くがなくなっていた)を飲んでいた。
明らかに酔っていやがる。一体いつから飲んでたんだ? と思いながら、俺は適当な椅子に座りいつきに訊いた。
「で? なんでまた突然に?」
そしたら、コップに入った烏龍茶(だろう)を飲んでから答えた。
「さっき茜ちゃんが言ったじゃないか。誰もいないから、久し振りに君の家に泊まりに来たんだよ」
「は? わざわざ使用人に暇を出したんだろ?」
「まぁね」
悪びれもせず普通に答えるいつき。
ちょい待て。普通はそこら辺言葉濁さすんじゃねぇのか?
まぁコイツのこういう潔さも良い所だなと思いながら、俺はため息をついてから言った。
「いつまでだよ?」
「決まっているさ。夏休み前までだよ」
俺は、冗談だろ? という風に確認した。
「何言っているんだ、お前」
「なにって、滞在期間だよ。ここに泊まる」
その一言に、俺は大声をあげそうになった。具体的には怒鳴ろうとした。
だが、そこを何とか抑えた。夜だから他の家に人がいるだろうし。
その代り、頭を抱えてこう訊いた。
「………マジ?」
「マジ、だよ。さぁ、久し振りに話そうじゃないか」
俺の問いかけに異常なテンションで答えるいつき。
俺はそこで嫌な予感がした。
異常なテンション? ちょっと待て。てことはなにか? さっきいつきが飲んだ烏龍茶っての言うのは…………。
確認のため、いつきに質問してみた。
「お前、酔ってる?」
すると、コップを置いてからいつきは答えた。
「何を馬鹿な。僕はこれくらいじゃ酔わないよ」
そう言って置いたコップの中身を飲もうとしたので、俺は慌ててその手を掴んでコップを奪い取った。
その時いつきが「い、いきなり乱暴なことをするなんて…。こ、心の準備がまだ……」とか言ってたが、気にせず中身の匂いを確認した。
そしたら、案の定お酒だった。
ああもう! 誰だいつきに酒飲ましたの!
って、突っ込みたかったが、犯人は誰だかわかっているので止めておく。
逆に、どうして酒を飲んだのか非常に気になった。
「なぁ、いつきにどうやってお酒を飲ませたんだ?」
すると二人は顔を見合わせてから答えてくれた。
「「ちょっとつとむの話をしながら渡したら、普通に飲んでくれたよ」」
あ、あんたら……!!
思わず殴りたい衝動に駆られてそのまま行動しそうになったが、親父にまだ敵わないことなど理解しているので、怒りを鎮めていつきをどうするかに思考を切り替えた。
生憎部屋は余ってない。となると俺たち家族の中の誰かの部屋と駄目で、一番有力候補は親父たちの部屋なんだが、この状態(酔っ払っている)のいつきにあの両親を混ぜたら大変なことになりそうだと思ったので却下。
茜は……嫌って言いそうだなぁ。しょうがない。
「おいいつき。今日は俺の部屋で寝ろ」
「ふぇっ!?」
俺の提案に、いつきは酔っていて赤かった顔をさらに赤くして驚いていた。
「あらあなた。つとむってば大胆ねー」
「いよっ! このムッツリ!!」
そして両親はそんな事を言っていた。
更に茜までも、
「見損なったよお兄ちゃん!!」
という始末。
はて。一体どういう事なのだろうか? ただ俺は、俺の部屋で寝てもらおうとしただけなんだが……。
何か誤解が生じてるような気がしたので、俺は首をかしげて言った。
「俺の部屋でしばらく生活しろと言ってるんだが?」
「「「………………」」」
「そうなんだ……。……良かったぁ」
う~む。どうして茜は胸をなでおろしているのだろうか? そしてどうして両親は『がっかりだよ』的な顔で俺をガン見してるのだろうか? あと、いつきは何をボソボソ言ってるんだ? 俺に背を向けながら。
いったいどうしてこうなったのか不思議でならないが、まぁとりあえず解決したようで何よりだと思い、俺は風呂場へ向かった。
「あー、今日も疲れたー」
学校にいるときはすごい寝ていたのにどういうことだと突っ込みたい奴もいるだろうが、基本的に心労が溜まるんだよ、こっちは。
さて今は風呂に入っている。近くに気配がないので誰もいないことは明白……じゃないが、まぁ誰もいないだろう。こんな所に好き好んではいるような奴、誰もいないだろうから。
湯船につかりながら、俺は一人呟いた。
「しかし、いつきの奴一体どういう風の吹き回しだ? いきなり来てはしばらく泊まるよ、って。まるで昔みたいだぜ」
そう。まるで小学生の頃みたいな……
「懐かしいな……」
チャプリ、チャプリ……。風呂の中のお湯が揺れる音だけがこの空間を支配する。
その間俺はあることを思い出していた。
だから、だろうか。
コンコン
「!? 誰だっ!?」
人の気配に気付かず反射的に鋭い声を出してしまったのは。
『……僕だよ。まだ入ってるなんて、一体どうしたんだい?』
「なんだ、いつきか……」
『なんだ、じゃないよ。君がいつまでも入ってるせいで後がつかえてるんだ。さっさとあがりたまえ』
「あー、わかったよ。今から上がるから」
『!? ちょっと待って!!』
俺が浴槽から上がろうとしたら、いきなりいつきが慌てた。
それに関して一瞬不思議に思ったが、よく考えたらいつきは女だったので、俺は「さっさとリビングに戻ってくれ」と言っていつきを離れさせた。
しかし、よくよく思い返せば結構いろんな事やったよなぁいつきと。なんて、いつきが戻る足音を聞きながら俺は思った。
「上がったぞー」
「じゃぁ次は茜入りなさい!」
「お父さん達は?」
「「うっ」」
「どんだけ入りたくないんだよ……」
風呂から上がってパジャマに着替えた俺がリビングに戻ると、茜と親父たちが次誰が入るかという口論をしていた。
いつきはというと、一瞬視線を合わせたがすぐに背けられてしまった。
未遂だというのにこれはいかに? と思ったが、まぁ別に本人の気持ちの問題だろうと思いそっとしておくことにした。
結局いつきが入り、その後にお袋、茜、最後に親父となった。
……途中で入ろうとしたら茜に嫌な顔されて凹んだ親父は傑作だったなぁ。
それからいつきを自室に案内し、俺はリビングで寝ようとしたのだが、何故だか茜が一緒に寝たいと言い張るので、いつきを茜の部屋まで送って、俺は自室で寝た。
なぜだか二人とも残念そうだった気がするのは、俺の気のせいだろうか?
ではでは。