2-3 事情聴取
「邪魔するぜ」
言いながら俺は、取調室に入った。もちろん菅さんも一緒にだ。そいつ――名前は横井達哉と言うらしい――は、俺を見た時に思いっきり舌打ちをした。捕まえたやつが来れば、その反応は当然だよなぁ、と感じながら俺は、
「こっからは俺達がやるから、あんたらは別にいいぜ」
そう促して、さっきまで取り調べをしていた奴らを部屋から出した。
「俺もここにいなきゃいけねぇのか」
そんなことを言った菅さんはスルーして、俺は始めた。
「さてと、取り調べ第二幕だ。早速訊くが、お前、他に十数件ひったくりをやっているんだって?」
「やってねぇよ。今回が初めてだよ」
「その割にはだいぶ慣れてる感じだったけどな」
「・・・・・・・・・・・・・」
俺のその一言で、そいつは黙ってしまった。恐らくは言い訳でも考えているのだろう。が、そんなことをしても意味がないことを思い知らせてみるか。そう思って俺は、唐突にこう訊いた。
「おいあんた。何処かのグループに入っていないのか?」
「あ? なんでそんなこと訊いてくるんだよ?」
「いいだろ、別に。で、どうなんだ? 入っているのか? いないのか?」
「……入ってるよ」
「リーダーの名前は?」
その一言で、菅さんは俺がどうするのか分かったようだ。このおっさん、勘と推理力はすごいのに、どうしてずっと平刑事をやっているんだ?と毎回疑問に思うところだが、過去に何かがあったんだろうな。そう考えていると、
「……安達剛志さんだよ」
言いにくそうに彼は答えた。
安達剛志、ねぇ。俺は、そいつが言った名前を頭の中で復唱しながらケイタイのアドレス帳を見た。え~と、安達、安達……あった、あった。よし、あいつには悪いがちょっと電話に出てもらうか。そして俺は、電話をかけた。ちなみに、捕まったやつは俺の行動を見て不審に思っていたことは、言うまでもないな。
プルルルルルルッ!! ピッ!!
「よう、久し振りだな、安達」
『つとむじゃねぇか!! なんだよ、いきなり電話してくんじゃねぇよ! びっくりしたじゃねぇか!!』
「悪かったな。…ところで、今大丈夫か?」
『ああ、いいぜ。珍しいな、お前が電話してくるなんて。いったいどういう風の吹き回しだ?』
「ちょっと確認したいことがあってな。横井達哉って、お前らのグループに入っているのか?」
『横井達哉…? ……ああそうだ、入ってるぜ。そいつがどうしたんだ?』
「ひったくりをして捕まったんだよ」
俺は正直に言った。ここまでで、横井の顔がものすごい勢いで青ざめていった。
こっから先は、お前に言論の隙は与えないぜ。
『あいつ…また性懲りもなくやりやがったな!! だから指名手配になった時に、『もう自首しろ』って言ったのに!!!』
と安達が怒っていた。ほほぅ。つまり、
「指名手配になる前からやっていたと」
『ああそうだ。なぁ、つとむ。そいつに代わってくれねぇか?』
「いいぜ。…ほらよ、安達からだ」
向こうからのお願いを聞き、そいつに電話を渡した。そいつは、全身をガタガタと震わせながらゆっくりと電話を受け取った。
『よう、横井。お前、捕まったんだな』
「は、はい・・・」
『――馬鹿じゃねぇかテメェ!! なんでそんなことしていたんだよ!!』
「す、すみません・・・。つい出来心で……」
『それで済むなら警察はいらねぇだろうが! …もういい。お前は今日からメンバーから外す。分かったな?』
「わ、分かりました」
『じゃぁ、ケイタイは持ち主に返しとけ』
「は、はい・・・」
力なく横井は俺にケイタイを返した。それを受け取って俺は、
「ありがとな」
『いいさ、別に。…それより、こんなことになってしまったのは、俺がしっかりまとめていなかったせいだ。済まない』
「いいさ、そんなことは。お前はよくやっているよ」
『その言葉はありがたいな。もう用は済んだか?』
「ああ。助かったぜ」
『そうか。じゃ、また会おうぜ』
「おお」
用事が終わったので電話を終了させた。それと同時に、
「さ~て、全部はいてもらおうか」
菅さんが嬉々として言った。すると、さっきの態度が嘘のように自分の犯行を淡々と語った。
よほどショックだったんだな。と思ったが、自業自得なんだから同情する必要はないな、すぐに思い直した。
「助かったぜ、つとむ。お前のおかげで事件が解決したよ。今回も表彰状いらねぇんだろ?」
「いるわけなぇだろ。あんなの、大分もらっていたからな」
取調室から出た俺と菅さんは、そんなことを言いながら歩いていた。
「そういえばそうだったな。小学校に上がる前からもらっていたんだよな。そりゃぁ、いらねぇよな」
「ま、それは今どうでもいいわけだが。今何時だ?」俺は菅さんの話を遮って肝心なことを訊いてみた。
「ん? 今は十時半ぐらいだな。そういえば、おまえ、学校に行く途中だったんだよな。ワリィ、ワリィ。」と笑って流そうとする菅さん。
おい、そりゃぁ
「まじでか!? 俺はさっさと行くからな!! またな!!」
同時に俺は駆け出した。ヤバイヤバイ!! ここから学校までは最低一時間二十分ぐらいかかる!! そう思いながら署内を出て、俺は自転車を思いっきりこいだ。
その時の光景を見た人は、
『まさか自転車で自動車と同じような速度を出す人がいるなんて……』
と言っていたという。
「どりゃぁぁぁ――――――――――!!!!!」
キキッイィィィィィィ!! ズザザザザ!!!!!
学園前に来たので全力でブレーキングしたところ、ものすごい音を出しながら自転車が止まった。
ハァ、ハァ、ああ、もう駄目だ、死ぬ。と思いながら腕時計を見ると、時刻は十一時十分。なんと一時間も経たずに着いてしまった。・・・・・人って、死ぬ気でやればできるもんなんだな。そう思いながら俺は、自転車をいつもの場所に置きに行って、校舎に向かった。
昼休みは十一時から十二時まで。十二時から五十分の授業が三つ。だから帰りが三時くらいになる。という説明を忘れていたな。スマン。




