表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第一章
7/62

転校偏 第01章 第07話 挨拶と妹

 剴園(がいえん)高校では、一時限目が始まる前に、学級担任による連絡事項伝達が行われる。


 その時間帯を利用して、転校生であるところの文弥(ふみや)の紹介が行われていた。


「今日から、みなさんのお友達になる、久城(くじょう) 文弥君です!」


 ここ剴園高校一年一組の学級担任。奥村(おくむら) 弘子(ひろこ)女史は、彼らの年齢を間違えているのではないか?


 などと、思いながら、文弥は自己紹介をするべく一歩前へでる。


 伊織(いおり)曰く、


「つかみが肝心よ!つかみが!」


 と言うことだったが、金鵄教導(きんしきょうどう)に対する一般的なイメージを考えると、下手なことは言わないほうがいいだろう。


 そもそも、どちらかと言えばボケよりツッコミタイプだと自分でも思う。


「今日から世話になる、久城(くじょう) 文弥(ふみや)だ。よろしく頼む」


 とだけ言って、軽く会釈をする。ザ・無難な挨拶。というやつだ。


 ……が、注目を浴びたままなんの反応もない。


 え?それだけ?と言った空気はビンビンに感じるが。


『ただの人間には、興味がありません!』


 とか言えばいいのか?この、《能力保持者(スキルオーナー)》が集まってる中でそれを言っても、ただの皮肉だろう。


 ―――ただの人間なんて一人も居ないのだから。


 とは言え、今後の人間関係が面倒なことにならないよう、ここは折れておく必要があるだろう。


 そう思い直し、


「元は、こっちに住んでたんだが――」


 と、挨拶を続けようとしたところ、


 


 ガタッ!


 


 という音を立て、一人の女生徒が勢い良く立ち上がった。


 一番後ろの席だったため、さらに派手な音を立てて、椅子が倒れる。


 


 伊織に目を合わせると、わざとらしく目をそらされた。


 


 優羽を見やると、苦笑いを浮かべている。


 


「おっ、おにいちゃん⁉」


 


 立ち上がった女生徒が、吃驚(びっくり)した表情を浮かべ、大声で叫ぶ。


 黒髪の文弥とは真逆の、純白の髪色。血色の良い肌色をしている文弥とは違い、肌は雪のように白い。


 髪はその白とは正反対の、黒いリボンでツインテールにされ、普段なら兄に似て勝ち気な色を浮かべているはずの蒼玉の瞳は、今は動揺に揺れている。


 文弥の印象は、『九年前と変わらないな』。というものだった。


 なるほど。優羽が言っていたのはこういうことかと、喫茶店での出来事を思い出す。


 兄妹(きょうだい)なのだ。妹も《能力(スキル)》を使えても何もおかしいところはない。


 現実逃避しかけた思考を無理矢理に引き戻す。


「あー。そういうの間に合ってます」


 色々解決するべきことはありそうだが、とりあえず、文弥から出てきた言葉はそれだった。


 まぁ、無理があるだろう。と思いながらも、文弥はそのままごまかすことにした。


「あ、そうですか。じゃあ、またお願いします」


 そう言って、椅子を戻し。そのまま座る。すごすごと。


 妹は、素直ないい子に育ったらしい。新聞屋もこれくらい素直であればいいのに。あとNHK。


 両方とも来たことないけど。


「妙な乱入があったが……まぁ、見ての通りの田舎者なもんでよ。至らんところも多々あるだろうけど、これから三年弱よろしく頼む」


 そう言って、再度会釈をすると、今度こそクラスメートからの拍手で迎えられた。


「それじゃあ、佐伯さんの隣が開いてるからそこに座ってね。佐伯さん?暫くの間、久城くんの面倒を見てあげてくださいね」


 声に従って、優羽の隣の席に座ると、


「改めて、よろしく頼む」


「こちらこそ、よろしくね」


 と、軽く挨拶を交わす。


 伝達事項はそれだけだったらしく、すぐさま、日直による号令が行われた。


 きりーつ!れい!


 というやつだ。


 学校というより、研究所だった金鵄教導には存在しない文化だ。思わず、金鵄教導に移る前に通っていた小学校のことを思い出し、懐かしさを覚える。


 そのまま、教室の外に控えていた、一時限目の教師が入ってきて授業が始まる。


 こうして、文弥の剴園高校での日々が始まった。


 


 


 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇


 


 


 一時限目が終わるとともに、文弥のもとに純白の少女が駆け寄ってくる。


 授業中もずっと視線を送って来ていた。ガン見というやつである。


 その態度から、おおよその予測をつけていた文弥は、ため息ひとつで受け入れることにした。


「兄さん⁉どういうことですか⁉と、アヤさんは、とっても驚いて、そしてとっても怒っています。フクザツな心境というやつです」


 約十年ぶりの再会にしては、ひねりのない質問である。


 質問そっちのけで、『おにいちゃん』はやめて、『兄さん』と呼ぶことにしたらしい。とか現実逃避気味に考えていると、文寧はさらに机を叩かんばかりの勢いでまくし立てる。


「今まで何やってたんですか?アヤさんの目をしっかり見て、さあ答えてください!さぁさぁさぁ!」


 あと、顔が近い。


三雲(みくも)さん()の、文寧(あやね)ちゃんよぉ。もう少し、お(しと)やかにしてねーと、兄さん悲しいぞ」


 言われて、そそくさと離れる。顔が近いのは文寧にとっても恥ずかしいらしい。


「つーかあれだ。アヤがここにいる事の方が驚きだ。黙ってるつもりだったのによ」


 どうしてこうなった。と言いたげに、半眼になる。


「突然失踪した双子の兄さんが居るとは聞いてたけど、やっぱり文弥くんの事だったんだ」


 くすくすと笑いながら、隣の席から声が掛かる。優羽だ。


「まぁ、あの時は事情があってよ。それに、もう久城文弥だ。戸籍上はもう優羽とは無関係だ。望めば結婚もできるぞ?」


 と冗談めかして言う。


「なんかすげー話しかけづれーんだけど。今ちょっといいか?」


 前の席に座っている男子生徒だ。文寧は一人で、「それはそれで……」とか、「妹やめますか?人生やめますか?というやつですね」とか小声で呟いている。


 それを放置する形で、彼女以外の興味は、突然話しかけて来た生徒に移っていた。


 明らかに自分で染めました。と言うような茶髪に、両耳にピアスという出で立ちだ。田舎のヤンキースタイルとも言う。


 座ったままなので身長は分からないが、座高から言って、文弥より高いだろう。


「ああ、いいぜ。どうした?」


「俺は杉田(すぎた)一誠(いっせい)。大した用はねーんだけど。転校生ってのは本来この学校じゃあり得ないからな。せっかく席も近いし、声をかけてみたってわけだ」


 なるほど。空気を読まないふりをして、気を利かせてくれたのか。


 元からの知り合い以外で声をかけてくるのは、現状優羽くらいだ。その優羽も、今日はじめて話したわけではない。


 今日はじめてあったクラスメートたちはただ遠巻きにしているだけだ。


 この田舎のヤンキーは、見た目によらず良い奴らしい。


 そんなことを思いながら、改めて自己紹介をする。


久城(くじょう) 文弥(ふみや)だ。一誠でいいか?俺のことも文弥でいい」


「オーケー文弥。よろしくな。そうそう。いいんちょーは、倍率高いから転校生の利を活かすなら今しかないぜ」


「ええ、ここで私にふるの?倍率高いとかないから!」


 急に話を振られた、優羽がぱたぱたと手を振る。


 顔を赤くして否定しても、いまいち説得力にかけるが、朝のうちに『おともだち』とはっきり言われている文弥は、


 ――そういうこと言うと、喜んでからかってくる奴が居るよなー


 とか考えていた。


 そしてその予想通り、


「そうねぇ。中学時代に撃墜しまくって、突撃してくる猛者が居なくなっただけだったりして」


 いつの間にか現れた伊織が混ぜっ返す。


「なるほど。三雲さんと、片瀬は幼なじみって話だもんな。噂のおにいちゃんであるところの、文弥とも幼なじみってわけか」


「なんで、アヤは三雲さんで、私は片瀬って呼び捨てなのよ?」


 拳を握りしめながら、半眼で睨みつける。


「そりゃ、イメージってもんさ。それに、さ行重ねると言い(にく)いだろ?」


「え?そういう問題?」


「まぁ、そんなことより、文弥。金鵄教導(きんしきょうどう)って言えば、いろんな噂があるだろ?どこまで本当なんだよ?」


 一誠がそう訊ねると、談笑しているクラスメートの声が少し小さくなる。


 古い言い回しをするなら、おみみがダンボ。これ見よがしに聞き耳を立てている感じではないが、それでも意識がこちらに集中している。


 まぁ、聞かれて困るもんでもないし。もう守秘義務もないようなもんだしな。そう思い、素直に答えるようにする。


「どんな噂があるのか、それ自体を俺はあんまり知らないから、あれこれ聞いてくれていいんだけどよ。


 まぁ、ただの学生だったからな。答えられるのは知ってることだけだけどな。俺が知ってる噂だと、優羽には話したんだが、《能力(スキル)》を秘密にしたがるのかどうかっていうのは、イエスだ。ずっとそう言われてきたからな。今日も演習があるし、そのうち分かるだろうけど、自分からあれこれ説明するのはチョットな。必要があればその限りじゃないんだが。


 《多重スキル(デュアルスキル)》の研究をしてたってのも本当の話だな。今回の事件は、その研究の失敗で《能力(スキル)》が暴走したと聞いた。それに関しては本当かどうか俺にも分からんけどな。


 あとは、そうだな。最強の能力者云々って話か。鎖国状態で、他と競ったことがないからな。正直なところわからんってのが本音だな。戦闘訓練はすげーきつかったけどな。こんなところか?」


「んー後一個だけいいか?全員の《補助器(デバイス)》が、俺達みたいに汎用型じゃなくて、専用型ってのは本当か?」


「半分本当で半分嘘って感じだな。《武器化(アームド)》が可能なことと、補助機能なしで《能力(スキル)》が使える奴は全員持ってるって感じだな。専用器(せんようき)には、能力補助の機能はないからな。ああ、ついでに聞かれそうだから言っとくと、専用器(せんようき)は消滅していないからな、国に回収されたって話だ」


 


 すべての《能力保持者(スキルオーナー)》が最初から自力で能力発動できるわけではなく、《補助器(デバイス)》と呼ばれる能力発動を助ける補助器具を使用して能力発動を行う。そうして、微力な力の持ち主でも《能力(スキル)》の訓練を行えるようになっている。その後、その補助なしで能力発動できるようになるかどうかは、本人の努力と才能次第ということになるが。


 補助無しで《能力(スキル)》発動が出来るようになると、《補助器(デバイス)》が本人にあった形に変化する。


 たいていは武器の形に変化するため、単に武器化(ぶきか)とか、《武器化(アームド)》呼ばれている。


 先日のひったくり犯が履いていた、ローラーブレードもこの武器化によるものだ。


 武器化したところで、能力補助の機能がなくなるわけではない。


 自力能力発動が可能と言っても、複雑な能力制御を行うため補助機能に頼るというような使い方をするため、自力能力発動が可能と言っても《補助器(デバイス)》を手放すことはない。


 武器化が出来るようになると、補助機能以外にもう一つ機能が開放される。


 《特徴付与(エンチャント)》だ。


 《特徴付与(エンチャント)》は、その名の通り武器化した《補助器(デバイス)》に《能力保持者(スキルオーナー)》の特性を付与する機能の事だ。例えば、電気操作系の能力なら、武器が電気を帯びる。と言った具合だ。


 ところで、《補助器(デバイス)》には汎用型と専用型がある。現在では、単に《補助器(デバイス)》といった場合は、汎用型の《補助器(デバイス)》を指すことが多い。


 先述の特徴も、汎用型《補助器(デバイス)》の話である。


 それとは別に、専用型《補助器(デバイス)》が存在する。


 長いので、通常は、汎用器(はんようき)専用器(せんようき)という呼び方をしている。


 汎用器は基本的には、所有者に最も適した形へと変わるが、専用器は決められた形にしか変わらないため、汎用器の武器化形態を参考に選定する。


 武器化した汎用器が剣なら、専用器も剣。と言った具合である。


 専用器は、補助機能が無くなる代わりに、《特徴付与(エンチャント)》とは別に強力な能力を備え、形も人それぞれとなる。


 専用器の中でも更に強力なものは、製作者が使用者のためだけに作ったものや、特定の《能力(スキル)》との相性を考えて作られたものなどがある。


 補助機能を一切必要としない強力な《能力保持者(スキルオーナー)》でない限りは、どちらも一長一短であり、どちらが優れているということもないのだが……


「おお、すげぇ。やっぱさ、専用器って憧れるよな!男の夢っつーかさぁ!数も圧倒的に少ないから、そう簡単に手に入れられるもんでもないしな!」


 と、一誠は目を輝かせる。


「兄さんも持っているのか、アヤさんはとても気になります」


 いつの間にか、復活を遂げていた文寧が興味深そうに訊ねる。


「ああ、持ってるぞ。教室なんで展開して見せてやることはできねーけどよ」


「うちだと、中学では武器化を習わないし、授業でやるまで練習も禁止なのよね。高校になってやっと。外部組には出来る人も居るんだろうけど、中等部からの受験組はみんな出来ないのよ。ちょうど今日の授業が武器化のはずよ」


 と、伊織がつまらなさそうに言う。


「俺は、他の学校の演習は初めてだからよ。割と楽しみにしてるけどな」


 そう言って、文弥は不敵な笑顔を浮かべた。


「演習って言う演習はまだまともにやってないけどね」


 と、またもや伊織がつまらなさそうに言った。


 文弥は肩をすくめると、


「ところで、『転校生ってのは本来この学校じゃあり得ない』って言ってたけどよ、どういうことなんだ?」


 と一誠に訊ねた。


 だが、それに対する回答がもたらされたのは、一誠からではなく伊織からだった。


「この学校は、一クラス四十人、二十クラス。一学年八百人と決まってるのよ。基本的には途中退学もないし、死亡事故以外で人数が減ることもないし、転校生を受け入れるなんてことは本来ならないことなんだけど……入学式の前に、生徒が二人自主退学してるのよ。入学式後の自主退学は認められないけど、入学式前だから認められたらしくて、今の一年生は二人少ない状態だったから、文弥の転校受け入れが許可されたって噂があるのよ。自主退学した生徒は本来このクラスに入る予定で、文弥がこのクラスに転校してきたのも、そんな噂が流れる要因ではあるんだけど……」


「なるほど。急にやめた奴らどうしたんだろうな。法律で、十六歳~十八歳の間は《能力(スキル)》の教育を受けることは義務付けられてるわけだからな。どっか別な学校にでも通ってるんだろうか」


 と文弥は首をかしげる。


 そして、間を置かずになったチャイムの音で、一同全員席に付くのだった。


 


 


 


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ