表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
盛夏戦編 第二章
62/62

盛夏戦編 第02章 第06話 四者四様

「で?詳しい話を聞かせて貰える?」

 

 電撃解決にひとしきり驚き、安堵した後は、文寧を問い詰める会の始まりだった。

 

 文弥としては、休ませた方が良いのでは無いかとも思ったが、話を聞く重要性も分かるので、とりあえず黙っていた。

 

「身体測定の時、いじめていた上級生がアヤさんに声をかけてきて……最初は無視していたのですが、鬱陶しかったので、《能力(スキル)》で脅そうかと思ったのですが、なぜか発動しなかったんですよ。というか、力が抜ける感じでした。一応、もめ事の種になりそうだったので、彼のことは調べておいたのですが、力を奪うような《能力(スキル)》は持っていないようです。普通の身体強化系ですね。Aクラスでも下の方の成績のようですが、それでも、Aクラスなのでそれなり(・・・・)には強力なのでしょうが……」

 

「生徒会長ほどでは無い……か。一応、強化系統は『マイナスの強化』によって力を奪う事も可能なんだ。ただ、難易度は非常に高い。文寧を無力化するほど、マイナス強化するとなるとあの生徒会長でも厳しいかも知れん。というか、そこまでの力があるなら、普通に自分を強化してぶん殴った方が早い」

 

「兄様、アレを使えば可能なのでは?」

 

「金鵄教導消滅とともに、研究データは消えたはずだ。存在を知っている人間も、恐らくは生きてないだろう」

 

「文弥、アレって何なのよ?」

 

「まぁ、いいか。知ったからといって、真似できるわけでも無いからな。《能力(スキル)》の力を増幅させる研究だ。結果から言えば、研究は失敗だった。一時的に《能力(スキル)》を増幅させるだけで、継続的には上がらなかった。その増幅も、底上げにはならず、一部分だけが増幅されるような代物で使いにくいんだ。あげく、手間もかかるし、リスクも高い。それでも、今回のことは、力を奪うって事に特化して強化すれば、可能と言えば可能だ」

 

「底上げする部分は選べないの?」

 

 優羽の当然の質問に、文弥は渋面を作りつつ答える。

 

「ああ、そこが一番難しいところだ。可能だが、洗脳でもして思考統制しなければ無理だな」

 

「三下が、あんなコンテナやレーザーを用意できるとは、アヤさん的に考えて思えないんですが」

 

「利用された。と言うのはあるだろうが、思考統制まではどうかな。それこそ、何年もかけてそうし向けないと厳しいだろうな」

 

「文弥の剣を使っても無理?」

 

「勘違いしてるかも知れんが、王を選定する剣(カリバーン)にしても、俺のクラウ・ソラスにしても、本来は人を洗脳する力は無いぞ?王を選定する剣(カリバーン)は、切った物を思い通りにする力だ。久城研璽の力が弱かったせいで、意思のある者しか動かせないが、本来は無機物だろうと自由に動かせる強力な剣だ。俺のクラウ・ソラスは、光を見た者の思考を、一瞬だけ止める力だ。本来は、その間に斬り捨てるんだが、その間に暗示を仕込むことによって、無意識下に働きかけているだけだ。意思の力を無理矢理ねじ曲げるほどの力は無い。それでも、他の洗脳を防御したりと言ったことは出来るがな。どちらも、言うほど万能じゃ無い。大したことない力だ」

 

 王を選定する剣(カリバーン)の使用者の能力不足とは言え、その操作の力を完璧に防いだ力が、大したこと無いかどうかは、神のみぞ知るところだ。

 

「って言うか、専用器ってそんなに沢山能力が付いてるの?私のミストルティンもそうなのかな?」

 

「金鵄教導にあった専用器はどれも強力なものだが、キチンと力が出るかどうかは、専用器に認められて、融合出来るかにかかっている。融合にはデメリットも多いがな」

 

「でも、融合できると、文弥くんみたいに専用器を持ち歩かなくて良くなるんだよね?」

 

「それは、メリットだけどな。っと、話が逸れたな。あの船や港周辺には、文寧が言うところの三下は居なかったぞ?」

 

「兄様。トカゲの尻尾だとわかりきっていても、念の為に追った方がよろしいかと思いますが」

 

「尻尾どころか、見えやすい餌にしか見えないんだが……とっ捕まえて拷問でもするのか?それか、官警にでも突き出すか?どちらにせよ、もっと楽な方法がある」

 

「兄様、船でクラウ・ソラスを抜いた(・・・)のですか?」

 

「ああ、当然。だな」

 

 そう言ってにやりと笑った。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 暗がりの中、仕立ての良い服を着た男達が集まっていた。

 

 光量のせいか、全員がうつむいているせいかは分からないが、一切の表情を見ることができない。

 

 うつむいているのは、顔を隠すためか、それとも先ほどまで投影されていた映像に頭を抱えているのか。

 

「いくら何でも早すぎるだろう。警告を送る前に取り替えされてしまった」

 

「やはり、警告で済ませようなどと甘いことを言うモノでは無いのだ」

 

「偽装されていたとはいえ、戦艦をウラン系燃料ごと一瞬で燃やし尽くすような奴らだぞ?敵対するにしても、いきなり、全力で殲滅に来られるようなのは困るだろう」

 

「誘拐までしておいて、今更だと思うけどねぇ」

 

「あの機材にいくら使ったと思うんだ?失敗どころか悪化させてしまって……全く目も当てられん。だから私は反対したのだ」

 

 ひとしきり騒いだあと、誰とも無く、

 

「ところで、サガクは?」

 

 と切り出した。

 

 全員の視線が、空白の一席に集まる。

 

「アフターフォローだそうだ。アイツも常々ドMだよな」

 

「ドSの間違いだろう。極まっちまって、自傷してるだけだ。オナニーSMだよ」

 

「なんと、業の深い……」

 

「サガクが趣味で仕込んだ、トカゲくんは良いとして、サガクは大丈夫なのか?現場に居たのだろう?」

 

「酸素ボンベをつけて海中に居ることを、現場に居ると言って良いのか分からないけど、現場の近くには居たね」

 

「船の中に居れば、またぞろ船ごと消滅させられかねないからな。今回は、無事だったようだが」

 

「実際、ただのコンテナ船ですからね。あれ以外のコンテナは盗品ですし」

 

「船の回収は無理そうか……?」

 

「さすがにマークされているだろう。諦めるしか無いな」

 

「おいおい、中に手がかりとか残してねーだろうな?」

 

「そこには抜かりは無い」

 

「なら、いーけどよ」

 

「とりあえず、続きはサガクが戻ってからだ」

 

 その言葉に各々が同意すると、後には沈黙だけが残された。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「アーッハッハッハッハ!っ、げほっ、げほっ」

 

 腹を抱えて笑い、最終的にはむせている男を、心配そうに見つめるメイド。

 

 咳の具合を心配しているのだろうか、それとも、頭の方だろうか。

 

「あー笑った笑った」

 

「スティーブン様、どうぞ」

 

 落ち着くのを待って、水が入ったコップを差し出す。

 

 男は、先ほどとはまた違う笑顔でコップを受け取る。

 

「ありがとう。イヤーそれにしても、早すぎやしないかい?彼等がどれだけ準備したと思っているんだろうね?……くふっ、思い、出し、たら、また、笑い、が……」

 

 そうして、また笑い転げる。男。

 

 メイドは、「まぁ、楽しそうだし良いか」とでも思ったのだろう。

 

 転がるのに邪魔にならないよう、ささっとベッドサイドテーブルに置かれたコップを片付けてしまう。

 

「しかし、思ったよりつまらない結果になったネ。相手が悪すぎた……いや、良すぎたのカナ?」

 

「どうでしょうか。私では、あのレーザーの中、ああも平然とはしていられませんが……」

 

「君の力は、そんな暴力的なところで発揮される者じゃないからネェ」

 

「恐縮です」

 

 そう言って頭を下げるメイドの頭を撫でる男。

 

「とにかく、これで種は蒔かれたわけダ。後には引けないってネ」

 

「内政干渉にはなりませんか?」

 

「ちょっとしたイタズラで、どうこうなるほど国というモノは弱くないよ」

 

 急に真剣なまなざしで、答える。

 

 先ほどまで、笑い転げていた男とは思えない変わりぶりだ。

 

「……そうですね」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 一人の男が逃げていた。

 

 行くアテはないが、贅沢さえしなければ、数年は何とか生きられるくらいの金はある。

 

『失敗。対象を取り逃がした』

 

 と、短い内容の入った、差出人不明のメールが原因だ。

 

 どうしてこうなった?

 

 と尋ねれば、自業自得だと皮肉げに返すか、ハメられたと返すか、そそのかされたと返すか……

 

 それは、本人にしか分からないだろう。

 

 本人の正確を鑑みれば、助け出した奴が悪い、何もかも悪い。と言うことになるだろうか。

 

 恨み辛みはともかく、今は必死で逃げる必要があった。

 

 夜半を過ぎ、開いている店舗などは無く、人通りも皆無だ。

 

 なのにも係わらず、目の前から見知った男がやってくるのが見えた。

 

「ひっ、先輩!?」

 

 気の弱そうな生徒であり、憂さ晴らしの対象であり、数年分の生活費、その1/4の出所でもある。

 

 そして、今回の、大元の現況でもあった。

 

「いよう、ちょっと金貸してくれねーか?ちょっと入り用でよ……」

 

 暗がりだからだろうか?恐怖でゆがんでいる表情が、すこし嗤っているように見えた

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ