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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
盛夏戦編 第二章
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盛夏戦編 第02章 第01話 召喚命令

お久しぶりです。

 日本最大の学術研究都市、狡神市。

 

 市内への立ち入りは完全に制限され、中で店を開いている人たちの殆どが《能力(スキル)》の強弱はあれど、《能力保持者(スキルオーナー)》だ。

 

 その中にあって、日本で最もハイレベルだと言われる剴園高校。

 

 どれだけ取り繕っても、《能力保持者(スキルオーナー)》の有用性やその取り扱いから言って、国策学校だ。

 

 学費寮費は完全無料。衣食住が完全に保証されている状況で、更に奨学金として幾ばくかの金が支給される。

 

 剴園高校の末端の生徒が受け取る奨学金は、月にして約3万円。

 

 他校の最低金額は月5千円ほどであるから、さほど高額とは言えないのかも知れない。

 

 これが、剴園高校トップとなると、月50万程の金額となる。

 

 それもこれも、剴園高校が最も優れていると判断されているからこそ。

 

 盛夏戦は、狡神市の、ひいては剴園高校の威信をかけた催しだ。

 

 文弥とて利益を享受しているのだから、義務を果たすのは否やでは無い。

 

 選手として出場するのは確かに断りはしたが、新人戦の出場選手(主にチーム久城のメンバー)に頼まれて、朝夕の練習ではコーチをしていた。

 

 そんなわけで、ただでさえ速い文弥の朝がますます早まる事態となっていた。

 

 朝練に向かう生徒のために、学生寮の食堂だけは開いているが、文弥はともかく他のメンバーは全員女子生徒だ。男子寮の食堂で食べるのはあまりよろしくない。

 

 そのために普段は、自炊をしたり、学校内の食堂を利用しているのだから。

 

 Cafe Roald。

 

 豆と抽出方法にこだわった、珈琲が売りの店。

 

 文弥にしてもお気に入りの店であるが、実はモーニングサービスを行なっていた。

 

 寮での食事と違って、それなりに料金は取られるが、チーム久城のメンバーは全員成績上位で、金銭的に余裕がある。

 

 例えそうで無かったとしても、文弥が全員分払えば済む話だ。

 

 実際のところ、そうしようとしたのだが、澪を除く全員の反対にあい、自分の分は自分で払うことになった。ちなみに澪は、すべての収入を文弥に渡しているため、文弥が払うのは当たり前と言える。

 

 結果的にここ最近は、優雅な朝食だ。

 

「すぐに片付いて良かったですね」

 

「ああ、昨日の忌形種の話か?多ければ週一で発生するからな。そうそう対応できないような強力すぎる個体は出ないし、ここは過剰戦力とも言える戦力が揃っているからな、普通に考えて問題はない」

 

 忌形種の出現とその討伐は、新聞のニュースにもならない。

 

 あえて報道規制している節もあるが、予報も出来ないし、日常茶飯事すぎてニュースにもならない。

 

 一般市民からすれば、戦線に立って命をかけている人がいると言う事実は往々にして忘れられている事実でもあった。

 

 《能力保持者(スキルオーナー)》に対する補助を過剰として反対する市民団体も存在する位だ。

 

 そういった層は一部だとしても、一般市民が入ることの出来ない場所に籠もって怪しげな訓練をしていると言うイメージはどうしてもつきまとう。

 

 その中を公開する盛夏戦という機会は、ガス抜きの機会でもあるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速で動く光の玉が、グラウンドを縦横無尽に飛び回る。

 

 強化系統の女子生徒が、その力を振り回すようにして迫るが、捕まえる段になってするりと抜けていってしまう。

 

 その動きを見計らっていたように、澪が――いや澪の分身の一つが横から光の玉をかっさらう。

 

 ホイッスルが鳴り、試合終了を知らせる。

 

「あーもう!また負けた!」

 

「物理法則無視した動きとかズルくない?」

 

 疲労困憊と言った体で愚痴をこぼす面々。

 

 反面、文弥と共に、試合を眺めていた澪は涼しい顔をしている。

 

 今行なっているのは、ウオーターミラージュの練習だ。

 

 文弥が、光の玉を用意し、澪が敵方を務めると言った構成で練習を続けている。

 

 ウオーターミラージュは、チーム4人で協力し高速で動き回るミラージュを手に入れる競技だ。

 

 先に手に入れた方が勝者となるこのゲームは、必然相手方を邪魔しつつミラージュを狙うことになる。

 

 便宜的に、ミラージュを追いかける、『ハンター』。相手チームを攻める、『ブレイカー』。味方を守る、『ガーディアン』。味方を補佐する『フリーランス』と役割を決めてはいるが、ミラージュに唯一振れることの出来る『ハンター』を除いて、それ以外のメンバーは作戦次第と言うことになる。

 

 逆に言えば、ミラージュを手に入れる以外の勝利条件としては、相手のハンターを潰すことだ。

 

 先に相手のハンターを見つけ出し潰すことが出来れば、そこでも勝利条件は達成される。

 

 作戦と、チームでの連携が試される競技だ。

 

 ちなみに、チーム久城からは優羽が参加をしているだけで、それ以外はAクラスの女子生徒で構成されている。それでも十分な戦力といえる。本来であれば、新人戦なら十分に勝ち進めるだろう戦力だ。

 

 能力者としての格が上だったとしても、どんでん返しがあり得る競技でもあり、チップブレイクに続いて取得ポイントが高い競技でもある。

 

 澪は相手を務めながら、一敗もしていないがそれは高い位置で全体を把握しながら、一人ですべての人形を操ることで完璧な連携を行なっているからだ。

 

 つまり――

 

「《能力保持者(スキルオーナー)》なんだから、物理法則を無視するのは当たり前だ。それを言うならお前等だって《能力(スキル)》を使っているだろうが。お前等が勝てないのは、連携の甘さと状況判断の甘さだ。ガーディアンとフリーランス両方で全体を把握しないと、どっちかが手一杯になった時に、場当たり的に対応するしか無くなる。後、ハンターバレが早すぎる。アレだと、潰してくれと言っているようなもんだ」

 

「っていうか、澪一人で出た方がいいんじゃ……?」

 

「そんなわけ無いだろう。まだ連携が甘いだけだ。ハンターを変えてもう一回だ」

 

 ぶーぶー言う声を無視しながら、振り返る。

 

「生徒会長さん。こっそり背後に忍び寄るのはあまり趣味がいいとは言えないと思うが?」

 

「気がついていたのなら、こっそりじゃないと思うがね。まぁ、それはいいとして……昨日の結果を持ってきた。忌形種のほうが簡単に片づいたからな。オンライン会議で君たち二人の本戦出場が決まったよ。私としては二種目出場と言うことにしたかったけど、それはさすがに反対されてね、久城文弥、君が私と一緒にチップブレイクに出場、久城澪、君は私と一緒にクロスファイアに出場だ。私としては訓練に付き合って貰っている分ウオーターミラージュを推したんだけど、チームとしての連携が崩れると言われてしまってはね……」

 

「じゃあまぁ、早速練習に顔を出しますよ」

 

「いや、二人はこのまま新人戦メンバーの面倒を見てやってくれ。私自身、他のチームを鍛えるのに忙しくてね。合同で練習できる機会はあまりないんだよ。君たちならそれでも大丈夫だろう?」

 

 言って鏡子はにやりと笑う。

 

 さわやかだが、嫌らしい笑みだった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 授業の合間にある短い休み時間。

 

 喉の渇きを潤すため自販機に向かった文弥を、呼び止める声があった。

 

「兄様」

 

 澪だ。

 

「澪か。どうした?」

 

 足を止めて、義妹が追いつくのを待つ。

 

「私もご一緒しても?」

 

「どこに行くのか分かっているのか?」

 

 文弥は誰に告げること無く出てきているのだが、澪にとっては今更のことだったらしい。

 

「自販機ですよね?良くこの時間になると、自販機に向かわれているようですので」

 

 ルーチン化した動きは良くないと常々思ってはいるのだが、こうして第三者から気付かされると気恥ずかしいものがある。

 

 とはいえ、水分摂取はルーチン化しても問題ないかと思い直す。

 

 やくたいもないことを考えながら、同行を許可し、二人揃って歩き出す。

 

父様(とうさま)から連絡がありました。本日、出頭するようにと」

 

「直接俺に言ってくれば良いものを……」

 

「兄様に言っても、気がつかなかった振りをされるでしょう?」

 

「3回に1回位の頻度で、外せない用事が入っているだけだ」

 

「その点、放課後の練習さえ調整いただければ、本日は大丈夫と言うことですね?お手数ですが……」

 

「わかったわかった。こっちに来て一度会いに行ったものの、その時は会えなかったからな。一度会っておくのも悪くないだろう。この間引き受けた雑事の礼も貰ってないしな」

 

「給金なら、指定口座に振り込まれているではありませんか」

 

「あれは謎の振り込みであって、給金では無い」

 

 と、建前上の話をしてお茶を濁す。

 

 ついでに自販機で購入したのも、ペットボトルのお茶だ。

 

 澪は、無糖の紅茶にするようだ。

 

 飲み慣れた筈のお茶が、どこか苦いような気がする文弥だった。

 

 

 

 

 

 

 

 授業がおわり、本日は練習に参加できない旨を優羽達に伝え、合わせて伝言を頼むと、文弥と澪は足早に校門へと向かう。

 

「お久しぶりです、文弥様、澪様」

 

 声をかけてきたのは、秘書然としたパンツスーツ姿の女性だ。

 

 名を、川澄 瞳という。

 

 実際のところ、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)日本支部長、久城厳一郎の第一秘書でもある。

 

「わざわざ、川澄さんが迎えに?」

 

 副音声は、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)の中でも幹部クラスの人間がこんなところで油を売っていてもいいのか?

 

 というか、校門で張っているほど、信頼ならないのか?

 

 である。

 

「最近は部下も優秀で、案外暇なんですよ私」

 

 さらりと、副音声を無視するところも手慣れていると言える。

 

「そうですか。学生を引っ張り出すくらい忙しいのかと思っていましたよ」

 

「後進が育っているようで、何よりですね。

 

 さて、立ち話も何ですからお乗り下さい。練馬までですので、このままお連れします」

 

 長距離であれば、ヘリに乗り継いで移動するのだが、剴園高校は、旧品川のあたりに位置する。高速を飛ばせば、すぐである。ヘリに乗り継いだ方が余計な時間がかかるだろう。

 

 言われて、外見は(・・・)普通の乗用車に乗り込む。

 

 スペックは、軍に配備されている以上のハイスペック品だ。

 

 枯れた安定性能を求める軍と、最新技術を余すこと無く使用する円卓の騎士(ナイツオブラウンド)とのさが、そこにはあった。

 

 どちらが優れているかは、一概には言えないだろうが。

 

 少なくとも、100年以上前に作られた、AK-47を未だに使用している軍からすれば、今配備されている装備にしても十分最新式と言えるのかも知れないし、対忌形種(いぎょうしゅ)において、銃火器など意味をなさないから更新が滞っているのかも知れないが。

 

 

 

 

 

 

 

 ――円卓の騎士(ナイツオブラウンド)日本支部、練馬駐屯地。

 

 元々は、自衛隊の練馬駐屯地があった場所を再利用する形で、購入し利用している。

 

 周囲の土地も合わせて購入し、大幅に増築して。

 

 《大いなる厄災(ノストラド)》で一度沈んだ場所ではあるので、懐事情が思ったほどよろしくない円卓の騎士(ナイツオブラウンド)からしてもお得な買い物だったと言える。

 

 円卓の騎士(ナイツオブラウンド)は、一応は国連の下部組織という(てい)にはなっているが、その実は、独立した忌形種対策組織だ。

 

 本音は別として、国策組織で育て、軍では無く円卓の騎士(ナイツオブラウンド)に所属しても各国不平不満が無いのは、この建前があるからだ。

 

 国に属さず、どの国どの団体からの補助も受けず中立を保つ。

 

 信念はすばらしいが、職員の生活も保障しなければならず、それは個人の財産でどうこうできるわけも無い。

 

 そこで行なっているのが、《能力保持者(スキルオーナー)》の派遣だ。

 

 《能力保持者(スキルオーナー)》が現れる地域はなぜか固定されている。

 

 なのにも拘わらず、忌形種自体は世界中どこにでも発生するのだ。

 

 《能力保持者(スキルオーナー)》が現れる、日本、旧アメリカ地域、イギリス、北欧諸国、旧ロシア地域。

 

 そこで現れ、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)所属の《能力保持者(スキルオーナー)》を有事の際に派遣するのだ。

 

 また、有事の際に備えて、常時派遣することも行なっている。

 

 その代償に、少なくない料金を取っているのだ。

 

 派遣されるが分からしてみれば、たまったものでは無いかも知れないが、必要が無いなら派遣を希望しなければ良いだけと突っぱねられれば、どうしようも無い。

 

 《能力保持者(スキルオーナー)》が現れる国からは、気持ち程度しか受け取っていないことも、大っぴらに批難されない理由であろう。

 

 円卓の騎士(ナイツオブラウンド)からしてみても、無償奉仕は不可能なのだから、仕方の無いことだとも言える。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 練馬駐屯地は、実のところ、本部がある京都本部よりも敷地面積では広い。

 

 そして、日本支部長自身も、本部より練馬支部にいる機会が多いのだった。

 

 練馬支部長涙目と言ったところである。

 

 そんな広大な敷地内を、道交法はもはや関係ないとばかりにぶっ飛ばし、文弥達一行は本庁舎にたどり着いた。

 

 スピードこそ出ていたものの、さすがは、最新スペック。低速運転よりむしろ快適な乗り心地だった。

 

 地面の整地がすばらしいのも多分にあるだろうが。

 

「支部長がお待ちです」

 

 玄関前に、車を横付けると、やや性急な勢いで文弥達を案内する。

 

 車は入り口付近の職員が、回してくれるようだ。

 

 庁舎は敷地内にあり、一般人が出入りすることはできない。

 

 そもそも、日本の法律が適応されない治外法権状態だ。

 

 それでも、文弥と澪がここを訪れるのは初めてでは無い。

 

 こうして幾度となく呼び出されて、立ち寄っている。

 

 小豆島にいたときは、ヘリと飛行機を乗り継いでの移動だったが、こうして車で移動できるようになったのは、時間的にも移動方法的にも楽になったと言える。

 

 そうした経験からすると、庁舎内は少し異様だった。

 

 誰もいないのだ。

 

 訓練のために、ごっそりいなくなる島というのも存在するが、それでも、事務専用の職員というのは存在する。

 

 円卓の騎士(ナイツオブラウンド)は《能力保持者(スキルオーナー)》の集まりではあるが、戦闘に向かない弱い能力しか無い職員は、事務職に就く。そういった職員が、必ず詰めているはずなのだが、今は誰もいなかった。

 

 それが全フロアなのか、このフロアだけなのかは分からないが、異常ではあった。

 

「こちらです」

 

 と案内されたのは、いつも文弥達が厳一郎と顔を合わせる執務室では無く、関係者向けの応接室だった。

 

 珍しいこともあるものだと首をかしげながら、扉を開けると、金髪碧眼の男と、同じく金髪碧眼のメイド服の女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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