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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
盛夏戦編 第一章
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盛夏戦編 第01章 第11話 幕間

 リーガカールトンホテルは、その成り立ち故、歴史とは無縁の建物だ。

 

 一応は、民間経営であるが、その実半官半民と言った形で経営されている。とはいえ、いわゆるビジネスホテルしか存在しない狡神市に、『高官が宿泊するに足るだけの高級感を持ったホテルを』と言ったコンセプトと理由で作られたホテルだけあって調度品は高級品だ。予算の関係上、客室に関しては、《大いなる厄災(ノストラド)》以降に作られた調度品で占められてはいるが、ロビーや、上階にあるバーに併設されたカフェにあるアンティークの調度品は、すべてイミテーションではなく本物だ。

 

 《大いなる厄災(ノストラド)》は、この星からあらゆる物を奪った。それは、家やその中に置かれていた調度品も含まれている。いわゆるアンティークと呼ばれるような、1800年以前に作られたような調度品は、そもそもが稀少であり貴重だ。恐ろしいまでに高級品であるだけでなく、伝手が無いとそもそもにおいて購入できないような代物だ。

 

 ここリーガカールトンホテル43Fにあるカフェは、バロック調の調度品に囲まれた格調高く見えるカフェだった。ただ古いだけでは無く、その作りの良さでもって、高級感を出している。

 

 その高級感がもたらす敷居の高さか、コーヒー一杯5500円(サ別税別)というお値段的な敷居の高さか普段から客は少ない。隣にバーがあるのも、それに拍車をかけているのかも知れない。そちらは、調度品も食器も高級品ではあるが近年作成された物で、値段もちょっと高めのバー程度には抑えられている。低単価のカクテルなどは、いわゆる、『女性とお酒を飲めるお店』より安い程で、こちらは、高い酒も置いてあると言う営業形態なのだった。

 

 そんな客がいないカフェに、調度品と調和するような金髪碧眼の華美な容姿の若い男性が座っていた。対面には、同じく金髪碧眼の女性が座り、風景に華を添えている。遠目からただそれを見たならば、美しい絵画の様であった。

 

「イヤイヤ、この国は忙しいネ。隣国からのちょっかいがあったと思ったら、今度は忌形種か。力に引かれたのカナ?」

 

「ご冗談を。力がトラブルを引き寄せるのであれば、スティーブン様はトラブルメーカーと言うことになります」

 

 交わされる言葉は、日本語では無く、双方とも美しいクイーンイングリッシュだ。

 

「とは言え、彼はトラブルを引き寄せる体質みたいだネェ」

 

「あなたがそれを言いますか?」と言うセリフが喉元まで出かかるが、相対している人物が誰であるかを反芻し、ぐっと飲み込み、代わりに告げたのは別のセリフだった。

 

「救援に向かいますか?」

 

「本来だったらそうしたいんだけどネ」

 

 そう言って、今し方届いたメールを見せる。

 

「大事な客人を戦闘に参加させるわけにはいかない……ですか。文体こそ丁寧ですが、これは……」

 

「うん、そうだね。余計な手出しはするなって事だろうネ。信用されてないってカナ?傷つくよネ。我が国は、友好国なのにサ」

 

 今回現れたのは、2~3メートル級の小型種であるのも彼等を強気にさせる所以なのだろう。忌形種は非常に強力な存在で、5~10メートル程の中型種でAランクを中心に50名規模での戦闘が望ましいとし、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)でもそのように布陣しているが、コレは万全を期し、怪我などを一切負うこと無く、忌形種を確殺するための戦闘力の目安であり、死闘を覚悟するならば、中型種であっても、戦闘に特化したAランクであれば一人で葬り去ることが出来る。ただし、石化などの相手の特殊な攻撃による一撃死や、《能力(スキル)》の相性などにより、苦戦を強いられる可能性があることを考えれば、やはり大人数での殲滅戦が有効なのは変わらない。

 

 それでも、この程度の事で、客人である彼を引っ張り出すのは、何よりもプライドが許さないのだろう。

 

 そこまで、理解をした上で、スティーブンは彼等日本国軍と、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)日本支部の顔を立てることを選択したのだった。

 

「この国は、矜持を重んじますからね。割とまじめに、客人にそんなことをさせられないと、考えている可能性もありますが……まぁ小型種程度であれば、我々が到着した頃には殲滅が済んでしまっている可能性も、無きにしも非ずですね。ここには、優秀な《能力保持者(スキルオーナー)》が多数居るようですから」

 

「まぁ、僕としては彼が出てこないのならどうでも良いんだけどね。戦場には事故が付きものだろう?誤射というモノは意外と多いらしいしネ。いや、残念だヨ」

 

 そう冗談めかして言った後、冷め始めた紅茶に手を付ける。

 

 香りを楽しむなら熱いうちが良いが、飲むとなるとこうして冷め始めた頃の方が好みだった。単に猫舌というわけでは無く、持論ではあるが、ある程度ぬるくなった方がタンニンのうまみを強く感じることが出来るのだ。

 

「どうされますか?先ほどの模擬戦でも、力の片鱗すら見せませんでしたが……」

 

「そうだねぇ、そろそろ次の段階へ行かないと、『彼等』も来ちゃうからねぇ。このまま、『彼』を放置してて大丈夫なのか、見極めとかないと、後でうるさそうだしネ。それじゃあ、ちょっと頼まれてくれるカナ?」

 

御意。(イエス)ご主人様の(マイ)お心のままに(ロード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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