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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
盛夏戦編 第一章
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盛夏戦編 第01章 第08話 大会議

 現在第二演習場では、二年上位クラスの演習授業が行われていた。

 

 内容は、特殊フィールドを使用した、実戦演習だ。

 

 円卓の騎士(ナイツオブラウンド)から特殊フィールドの提供を受けてから、演習授業の質は一気に向上した。

 

 現状、フィールドには人数制限があるため、複数クラス合同で行われる演習授業事態を特殊フィールド内で行うことは未だ出来ないが、危険度の高い組み手などは組み合わせごとに特殊フィールド内へ転送し行うようになった。

 

 また、特殊フィールドへ転送する装置にも限りがあるため、能力制御などの演習は、今までと一切変わらず、壊れても元に戻る特殊素材で作られた演習場内で行い、ローテーションでの使用となっている。

 

 そして、ここ第二演習場で現在行われているのは、前者の方である。

 

 新入生対抗戦とは違い演習授業では、フィールドは演習場と全く同じものに固定される。

 

 特殊な環境が必要となる場合は、その限りではないが、今までのカリキュラムは特殊フィールドなしで組まれており、現状もそのカリキュラムを使用して授業を行っているからだ。違う環境を使用したカリキュラムへと変わるのは、早くて二学期か、遅くて、来年からだろう。

 

 それ故に組手の内容自体は、一切今までと変わらない。

 

 ただ、怪我をすることがなくなり、事故で命を落とす者が居なくなっただけだ。それ自体は、立派な成果ではあるのだが。

 

 しかし、組み手、ひいては実戦演習と言うには、あまりに一方的な光景がそこにはあった。

 

「オラァ!」

 

 声と共に、大柄な生徒が拳をたたきつける。もう何発目になるのかは分からない。

 

 チップのつぶし合いだった新入生対抗戦とは違い、実戦演習では、負けを認めるか、戦闘不能になるかの二択でしか決着がつかない。

 

 外から強制転移も可能だが、一応演習授業の(てい)は整っているため、強硬手段で止めることは出来ない。

 

 セコンドもタオルもないのだ。

 

「オルァ!」

 

 巻き舌気味のかけ声でさらに拳がたたきつけられるが、それを受けた生徒は、吹っ飛ばされることもなく、崩れ落ちるでもなく、そのままの位置でただ棒立ちしている。

 

 数え切れないほどの拳を受けて、全身が痛々しくぼろぼろだ。

 

 ここまでされても、鍛えられた体が、そして《能力保持者(スキルオーナー)》の特性で向上させられた、運動能力と生命力によって気絶することは叶わない。

 

 気を失えないと、戦闘不能とは見なされない。

 

 彼の暴力がもっと圧倒的であったならば、気を失えただろうが、いくら痛いとは言え、ちょっと腕や、足や肋骨が折れた程度ではそれも叶わぬ願いだ。折れた肋骨が臓器を傷つけ、出血量がある一定を超えれば戦闘不能となるだろうが……

 

 研ぎ澄まされた感覚が伝える痛みだけが、鋭く脳を焼く。

 

 誰が見ても、結果は明らかだった。

 

 《能力(スキル)》によって体の動きを止められ、殴られて吹き飛ぶことすら出来ない。

 

 吹き飛べず…そして、体を折り曲げることも出来ず、殴られた衝撃を散らすことが一切出来ない。

 

 加えられたすべての力が、余すところなく身体を打ち据える。

 

 負けが確定しているのであれば、ただ敗北を宣言すればいいだけだ。しかしながら、一方的に殴られている彼が、投了宣言する様子はない。

 

 どうやら、声を発することすら封じられているらしい。呼吸は出来る。しかし、声だけが出せない。

 

 さすがに、敗北宣言させずに一方的に殴っているのであれば、ドクターストップならぬティーチャーストップが入るだろう。

 

 しかしながら、殴られている彼の《能力(スキル)》を考えれば、教師がそのことについて(とが)めることはできないのだった。

 

 彼の《能力(スキル)》は、声の具現化。

 

 自分が発した声を、文字の形で現実に顕現させる能力だ。

 

 ドラ○もんのコエカタ○リンのような能力と言えばわかりやすいだろうか。タ○ルートくんでもいいが。

 

 つまり、《能力(スキル)》で()を封じるのは、第三者から見ても有効な手立てであり、ルール違反でも何でも無いと言うことだ。

 

 相手の《能力(スキル)》を抑えたり、封じたりするのは、戦闘での常識だ。それを孝じたところで文句を言われる筋合いはないだろう。

 

 声を出そうとしても出せない。そして、直立不動のまま、動くことも、ダメージを受けて吹き飛ぶことも出来ないまま、気を失うことも許されず、このリンチはゴングである授業の鐘が鳴るまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 剴園学園敷地内にある、地上80F建ての超高層ビル。通称スカイタワー。その15Fにある貸し切り専用フロアに文弥と澪の姿はあった。

 

 ちなみに、剴園学園とは、剴園高校および剴園中等部、剴園幼稚舎をすべてひっくるめた総称だ。スカイタワーは剴園学園に関係ある生徒全員が使用することが出来る。

 

 食堂の指定席は、その一つ一つが鍵のかかる個室となっており、その広さもまちまちだ。

 

 ただし、目隠しされているわけではなく、間仕切りもドアもすべてガラスで出来ており、中は丸見えだ。

 

 防音にだけは気を遣っているらしく、大声で話さなければ、声が筒抜けになることはない。

 

 その中で一番広い席。ゆうに一クラスまるまる収納できるほどの広さを持つ部屋は、この時期、盛夏戦の運営チームへ優先的に割り当てられる。会議室の代わりに使用するためだ。

 

 盛夏戦の運営チームは、生徒会役員と、その補助である生徒会員で構成されるため、普段であれば、円卓を収納すれば生徒会室で十分事が足りる。

 

 しかし、今回が議題が議題であるため、二、三年生の内定者そのすべてがこの会議に参加している。そうなってくると、生徒会室では手狭になるため、こうして会議の場所が食堂の指定席となったのだった。

 

 会議室として使用するスペースは窓際にあった。

 

 地上15Fと言えばそこそこの眺望が臨める高さなのだが、80Fにある完全予約制フロアであるスカイデッキの通年使用権を持っている文弥にとっては、別段珍しい景色とは言えなかった。

 

 もっとも、上がるのが面倒だと言う身もふたもない理由で、あまり利用することはなく、使用したいというクラスメイトが居たなら適当に貸してしまうことも多い。

 

 ――もちろんそれなりの対価は受け取るが。

 

 文弥は、景色に意識をとられることはなく、泰然と、もしくは悠然とすでに集まっているメンバーを見回した後、部屋の中央へと足を進める。

 

 そして、澪はその後ろを黙して歩く。目を奪われる程の美少女ではあるが、一番最初に目が行くことはない。先ずは、ある意味でただ者ではない雰囲気を出している文弥に目線が向かう。気圧されて、目線を外した先に、澪が居るといった形だ。まるで、その位置関係すら計算されているかのような彼等の立ち振る舞いに、場の雰囲気は完全に飲まれていた。

 

 ところで、この会議。文弥達以外はすべて上級生ではあるため、完全にアウェイである。

 

 それ故に、多少なりとも威嚇は必要だろうと思っての措置だったが、効果がありすぎたらしい。

 

 しかしながら、今更やめるわけにも行かない。

 

 文弥達はそのまま堂々とテーブルの中央に陣取る。

 

 文弥は不敵な笑みを浮かべ、澪はいつも以上に分厚い猫をかぶり、楚々とした表情で文弥の隣に腰掛けている様は、とても下級生とは思えない堂々とした振る舞いだった。

 

 冷静になった状態でその姿を見て、頼もしいと思えるか、生意気だと思うかは人それぞれだろう。

 

 どうやら未だ全員が集まっているわけではないらしい。

 

 文弥の思考は、昼休みまで遡っていた。

 

 円卓の騎士(ナイツオブラウンド)から、盛夏戦に文弥と澪に出場させる命令があったのかどうか、すでに問い合わせてはいるが、現状回答はなされていない。

 

 いかに、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)とはいえ、一枚岩ではないのだ。

 

 他国の支部からの秘密裏の命令だったとしても、組織外である剴園高校は知るよしもない。日本支部からの命令かどうかも分からないのだ。

 

 すぐに返答がないと言うことは、少なくとも日本支部は関知していないと言うことだろうか?

 

 単にまだ調べても居ない可能性もあるが、文弥と澪の重要性を考えると、その可能性は薄いだろう。隠しておきたい理由があったにせよ、すでに露見してしまっているのだから、隠す必要は無いはずだ。

 

 であるならば……

 

(ここは、知的好奇心を満たすために、出場を決める方向に持っていった方が得かもしれんな。どちらにせよ、結果的に出場させられる羽目になりそうだしな)

 

 文弥は、そう胸中で独りごちると、横目に澪を見やる。

 

 表情こそ変えなかったが、目は、

 

「(すべては、兄様にお任せします)」

 

 と、言っているようだった。

 

 五分ほどの刻が経ち、さらに会議室に人が増えて席がほぼほぼ埋まった後、

 

「……さて、全員がそろったようなので、会議を始めようと思う。本日の議題は、そこに居る久城文弥と、久城澪を盛夏戦・選抜メンバーへ加えたいという議題だ。そのため、ここにいる、二・三年の内定者メンバーには二名程抜けてもらうことになる。そのメンバーの選出がこの会議の目的だ」

 

 と、鏡子が口火を切って会議が始まった。

 

 その後の流れは、やはりというか、文弥の予想したとおりの流れとなった。

 

 つまり、本当にそんな実力があるなら、その実力を見せてみろというものだ。

 

 いくら言葉を尽くしても、結局はそこにつきる。

 

 ここに居るメンバーでAランク所持者は二名。Bランクで三名だ。残りはすべてCランクとなる。

 

 文弥も澪も、Dランクの生徒も混じっているだろうと想像していたのだが、ここに居るのは、すべてCランク以上――つまり現状においてすでに卒業資格を持つ優秀な生徒と言うことになる。

 

 そして、剴園高校の教師のほとんどがBランクであるため、すでに五名は教師と同等かそれ以上の力を持っていると言うことになるが、それはまた別の話。

 

 彼等は、文弥と澪が選抜入りすることで、選抜メンバーから漏れる心配は無いが、単純に戦力の減退を懸念し、それ以下のメンバーは単純に自分たちが選抜漏れしてしまう事自体に拒否反応を示している結果だ。

 

 後者の方は、表立って主張出来る内容ではないが。

 

「「彼らの実力が心配だ」と、そういう流れになるのは見えていたからな。すでに手配は済んでいる。私と模擬戦をし、それで彼らの実力を君たちに見てもらおうじゃないか」

 

 と、鏡子が提案するのも、昼休みに打ち合わせたとおりだ。

 

 しかし……

 

「それでは、八百長があるかもしれないじゃないですか。会長が、手加減していないと誰が証明するんです?」

 

 挙手をし、許可を得る前に意義を述べたのは、見覚えのある男子生徒だった。

 

 数時間前文弥が踏みつけた、あの男子生徒だ。あの現場で見かけた口調とは違い幾分丁寧な口調だ。確かに、風紀委員がしっぽを掴めないと言ったのにも納得がいく。うまく粗暴さを隠しているようだ。

 

小幡(こばた)。そこまで言うなら、君が彼等の実力を試したまえ。ただし、君が負けた場合、君の選抜メンバーの席を譲ってくれ」

 

 小幡と呼ばれた、その生徒は、「ぐ……」と息をつまらせるが、周りから、「なるほど……それなら……」などと同調する声が多く、なし崩し的に鏡子の言うとおりになってしまった。

 

 落ちるはずのない生徒からすれば、生け贄は誰でも良く、落ちるかも知れない生徒からすれば、生け贄は自分で無ければいいのだから。

 

「まぁ、減らすのは一人でいいだろう。元々、ぎりぎりのメンバーだったからな、出場種目を調整すれば、問題ないだろう。それで?小幡、お前どっちと戦いたい?選んでいいぞ?」

 

「それじゃあ、妹の方でお願いします」

 

 小幡は、うつむきながらそう答える。

 

 

 

 ――周りから見れば、「余計なことを言ったばかりに、こんな事になって後悔している」ように見えるだろうか。肩をふるわせているのは、悔しさ故に見えるだろうか。

 

 ――この中には風紀委員の生徒もいる。午前中の経緯を知っていてもおかしくはない。

 

 

 

(抑えろ……まだ、笑うな………)

 


 

 彼は、うつむき必死に笑顔をかみ殺した。

 

 隠し切れていないかもしれない。しかし、幸い彼のその様子に気がついた者は誰一人として居なかった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「では、まず小幡宏明と、久城澪が戦い、そのあと、私と、久城文弥が戦う形で模擬戦を行う。新入生対抗戦でも使用した、特殊フィールドを使用しての戦闘になるため、怪我の心配も無いから、思う存分やるといい」

 

 先ほどまで会議を行っていた面々は、演習場へと場所を移していた。

 

 特殊フィールドを使用する都合上の問題もあるが、この戦闘を公のモノにしないための配慮でもある。

 

 ひとつは、文弥と澪が金鵄教導出身である事への配慮だ。

 

 盛夏戦に出場しろと言っている以上、彼等の秘密主義に対する配慮などあってないようなモノだが、それでもできる限りのことを……という事だろう。

 

 さらに言えば、そうしないと、勝敗関係なく文弥が実力を見せることもないだろうという、鏡子の推測が働いたせいだ。

 

 さらに、鏡子がそうなるだろうと考えているとおり、下級生が上級生に勝つなどと言うことは、負けた上級生の為にも勝った下級生のためにも伏せておいた方がいい。

 

 一年生が、入学してまだ半年も経っていない現状であればなおさらだ。

 

 鏡子自身は、自分の評価に関してそこまで固執していないが、公の場で仮に鏡子が負けた場合、彼の身辺はますます面倒なことになるだろう。

 

 ここに居る生徒達が口外すれば、その配慮も意味の無いことになるが、それでも噂でとどまるのか周知の事実として広まるのかでは大きく違う。

 

 噂でとどまってくれるなら、最悪もみ消せばいいのだから。

 

 その他、職員室の不祥事を表沙汰にしないと言う名目など様々な観点から、この試合を公にするわけにはいかない。

 

 その為、完全に締め切られた演習場から、さらに特殊フィールドへ転送。そして、そこの状況を、小さなモニターを通して、全員で観戦するという方式をとることになった。

 

 演習場には、専用の大モニターも用意されているのにも拘わらず、小さなモニターで観戦するのは、念を入れた結果だが、果たしてそれが必要かどうか言及する者はこの場には居なかった。

 

「ああ、それで構わねぇよ」

 

 と、演習用の戦闘服に着替えた文弥が答える。

 

 ランクを表す記章は、Dランクの黄色だ。

 

 ところで、剴園高校において新一年生は、入学試験の結果によってEランクもしくはDランクのランク付けをされる。

 

 例え、Cランク以上の実力を身につけていたとしても、最初はDランクから始まる。

 

 逆にEランクにも満たないような生徒は、そもそもここには入学できない。

 

 他の学校では最低ランクであるFランクでも入学が可能となる学校もある。

 

 しかしながらこれは、入学後の演習授業のレベル分けをするための簡易的なものであり、正式なランクではない。

 

 《能力保持者(スキルオーナー)》のランクは、円卓の騎士(ナイツオブラウンド)が認定する者であり、例え国策学校であったとしても、国が認定できるのではない。

 

 円卓の騎士(ナイツオブラウンド)は、国という枠を超えた組織なのだ。国際法的には国連の下位組織となっているところからも、それがうかがえる。

 

 それ故に、正式にランクが認定されるのは、夏休み明けのランク更新試験の結果如何となる。

 

 剴園高校の生徒は、卒業までにCランク取得することを目標とする。

 

 より正確に言うならば、Cランク取得できない場合は卒業できない。

 

 その場で退学するか、留年するかを選ぶことになる。

 

 剴園高校のレベルが高いと言われる所以はそこにもあった。

 

 Eランク相当でも合格することは出来るが、Cランクに到達する見込みの無い生徒は、そもそも合格することは出来ないし、到達する自信の無い生徒は、剴園高校を受験しない。

 

 それ故に、思ったより伸びしろがあった生徒などが、他校に出現することがままある。

 

 それだけではなく、剴園高校に進学したとしても好成績を修めることが出来るだろう生徒が他の学校へ進学することがある。

 

 それは、剴園高校と他学校のカリキュラムの違いだ。教育方針の違いとも言える。

 

 剴園高校は、いわゆる総合学校だ。《能力(スキル)》もそれに関連する技術も、そして、高校終了過程程度の一般科目も、まんべんなく学習する。

 

 しかし、同じく選抜の対象となる残りの四校は、そうではない。

 

 スポーツや、戦闘、《能力(スキル)》工学と言った特定分野に特化した教育方針となっている。

 

 学校自体が完全特化している例も珍しいと言えるが、通常は、専門課程を設けてそこで特性に合った《能力(スキル)》の使用方法を学び、そして、特性に応じた進路につくのが普通と言える。

 

 すべてのカリキュラムが一般課程のみでしめられる、剴園高校こそが異端だとも言い変えることも出来るだろう。

 

 これは、進学自体は完全受験制とは言え、本格的な《能力(スキル)》教育が始まる前に幼稚舎、中等部と言った形で生徒を受け入れ教育を行っているからだ。

 

 それ故に、単に受験難易度のみで生徒の実力は測れない。

 

 とすると、疑問がわき上がってくる。

 

「なぁ、会長さんよ。色々始める前に、ちょっと聞きたいことがあるんだけどよ」

 

「なんだ?久城。ルールの確認か?」

 

「まぁ、近いかもな。選抜戦の内定者はここに居るメンバーだけなのか?」

 

 そう。他の学校にも剴園高校以上の《能力保持者(スキルオーナー)》が居るはずなのだ。

 

 ちなみに、新人戦の選抜枠は、すべて剴園高校から出すと決まっているそうだ。

 

 出場メンバーを決めるだけで、ドタバタしたのだ。他校と調整しながら選抜メンバーを決定する時間的余裕がない。そのための、規則(ルール)と言うことらしい。

 

 しかし、本戦はそうではないだろう。

 

「ああ、なるほど。他校の生徒も、メンバーにいるだろうと……そう言いたいのだな?

 

 もちろん他校の生徒も居るさ。この場にな。

 

 期末試験が終わった後、選抜メンバーは一時的にここ剴園高校へ通うことになっていてね。チームワーク向上と、こうした事態の時に素早く対応できるための措置なのさ」

 

 全員剴園高校の制服を着ている為、他校の生徒が混じっていることに一切気がつくことが出来なかった。

 

 そもそも、部活動に入っていなければ、年上の兄弟も居ない文弥と澪にとっては、上級生と関わり合う機会など存在しない。

 

 今日初めてと言っても過言ではないくらいだ。他校の生徒が混じっているかどうかなど、分かるはずもない。こうやって聞いた後でも、誰が他校の生徒なのか知るよしもない。

 

 そして、興味も無かった。

 

 この場に一誠が居れば気がつけたかも知れないが、残念ながらここには居ない。

 

 いつも通り、部活の助っ人として忙しく飛び回っているはずだ。確か今日はサッカー部だと言っていた気がする。未来が見えるキーパーなど反則もいいところだろうが……

 

 ここで決定した後、さらに他校の生徒との折衝が待って居るのかと思うと、文弥にとっては非常に頭が痛くなる思いだったのだが、頭痛の種がとれたと言える。

 

「なるほどね。って事は、こんな茶番も一回で終わりに出来るって事か。いいぜ、とっとと始めようじゃネェか。先ずは澪からだな」

 

 そう言って、目線を澪に向ける。

 

 会議が始まってからこの方、澪は一言も発していない。まさに、文弥にすべてを任せていた形だったのだが、その兄に水を向けられてようやく口を開いた。

 

「私の方はいつでも構いません」

 

 そう短く言って、IDタグを取り出した。

 

「ちょっと提案があるのですが。よろしいですか?」

 

 そう言ったのは、小幡だった。

 

「発言を許可しよう。しかし、今更中止などは聞かんぞ?」

 

「いえ、チップバトルのようにチップが壊れたらはい終りじゃあ、実力を見ることはできないかも知れません。なので、この試合どちらかが戦闘不能になるまで続けたいのですが?」

 

「ふむ、久城澪どうだ?」

 

「私は構いません」

 

 鏡子は澪の答えに、満足そうに頷くと、

 

「それでは、この試合はどちらかが戦闘不能になるまで続行することにする」

 

 そう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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