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学術研究都市の能力保持者達  作者: 和泉 和
転校偏 ~闇夜のカリバーン~ 第一章
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転校偏 第01章 第05話 強盗退治

 美味しいデザートに舌鼓を打ち、盛り上がる昔話に花を咲かせ、三人連れ立って寮へ向かう頃には日が傾き始めていた。高層ビルが立ち並ぶ学研都市を、茜色が照らし昼間よりもいっそう眩しさを覚える。国がノストラドに見舞われようと、その後復旧し更に近代的な街に生まれ変わろうと、夕日の色が変わることはない。


 理由もなくどこか物悲しさを誘うそれは、歳を重ねれば郷愁と表現されるのだろう。


 一日の終焉。幼子たちの遊びの終焉。そして、美しい少女と新しい転居者、美しく成長した少女と帰ってきた少年。彼らの出会いと再会の一日も終りを迎える。


 逢魔(おうま)が時。人が魔と出会うのはこんな時間帯らしい。忌形種(いぎょうしゅ)が現れてからは、冗談にならないかもしれない。だが、魔と言うのは忌形種(いぎょうしゅ)だけではない。魔が差した人間もある意味では魔なのだから。


 


 文弥たちは三人並んで歩いていた。アレほど喫茶店で話したというのに、彼らの話題は付きなかった。物悲しいはずの夕日も、今はただただに彼らの影を伸ばすだけだ。


「すっかり遅くなっちゃたわねー」


 夕日を見ながら、伊織がつぶやき、


「文弥くん。引越の荷物とかは大丈夫?」


 優羽が文弥を気遣(きづか)う。


「ああ。荷物はこいつだけだからな。問題ない。ほかは全部吹っ飛んじまったからよ」


 そう言って、ドラムバッグを軽く揺らす。


 優羽は、一瞬「しまった」と言うような表情をするが、「気遣いは無用だ」とばかりに文弥は(かぶり)を振る。それを見て、美羽は安堵した表情へと変わる。


 そんな姿を、意味ありげな目で伊織が見つめていた。にやにやと。


 だからだろうか、それに気が付いたのは伊織が一番早かった。


「ドロボー!誰かっ!つかまえてっ!」


 遠くから悲鳴と女性の叫び声が聞こえ、こちらに向かって女性物のカバンを抱えた男が突っ込んでくる。


 サングラスとマスクで人相は分からないが、おそらくあれが犯人だろう。


 足元には、ローラーブレード。


 だが、蹴りだす様子もなければ、坂道でもないのに高速で移動している。


 なるほど、《能力保持者(スキルオーナー)》によるひったくりのようだ。何らかの《能力(スキル)》で、ローラーブレードのローラーを回転させ移動しているのだろう。原動機付自転車と同程度の速度は出ているように見える。


 声を張り上げで、他の通行人をどかせ、そうでないものは容赦なく弾き飛ばす……などということはしていないが、けがをすることを恐れた通行人が慌てて飛び退いて道をあけている。そうでない場合も、くるくると器用に曲がり次々と躱している。


 あれでは移動速度が速すぎて、飛び込んで捕まえるわけには行かない。


 それに気づくや否や、伊織は手を前に突き出し、


「――《楯縫(たてぬい)》」


 と短く唱えた。


 同時に、ローラーブレードに乗っていた男は()()にぶつかったように吹っ飛んで、地面に倒れ()した。ぶつかった衝撃でサングラスは吹っ飛び、マスクはずれて人相が(あらわ)になっている。


 かなりのスピードで突っ込んだたため、ぶつかった衝撃も、ふっとばされて地面にたたきつけられた衝撃も、半端なものではなかっただろう。


 それでも気を失わず、立ち上がろうとしていた。犯罪者だが根性だけはあるようだ。


 それを見て、


「《楯縫(たてぬい)・イージス》」


 伊織がもう一度唱えると、ひったくり犯はそのまま動かなくなった。表情は焦りで大きく歪んでいるが、自分の意志に反して全く動けないようだ。


 一瞬ローラーが空回りを始めるが、伊織が目を向けるとローラーの空回りも停止し、伊織は「ふぅ」と息をついた。


 ようやく、カバンの持ち主だろう中年の女性が追いついてきた。伊織の横で成り行きを見守っていた文弥は、カバンを拾い上げると、その女性に手渡した。


 文弥にお礼を言おうとする女性を制し、伊織を指さすと、女性は改めて伊織に礼を述べた。


 そこへ誰が呼んだのか、警察が駆けつけてきた。


 警察は、犯人の状況を確認すると、


「協力ありがとうございます。このままでは逮捕出来ませんので、容疑者を動けるようにしていただけますか?」


 と、《能力(スキル)》を解除するよう求めてきた。


 油断。だったのだろう。なんの問題もなく一瞬で犯人を確保し、今は学研都市を任されている警察がそばに居る。油断だったとして、だれも彼女たちを責めることは出来ないだろう。


 警察に請われ《能力(スキル)》を解除された犯人が、その体制のままローラーブレードを転がし突っ込んできたのだ。


 手にはどこからか取り出したナイフが握られており、一直線に伊織と優羽にむかって突っ込んでいく。


 それを視認(しにん)した瞬間、文弥の姿が()き消えていた。


 次の瞬間には、犯人は仰向けに倒れ、気を失って動きを止めていた。ナイフを持った手はそれごと文弥に取られており、よく見ると地面に頭はついていない。犯人の手からナイフを外すと、そのまま手を離す。地面からはかろうじて浮いていたその犯人はそのまま地面に倒れ落ちた。


「脳を揺さぶって気絶させた。多少暴力的な解決方法だが、状況が状況だ。勘弁願おうか」


 そう言って、未だ状況を整理できていない警察にナイフを手渡し、「頭は地面強くぶつけないようにはしました。あとはお任せします」と告げ、硬直したままの優羽と伊織に向き直った。


「チョット油断してた。すまん。大丈夫だったか?」


「ううん。油断してたのは私の方。一気に《イージス》を解除するんじゃなくって、腕だけ解除して先に捕まえてもらえばよかった。助かったわ、文弥。ありがとう。優羽も怖い思いさせてごめんね」


「だいじょうぶ。チョット驚いただけだから。文弥くん助けてくれてありがとう。今のが文弥くんの《能力(スキル)》なのかな?すごかったね。伊織ちゃんも、さすがって感じ」


 さっきの、文弥の姿を思い出しているのだろうか、そう言う彼女の頬は赤く染まっている。空の茜色とは恐らく無関係であろう。


「いや、アレ自体は純粋に身体的な技術だ。《能力保持者(スキルオーナー)》は身体能力が格段に上がってるからな。(はや)く動いて犯人を追い越して、背中から地面に倒れさせただけ。倒れさせる速度が速かったし進行方向と逆方向に力が加わったから脳が揺れて気絶した。と、そういうからくりでな。《能力(スキル)》は使ってない」


 警察の注意が文弥達からそれたのを確認すると、なぜか――文弥の主観だが――固まる彼女たちの肩をたたいて、


「ここにこのまま居ると面倒になりそうだからな。さっさと行こうぜ」


 そう言って、寮への道を歩き始めた。


 


 


 



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